第40話 盗賊の村
僕らは、彼らが陥った境遇をこの目で確認したく、彼らの住む村に案内をさせた。
始めのうちは、村の者たちは関係ない。どうか許してくれと懇願する彼らであったが、村の者たちには危害を加えない、君らが奴隷落ちの切っ掛けとなった村の現状を、君らの言葉通りなのか確認するだけだ。それと、君らが、僕らに盗賊稼業を働いて奴隷落ちしたことを村人たちに知らしめておかないと、新たに君たちのように盗賊の真似事をして命を落としたり奴隷落ちする者も出るかもしれない。或いは、村人全員が処罰される結果へとなってしまうこともあるかもしれない。それを防ぐためにも、君らが陥った境遇を村人に知らしめることは必要なことだ。それに、君らの中には、家族に別れの挨拶を行いたいものもいるだろう。このまま、僕らと一緒に戦場に行って命を落とすことになっても良いのかななどと、思いつくまま言葉を並べ、村へ案内することは致し方なしと彼らの想いを変えさた。彼らは、僕の
僕らは、村長を始めとする村人に、彼らが陥った境遇を説明した。僕らは各地の戦場に派遣される帝国の傭兵のような存在で、彼らは今後、僕らの手足となって働いてもらうことになると話した。
彼らの家族は嘆き悲しみ、僕らに慈悲を請いに来るものもいたが、この世界の掟に従った斬首とどちらが良いのかと問い質せば、大人しく引き下がっていくしかなかった。中には僕らに恨みがましい目を向けるものもいたが、彼らの強奪行為が成功したら、逆に僕らの命が無かった。貴方は僕が殺され、その後、随行の遥が凌辱されれば良かったと言うことかと問い詰め、元はと言えば、家族が盗賊の真似事をすることを防げなかった貴方の方にこそ責任があるのではないか、と言いくるめ、僕らを恨むのは筋違いではないのかと厳しく言い放ち、下がらせた。
僕らは、村長に今日は僕らが泊まる場所を提供することと、彼らのお別れと僕らへの謝罪の宴を開くことを強要した。始めは、食糧難を理由に渋っていた村長であったが、僕らが所持しているビッグボアとオークを大量に今日使う分の食糧として供出すると、態度が一変した。僕がこの食材を使った料理を村人全員にいきわたる様に配慮するして欲しいと、村人達の前で村長に言い渡すと、村長だけでなく、村人たちも率先して、宴の準備を手伝い始めた。
僕は、マサを始めとした奴隷男衆に宴の準備の手伝いを命じると共に、3人の女奴隷には、僕らの世話と村の中の案内を命じた。
僕と遥は、村人達が宴の準備をしている間、ミキ、サキ、サチの案内で、村の中を見て回った。
畑の作物は貧相で、今にも枯れそうなものばかり、実際、畑から採れる収穫高も例年の半分近く位にまで激減したらしい。収穫高が大幅に減っても、領主に治める年貢は他国との戦争を理由に減らしてもらえなかったので、村の農民は食べるものにも
この村だけでなく周囲の村も同様で、どの村もこの冬を越すことは厳しいと噂し合っているとの話だった。
この村では、村の東側が開墾されているだけで、村の南側から西側一帯は未開拓地として残っていた。村の北側は山あいとなっていて開墾するには不向きであったため、当面の開墾の予定はないものの、いずれは、村の南側から西側を含めた村の周囲一帯を開墾する計画とはなってはいた。しかしながら、未開拓地の開墾には多大な労力が必要となり、現状の畑の耕作で精一杯の村人の労力では、未開拓地の開墾は不可能であり、村の南側から西側の一帯は全く手付かずな状況であった。
僕は、ミキに村長を重要な話があるのでここに連れてくるように頼むと共に、サキには、マサもこの場へ連れてくるよう命じた。
「村長、この村の南側一帯を僕らの奴隷に開拓させるので、その使用を認めて欲しい。労力は僕らの奴隷達だけでさせるので、他の村人へ新たな負担は求めない。新たに収穫できた作物の半分は村に還元させよう」
