第27話 ボーイッシュとイケメンが転ぶ
結構長いことみんなで遊んで、さすがに夜遅くなり始めたから解散しようということになった。もう既にそれぞれが親たちに連絡しているので、迷惑がかかる心配はない。
部屋の中を少し片づけて、ゲーム機は波留君に聞いて棚の中に入れる。
そこまでは良かった。でも、他の三人は早々と部屋を出たからって『今は波留君と二人きりだー』なんて能天気なことを考えていたから。
足元にあったCDカバーに気が付かなくて、角を踏みつけて痛さに思わず足を引っ込めた。踏み出した足の支えをなくして体の重みを支えられるはずがなくて。
「───ッ!」
僕よりも焦った気配を、一瞬にして纏った波留君の顔が、すぐ目の前にある。
自分の体重がなくなったかのような感覚。そしてそのまま、誰かに支えられる感触。
気が付いた時には、ふわりといい香りがして、僕は波留君に覆いかぶさっていた。その端正な顔立ちがすぐ目の前にあって、額は触れんばかりに近い。全身で波留君に乗っかってしまっていて、思考が追い付かずにそのまま固まる。
っていうか波留くんほんとに良い匂いだな。普通男女逆でだと思うんだけど………。あと結構鍛えてるからかもしれないけどめっちゃ体固い。
僕の真下にある波留君の──………
「あ、ごめんっ」
どういう状況だったかを今更ながら思い出して、慌てて跳ね起きる。体を起こした波留君は「……もの多くてごめん」とぶっきらぼうに小さく言い残して足早に部屋を出て行った。その髪の下から覗く耳は少し赤く染まっていて。
なんで耳が赤いの?僕に対して………?
なんかだんだんと自分も恥ずかしくなってきて、顔の温度が上がっていくのが分かる。心臓がばくばく音を立て始めて、脈打つように体も熱くなってくる。
よく考えてみれば、僕は波留君の上に覆いかぶさって、匂い嗅いで、体固いねーって………。年頃の男女が?
しかも僕が覆いかぶさったのは僕の好きな人。おかしい、なにかがおかしい。
僕のこと、少しは意識してくれたかな。僕のこと女子だって思ってくれたかな。
不安のような、少しのくすぐったさのような、幸せな感情のような。僕にはキャパオーバーだったようで、耐え切れずに部屋に座り込む。
もちろん、僕がいるのは波留君の部屋だから波留君を意識しないことなんてできなくて。息を大きく吸って、吐き出す。
別に大した出来事じゃないから、心臓を落ち着かせないと。ただただ僕が転んで、それを波留君が受け止めてくれただけ、それだけ。
もう一度深呼吸を。
さすがにみんなに迷惑かなと思って立ち上がり、急いで部屋を出る。
「光瑠」
部屋から出たすぐのところ、扉の横の壁に波留君は寄り掛かっていた。未だに恥ずかしそうに薄く頬を染めていて、その顔を隠すように口元に手をやっている。僕と視線を合わせようとしてくれなくて、でも僕も恥ずかしくなって顔を逸らしてしまう。
「まあ、なんだ。……ごめん」
「別に、僕はだいじょぶ」
「……そうか」
波留君が部屋の入り口付近に置いてあったワンショルダーバッグを手早くとって、それを肩に掛ける。階段を下りていく波留君の背中を駆け足で追いかけた。
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心臓が早鐘を打つというのはこういうことだったんだと、初めて知った。
光瑠は友人だからと心に強く植え付けて、無理やりに熱くなった頬を誤魔化そうとする。転びそうになった光瑠を支えた判断は間違っていなかったと思っている。怪我でもされたら俺の精神が持たないだろうし。
思ったよりも距離が近かった、思ったよりも自分が女子に耐性がなかった。ただそれだけのはずなのに。
「……どうした波留。ちょっと顔赤いけど」
「………何も聞くな」
自分が何か不誠実な、不徳なことを考えているようにしか思えない。
居心地が悪いような、無駄に速い鼓動に頭を悩ませながらも帰路に就くみんなを駅まで送った。
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