第36話 聖女シルビアの臣民救済活動

 侍祭のアイリカからは、ヨースケ殿とハルカ殿の二人は先ずは王都北側の地区から救助活動に入るとの念話が届いた。

 私とアイリカは互いに念話で話をすることが出来る。アイリカは狐の魔獣が人化した私の使い魔なのだが、他の人達にはこの事を秘密にしているので、その事実を知る者はほとんどいない。そこで、表向きには、私のそば周りの世話をする侍祭として、日頃は動いてもらっている。

 私は、アイリカからの念話に即座に了解したとの意思をアイリカへ念話で返した。


 私達は、近衛隊と警護隊から拠出を受けた人員を連れ、先ずは王都の北側地区へ向かった。

 

「貴様ら、また、我らを無視する気か。男爵家であるゴーリキ家のに逆らうつもりか。旦那様からも一言お願いします」

「其方たちの力を我がゴーリキ家に貸してくれ。実は先ほどの揺れで、息子が怪我をしてな。何でも其方たちは治癒魔法が使えるとか。礼ははずむぞ。頼む」


 私達が北地区へ到着すると、貴族家らしき者とめているヨースケ殿とハルカ殿の姿が見えた。


 ヨースケ殿とハルカ殿の傍にいた私の侍祭のアイリカから事の経緯を念話で聞き取った私は、すかさずその場へ割り込む。

「私はミッシェルクラン教会で聖女の称号をたまわっているシルビア・クレスタ。彼らは、皇帝陛下から臣民救済の勅命ちょくめいを受けた私の直属の配下として、市井しせいおもむき直接臣民救済活動を行っています。その邪魔をするということはゴーリキ男爵殿は皇帝陛下の意向に逆らうというのですか?」


様…⁉」

 ゴーリキ男爵が驚きの表情でこちらに振り返る。


「そうですか。分かりました。ゴーリキ男爵家のとやらを陛下にお伝えしましょう」

 私は強引に話を進め、ゴーリキ男爵を追い詰める。


「も、申し訳ありません。ひ、平にご容赦ようしゃを。このような平民が陛下の勅命を受けていたなぞ知らなかったのです」

「つまり、平民に対しては何をしてもいい。それがゴーリキ男爵家のというものなのですね」

「めっ、滅相めっそうもございません。そのようなことは…、何卒、ご容赦を」

「ん~、そうですね。もし、陛下の勅命である臣民救済活動にゴーリキ家が総力を挙げて取り組むのであれば、つまり、平民と共に救済活動を積極的に行うことがゴーリキ男爵家のとするのであれば、ゴーリキ家が陛下のご不興ふきょうを買うこともないでしょう」

「す、すぐに、すぐに、我が男爵家の総力を挙げて王都臣民の救済活動に就かせていただきます。例え平民と一緒であっても…、何卒なにとぞ、何卒、寛大なご処置を」

 私が、強引に話を押し進めた結果、ゴーリキ家の全面的な救済活動への協力を取りつ付けた。勿論、ゴーリキ男爵の息子さんの怪我については治癒魔法を私自ら行使することを約束し、あめを与えることも欠かさない。


「あ、ありがとうございます」

 ゴーリキ男爵からは、ホッとした様子でお礼を言われた。


 私の真摯しんしなお願いを聞き入れてくれたゴーリキ男爵を始めとして、『我らも…』とせ参じた街の自衛団や自発的に集まった手伝いの人々を、皇帝シュナウザーの名のもと 取りまとめると、避難所の確保と避難民の誘導、そして、避難所の警備巡回作業など、それぞれが組織だって機能するよう、次々と指示を出していった。


 その間、私に付いてきた救護班の人達には怪我人に対する救護活動を行わせると共に、兵士達へは被災地周辺の巡回、取り残された怪我人の救出活動などを行わせた。

 こうして、北側地区の救済活動は一定の目途がついた。

 

 続いて、私達はヨースケ殿とハルカ殿が向かった東地区へ向かった。

 ここでは、自警団と教会が救助活動を積極的に行っていた。


「ヨースケ殿、ハルカ殿」

 私は二人の姿を見つけると、二人に声を掛けた。


「北地区は大丈夫そうでしたか」

 ヨースケ殿は先ほどの北地区の状況を尋ねてきた。


 私は、ゴーリキ男爵の助力のお陰で取り敢えず北地区の人手が足りたこと、そして『街の平民をどれだけ助けるかで貴殿の進退が左右されるかもしれません。くれぐれも他の救助活動者の行動を阻害したと言われることのないことを願っております』と強く釘を刺したことを二人に伝え、神の導きに感謝した。

 

「シルビア様、マグダレナ司教の命で、聖女シルビア様の偉業のお手伝いを

命じられました。どうか、シルビア様と行動を共にすることをお許しください」

「キース司祭、よく来てくれました。ご助力感謝します」

「シルビア様、既に東地区の教会は避難所として、門戸を開き、負傷者の治癒を行っていると聞き及んでおります。どうか、我らにも神の御心みこころに答える栄誉をお与えください」

「キース司祭、有難う御座います。治癒術師が不足しておりました。また、治癒術師達を護衛する者も必要としていたところでした。これも神のお導きなのかも知れません。あなた方の深い信仰に感謝申し上げます。ご活躍を期待しております」

 こうして、ミッシェルクラン教会の治癒術師と神殿騎士が聖女シルビアの一行に加わった。


「お嬢様、遅れてもうしわけありません。我らも、お嬢様のお手伝いをさせてください」

「セザンヌ、お父様はご存じなの」

勿論もちろんでございます。御館様はご自身が表に出れぬなか、臣民救済の任にあたるお嬢様のことを大変褒めておりました。クレスタ伯爵家総力を挙げてお嬢様の手伝いに当たる様申し付かっております。シルビア様、如何いかなることでもやらせて頂きます。我らを、存分にお使いくださいませ」

「感謝いたします。お父様にも事が治まりましたら、お礼に伺いましょう。では、セザンヌ頼みますよ」

 

 私は、応援の人員を送ってくれたマグダレナ司祭とお父様に感謝した。

 ミッシェルクラン教会としても、我がクレスタ伯爵家としても、増援による政治的な影響はそれなりにある。

 特に、我がクレスタ伯爵家はお父様が皇帝シュナウザーがラインハルト帝国皇帝に即位した後、宰相の地位を更迭された経緯もあり、政治的に微妙なところがある。

 しかしながら、今は人手が足りない。私は単純に人員の増援に感謝した。


 こうして、シルビアの実家であるクレスタ伯爵家の家臣団が聖女シルビアの臣民救済団一行に加わった。


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