「我々だけでは開拓できなかった場所なので、開拓すること事態に問題はありません。しかし、マサ達8人がこちらの開拓に掛かり切りとなると、今までの畑の農作業を行う労力が足りなくなります。まして、新たに開墾する場所からは当面農作物が出来ないでしょうから、彼らの食糧も必要となってきます。今の村の現状では…」
「僕らはこの先に展開されている戦場に請われて参戦する予定の者だ。マサ達は僕らに盗賊稼業を働き返り討ちに合い、斬首する予定のところを彼らの懇願により、戦場での肉壁として使うべく奴隷として受け入れた。僕らの拠点の一つとしてここの開墾に彼らを使おうと思ったのだが、村長が否というのであれば致し方ない。戦場につれていくとしよう。今夜は彼らとの最後の別れを惜しむが良い」
「…」
村長は、一瞬、返す言葉に窮する。
「お待ちください。是非、南側の開墾をお願いします。彼らの食い扶持もどうにかしますので、お願いします」
「村長」
マサが声を挙げる。
「村長に快諾いただけて良かった」
僕は、一言、村長に言葉を返すと、振り返り、遥と一言、二言、言葉を交わす。 僕らは、荒れ地に向かって魔力を行使した。遥も僕と同様に魔力を行使する。
先ずは農地予定地域にある石や岩を土魔法で次々と浮かび上がらせては破砕する。
僕が荒れ地に向かって右側を、遥が左側担当する。
「遥、合わせろ」
「んっ」
続けて、僕らは大地の土を回転させ混ぜ合わせる魔法を行使した。
「「グランドトルネード」」
荒れ地の土が竜巻状に回転をし始め土が交じり合う。僕は遥と場所を替えながら、手分けし、荒れ地の土をひたすら混ぜ合わした。
僕らの魔法の行使により、村の南側にあった荒れ地は、その姿を大きく換えていった。
「「…」」
村長とマサはみっともなく口を開け、茫然自失な様子で変わっていく村の南側の荒れ地だった場所を、
「何これ、信じられないですけど…」
とミキ。
「あ、ありえない…」
とサキが呟く。
「魔法ってこんなこともできるんですね」
ミキとサキに較べ幼いサチは普通に感心する。
「「ムリムリ、普通は無理」」
サチの言葉を否定するミキとサチ。
「マサ、この辺りで枯葉が大量にある場所に案内してくれ」
僕はマサに声を掛け、枯葉が大量にある場所へ案内してもらう。
僕らが持っている異次元収納袋に森の枯葉を大量に詰め込むと、農地予定地に枯葉を大量にばらまき、再び、魔法で大地をかき混ぜ、落ち葉と土と混ぜ合わせる。そんな作業を繰り返し続けていると日暮れが近づいてきた。
僕と遥は37m四方(一反)周りに土を固めた畦道を造り上げた区画を100個ほど造り上げた。2区画おきには用水路を作り上げ、各区画の1辺は必ず水路と接するようするなど、畑への水遣りを含め農地の耕作が容易にできるよう、効率性を考えながら造り上げた。
昔、何かの本で、四角形の均一に並べられた畑と不正形な畑が乱雑に配置されている畑では、同じ面積であっても、畑の耕作に必要な作業時間が大きく異なってくる。特に、機械化が進むと、その差は顕著となるといった記述を思い出し、そこを参考にして、整地して造り上げていった。
「マサ、明日から畑を頼むぞ」
「は。ですが、戦場の方は」
「戦場の方は僕と遥で事足りる。それよりも、この畑を成功させることの方が有用だ。頼んだぞ、お前たち」
「「「「御意」」」」
夕方から始まった宴は、村に供された多くの肉の所為か村人達の顔に笑顔をもたらした。余った食材は村で有効に使うよう伝え、僕と遥は、程々のところで、宴の場を辞し、村長から与えられた部屋で早めに休みをとった。
翌日、僕と遥は、マサ達に、じゃがいも、大豆、トウモロコシの種を分け与えると栽培方法を伝えた
村では、殆ど麦だけを栽培しており、他の品種は作っていなかった。
僕と遥は、僕らが造った畑から、ジャガイモ、大豆、トウモロコシが食べられるのを楽しみにして、この村を出発し、戦場に向かった。
異世界召喚されたら奴隷だった… 燿(あきら) @akila-idemitsu
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