第17話 まずはおしゃれをしましょう。
「ええと……とりあえず、女子力の話に戻るんだけど」
「はい、武人」
「真里菜さんが伸ばすべきは、『己飾力』……まぁ、まずはメイクと服装からだと思うんだ」
「ふむ……」
僕の言葉に、真里菜が顎に手をやって考える素振りをする。
実際のところ、せめてこの二つだけでも押さえておけばどうにかなるのだ。『顔』、『髪』、『スタイル』、『服装』、『肌』と五つの小項目に分けはしたけれど、すぐに弄ることができるのはそれくらいだ。
加えて、テストの結果では全ての項目においてゼロが並んだが、美しい顔立ちに流れるような髪、柔道家であるがゆえの細身のスタイルに高校生という若さの肌は、現在特にケアの必要がないものである。あくまでゼロを並べたその理由は、項目に対しての取り組む姿勢があるかないかと違いだからだ。
そして、真里菜に足りないものは圧倒的に服装、次点で化粧である。
「しかし、服というのは一般的に高いものだと考えますが」
「……まぁ、そうだね」
「やはり、私の学習机預金を崩す必要があるのですね」
「いずれ、自分で何かを揃えたくなったらそれもいいかもしれないよ。とりあえず、服装についてはこれを参照にしてほしいかな」
タブレットを開いて、そのままインターネットに繋げる。
これは僕が料理をするときになど、レシピサイトを見るために父に買ってもらったものだ。パソコンだとなかなか動かせないという理由で、色々と重宝している。
そんなインターネットサイトで、僕は『おしゃれ女子』と画像検索を施した。
すると、何枚ものおしゃれな服を着た女性たちの写真がずらりと並ぶ。
僕は女性のファッションについては大して詳しい方ではないけれど、こんな風にインターネットに姿を晒しているのはファッションに自信があるからだろう。実におしゃれである。
「この女の人たち、どう思う?」
「ふむ……都会にいそうですね」
「そういうこと。つまり、服装っていうのは『それが人前に出るにあたって相応しいか否か』で決まるんだ。社会にある勝手なルールって思ってくれたらいいかもね」
「なるほど。ルールには従わねばなりませんね」
どうやら納得してくれたらしい。
正直、そんな勝手なルールを押し付ける社会というのもどうかと思うけれど。まぁ、そのあたりは真里菜自身がアスリートということもあり、ルールに対しては厳しく考えてるようだ。
「で、今の真里菜さんは……自分の格好をどう思う?」
「体操着ですね」
「それは外出するにあたって、相応しい格好だと思う?」
「確かに……あまり相応しいものではありませんね。少なくとも、この女性たちと並ぶと非常に浮くと思います」
「うん。多分みんなからジロジロ見られると思う」
そうでなくても美少女かつ日本柔道期待の星だ。人の視線には慣れているだろうけど。
だからといって、服装を怠るのは女子としての心構えが間違っているのだから。
「でもね、簡単にそれっぽい服装をすることはできるんだよ」
「そうなのですか?」
「うん。真似ればいいんだ。この写真の中にある女の人のファッションを、そのまんま。多少の柄の違いとか色の違いはあるにしても、似たような服っていうのは絶対にあるものだから」
「おぉ……!」
真里菜が目を輝かせる。
事実、そうするのが一番簡単だ。現在は、ファッションに悩んだらすぐに検索ができるのだから。
あとはそれを繰り返していけば、簡単にセンスの良いファッションが揃うだろう。
「だから、試しにどれか選んでほしい。どの服が自分に似合いそう?」
「ですが……私に似合うかどうかというのは」
「選ぶときには、自分の髪型とか背格好が似た人を選ぶといいよ。女の子って髪型だけですごく印象が変わるから」
「なるほど」
「真里菜さんの髪型からすると……これかな」
ややセミロングの写真をタップして、画面全体に広げる。
真っ白のカーディガンに、青と白のストライプが入ったトップス、イエローのフレアスカートという実に秋らしい服装だ。残暑は過ぎ、涼しくなってきた今ならば十分な服装だと思う。
真里菜もそんな写真を見ながら、頷いた。
「私には良し悪しがよく分かりませんが、武人の選んでくれたものでしたら、それで」
「いや、その良し悪しを分かってもらいたくて言ってるんだけど……」
「むむ……それは、いずれ分かることなのでしょうか?」
「まぁ、最初は試しにって形でもいいか……ちょっと待っててね」
「はぁ……」
タブレットを持って立ち上がり、そのまま部屋を出る。
さすがに亜由美の服は、小さすぎて入らないだろう。下手をすれば小学生にも見える亜由美と、百六十センチ少しといった真里菜では体格が違いすぎる。
だからこそ、僕が向かうのは父の書斎こと物置である。
そこの段ボールに詰まっているのは、衣装持ちの僕の姉、千葉
亜由美と同じ程度に何もできなかった姉だけれど、ちゃんと過ごしているのだろうか。
ひとまず遠くにいる姉さんのことは置いといて、タブレットを片手に似たような服を探してゆく。
幸いにして、やや柄や色は違うけれど、それなりに似たような服を発見することができた。
「お待たせ」
「え、ええ……それは、服ですか?」
「うん。僕の姉さんが着てたものだから、サイズが合うかは分からないんだけど」
テーブルの上に、服を並べてゆく。
せめて現状、服だけでも直せばかなり良くなるだろう。そして、いざ可愛い服を着た自分というのを姿見で見てもらえば、それだけでも少しは美意識が変わってくれるはずだ。
多分。そう信じたい。
「武人には、お姉様がいるのですか?」
「あ、うん。三つ上なんだけどね。今は大学に通ってるから、一人暮らしをしているんだ」
「そうだったのですか」
「姉さんが勝手に置いてった服の処分に困ってたところなんだ。良かったら着てみて」
「……では、失礼します」
真里菜はそのまま立ち上がって。
おもむろに、体操着のチャックを下ろして、そのまま脱いだ。
その下にあるのは――下着一枚。
「ぶ――――――っ!!!???」
「む? 何かありましたか?」
「ちょっ!? なっ!? なんで!? なんで!?」
「何が、ですか?」
「服っ! 服ぅっ!」
「ええ、服はこれから着ます」
女子力低いとか、そういうレベルではない。
男と二人きりの部屋で、着替えろと言われたその瞬間に脱ぎ出すとか、もう羞恥心が欠片もない。僕のことを一体何だと思っているのだろう。
あと、一つだけ。
腹筋、バッキバキに割れてました……。
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