第二章
第30話 みんなでおはなし
高校生活というのは不思議なもので、その生活が楽しければ楽しいほど、一瞬で過ぎ去っていってしまうという。
まだ卒業ってわけでもないのに、時間の流れは速いものだと感じる。入学してから四か月が経とうとしているのだから。高校生活に慣れられるわけがないと思っていたのに、早くも慣れた。
この一か月で、みんなとさんざん遊びまくったりもした。
「なんでそんなジジ臭い顔してんの」
「………それは酷くない?」
「事実を述べたまでである!!」
「……もうちょっと自重っていうものを学んでもらって」
まだ化粧は続けている。自分の顔に誰かが群がってくるのはやっぱり嫌だったから。クラスメイトに眞家波留として接してもらえなくなるのではないかと少し怖かったというのもあるけれど。
あとは、前よりも友人たちに遠慮がなくなってきた。もちろん親しき中にも礼儀ありの範疇だが。家に帰らないで直接俺の家に来たり、明人の家に行ったり。女子の家には行ったことがないが、夏休みには招いてくれるらしい。『もう少し猶予をください』と必死に懇願されたので、困惑ながらもそういうことになった。
「波留くーん!!……と、明人君」
と、涼香が教室の中に入ってきた。付属なになに君いじりは最近のマイブームらしく、「と、波留君」も言われたことがある。
が、一応人の名前を付属で呼ぶのは失礼に値するわけで。先ほど親しき中にも礼儀ありという話があったばかりだし。
「いやそれはやりすぎだろ」
「波留は優しいなぁもう」
腰をくねくねとさせながら明人がお礼を言ってきた。少し、いやかなりイラっと来る。
「名前すら呼ばなくていいんじゃないか」
「そっち!?」
前よりも遠慮せずにボケをかますようになった、それでも俺たちの中で未だに常識人枠の明人は、底抜けに楽しそうだった。
「本当に、以前よりも仲良くなりましたね、みなさん」
「……美波はそんな他人行儀な言い方しなくても。美波も一緒なんだから『みなさん』じゃなくて『私たち』だろ」
「……ふふ、ありがとうございます」
優しく微笑み浮かべる美波に軽く返事をしつつ、時計を見る。昼休み終了まではあと十五分あった。特にすることもなく、あとはただただ雑談をするのみだ。
騒がしくなり始めた教室内の、いつも自分たちが集まっているここで、自分の椅子に全体重を預ける。昨日のバレーがハードすぎた筋肉痛が、全身で訴えている。
「疲れてそうだね」
「………実を言うと撮影と重なってて辛かったりした」
周りに聞こえないように小声で愚痴ると、全員から同乗の視線を向けられた。みんなの前でもやったことがあるが、ハモりやらなにやらでたくさん撮らなくてはならない映像があることと、失敗したときのやり直しの量が多すぎて気が滅入る作業なのだった。
「波留は気合を入れすぎるから毎回無理するんだろ。ま、それだからこそ人気が出るんだろうけど」
「……妥協ってどうすればいいんだよ………」
「波留君脳筋じゃん」
「否定できねえ」
「いや明人が言うなし。俺のことだろ、なんでお前が返事してるんだよ」
わざとらしくため息をついて見せると、明人が声を上げて笑う。「別に俺が答えるも波留が答えるも結局答え変わらないじゃん」ということらしいが意味が分からない。
「俺は脳筋じゃない」
「勉強するときに『とりあえず我慢してやり続ければ成績は上がる』とか言って実は学年一位だった人が何言ってるんですか。私がどんだけ頑張っても二番手でしかなかった理由がやっとわかったんですが」
「……すまん」
「いや、謝る内容じゃないですよ。私は一つぐらい波留さんに勝てるように頑張るので」
美波は良く分からない覚悟を決めているようだった。美波の方が優れている点などいくらでもあるのだから気にしなくてもいいだろうに。
と思いつつも、自分自身も負けず嫌いなので口に出すことはできない。
「今日みんな遊べるー?僕は暇なんだけど」
「光瑠ちゃんは勉強しましょうね。私も予定はないので遊べますよ」
美波は逃げ出そうとする光瑠の肩に手を置き、にこやかな笑みで制止した。ものすごく嫌そうな顔をしながらも、一応光瑠は勉強することにしたらしい。一応。
俺自身も昨日は忙しかったが、それは今日の時間を捻出するためでもあった。
「……俺は大丈夫」
「俺もー」
「あたしは今日はちょっとパスで。今日は一週間に一度の引きこもりデーだからー」
「また春乃夜さんの曲を聴くんですか?」
「愛してるから」
目の前で堂々と言われるとちょっと来るものがある。本人はそういう意図はないんだろうが。『愛してる』は言いすぎだろ『愛してる』は。確かに今まで話している感じでは長いことファンで居てくれたみたいだったが。
普通に恥ずかしい。
「涼香さんはレギュレーション違反で、あとで吊りです」
「そこまで!?」
ということで、涼香は今日はこないようだ。全員で遊べるのを楽しみにしていたが、個人個人にも用事があるから仕方がないだろう。また今度の楽しみに取っておくとしよう。
やはりみんなで過ごしていると時間があっという間に過ぎていく。昼休み終了の予冷が鳴るまで、みんなで一緒に騒ぎながら駄弁っていた。
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