第34話 人工呼吸
僕らは、東地区はシルビア達に任せ、南地区に移動した。
ここでも、僕らは消火活動と被災者の救出を中心に動き始めた。
「ギルー、リイナー」
母親らしき女性が炎が上がる家を見つめながら、泣き叫ぶ。
「
母親らしき女性が
「僕が行きます。遥は外から消火を頼む」
「分かった、気を付けて」
僕は、魔素を身体全体に循環させ、防火対策を施すと炎が燃え盛る家の中に飛び込んでいった。
魔素を身体中に循環させると、身体能力が上がるだけでなく、何故だかは分からないが防御力も上がる。火事による炎位なら、僕の身体が損傷を受けることはないだろう。僕は家の中を進みながら、所々で、誰かいなか声を掛け子供たちを探す。しかし、子供達からの返答はない。
『無事だといいんだが…』
心の中で呟きながら、そのまま、家の奥へと進む。
「ヒック、クッ…」
家の2階へ上がったところで、子供の泣き声ようなものがかすかながらにも僕の耳に聞こえてきた。
「お兄ちゃん、怖いよ」
3歳くらいだろうか小さな女の子が5歳くらいの男の子に抱きすくめられながら、泣いている。男の子は悔しそうにその目に涙をためながら女の子を強く抱きしめている。
「よく頑張ったな」
僕は、二人に声を掛けると、子供たちを両腕に抱きかかえた。
「外に出るぞ」
男の子は無言ながらも頷き、女の子は僕の胸に顔を押し付け、再び泣き続けた。
そんな僕達に炎を
「アイスウォール」
僕の呪文を受け、氷の壁が出現し、崩れかかって来た壁と火の粉を弾き散らす。
少年は突然現れた氷の壁に目を見張り、少女は相変わらずぐずりながら僕の胸の中に顔を埋めている。
僕は、そんな二人を抱きかかえながら、炎が燃え広がる家の中を突き進む。そして、二人の子供たちと一緒に僕は家の外へ飛び出した。
「ギル、リイナ⁉」
先程、泣き叫んでいた女性が駆け寄ってくる。僕は抱きかかえていた二人の子供たちを地面に降ろすと同時に、女性が子供たちに抱き着く。
「ママ、怖かったよ」
女の子が女性に抱き着きながら、涙声で訴える。
男の子は僕の方へ振り向き
「お兄ちゃん有難う」
「よく、頑張ったな。炎の中で妹を守る姿はかっこよかったぞ」
「ウヮーン」
僕の言葉に男の子は泣き出してしまった。
対応に困った僕は少年の頭を何度か撫でながら、傍に居た侍祭のアイリカに助けを求めた。アイリカは少年を上手に
「ド、ドッ、ドッドーン、ダ、ダッ、ダッダーン、ドッドーン、ゴロロロロ」
遠くの方から地響きのような音が鳴り響く。
『崖が崩れ、村の中まで土砂が流れ込んでいる所がある』
使い魔のクーからもたらされたの情報に僕らは、
「…。シルビア様へ南地区の現状と土砂崩れの情報をお伝えしました。シルビア様は間もなく南地区へ来られる模様です。この地区のことはシルビア様の方で対応されるとのことで、土砂崩れに遭った村の救出をお願いしますとのことです」
侍祭のアイリカの言葉を受け、僕らは土砂崩れに飲み込まれた村に急行した。
王都から少し離れた山の斜面の
「遥、先ずは、探査魔法で人がいないか確認してくれ。僕は、土魔法で土砂を除去する。被災者を発見次第、保護と状況によって簡単な治癒。この流れで行こう」
「分かった」
遥は了承の意を示すと探査魔法を発動する。
「アイリカは、被災者の避難誘導を。それと、シルビアに連絡して、救護班の派遣と避難所の設営を頼んでくれ」
「分かりました」
「娘が、娘が、この土砂の下に…」
「誰かお願い。娘を助けて」
土砂が掛かり、潰れ掛けている家の傍で、泣き叫ぶ若い男女の姿が見える。
僕が、遥の方に視線をやると、遥は頷きながら、ある一点に視線を向ける。
どうやら、視線の先の土砂の中に娘さんが埋まっているようだ。
僕は慎重に魔法を駆使して上から順に土砂を退けていく。
土砂の隙間から子供の服らしき布が現れる。
「ミリア」
若い女性が子供に呼びかける。
その時、若い女性の傍にいた男性が土砂に向かって突然走り込んできた。
その男は土砂の隙間から見える布の傍に駆け込むと、土砂を掻き出し続けた。男の手の爪からは血に塗れた土が
男が
「ミリア」
男は女の子を抱きしめ叫ぶ。
女の子は息をしていなかった。
「ミリア」
若い女性が、駆け寄り、男から小さな女の子を奪いさると、しきりに女の子へ呼び掛ける。
何度、女の子の名を呼んでも、女の子からの反応はない。
「ミリアァ…」
若い女性が泣き叫ぶ。
僕は、泣き叫ぶ若い女性と女の子を最初に抱きしめていた若い男性に、僕の祖国に伝わる心肺蘇生法を行えば、
横からは、遥が治癒魔法を盛んに繰り返し
「リザレクト」
突然、後ろの方から
しばらくすると、女の子の胸が上下に動き出す。呼吸が正常な状態に戻っていくかのように吐息まで聞こえてきた。そして、青白かった
「ヨースケ殿の
聖女シルビアの美しい声が響き渡る。
「ヒール」
遥の治癒魔法に、女の子の目がうっすらと開かれる。
「ミリア」
終始、女の子を心配し続けた。若い男女が女の子の
「ミリア…」
若い女性は涙を流しながら、改めて女の子を抱きしめる。
「おかあさん」
女の子はか細い声で答える。
「ありがとうございました」
若い男は目から涙をあふれさせながら、僕らに頭を下げていた。
「全て聖女シルビア様のお力です」
とだけ僕は答えると、遥と一緒に他の生存者の救出に向かった。
一方、聖女シルビアは、他の被災者の救護と避難所の設営を行うべく、陣頭指揮を執っていた。
僕は、その後、何人もの土砂に埋まった村人を助け出した。
しかしながら、内2人は既に呼吸が止まっており、僕は家族の了解を得て、それぞれ心配蘇生法を施した。
その内の一人はおばあさんで、僕の懸命の努力も
もう一人は
僕は男性が意識を取り戻した安心感からか、人工呼吸の時に男性の髭が
僕が盛んに口許を
「あ、ありがとうございます」
「お、お父さん、助かって良かった」
その男性の奥さんのお礼の言葉と子供の安心した様子を見て、少し口許の不快感が薄れた気がした。
意識を取り戻した男性は
「お礼は聖女シルビアへ」
との言葉だけを残して立ち去った。
遥は、その場を立ち去った後も仕切りに口許を気にする僕を見ながら、ほくそ笑んでいたので、僕は遥の唇をいきなり奪い、口直しをした。
その後、何故か遥も口許を気にし出したので、思わずほくそ笑んでしまった。
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