第35話 聖女シルビアの悔恨

 私は、皇帝シュナウザーに呼ばれ、今、謁見の間にいる。

「シルビア、”迷い人”の様子はどうだ」

 皇帝シュナウザーから、下問かもんくだる。


「二人とも順調に力を付けているかと…」

 取り敢えず、無難な答えを返す。


「うむ、先日のコロニアル城塞都市攻防戦でも、アストリア王国軍撤退の立役者であったと聞いている。迷い人を召喚を成功させた其方そなたの功績は大きいぞ」

 皇帝の言葉に、ヨースケとハルカを異世界から私達の世界に、”無理矢理呼び出した”という己の罪に身がふるえる。


「身に余るお言葉」

 想いとは別に差し障りのない言葉を吐く私。自分の口から出た言葉でありながら、自己保身でしかない己の言動に身の毛がよだつ。


其方そなたにも何か褒美ほうびを用意せねばな」

 更に続く、皇帝の言葉に私は意を決する。


「有難き御言葉。陛下、この場をお借りして、伏してお願いがございます。彼ら迷い人の待遇たいぐうをもう少し良いものにしていただけないでしょうか。待遇を良くすれば、彼らの活躍に更にみがきがかかることでしょう。陛下の大いなるご慈悲じひを…」

「う、うむ…」

 あと、もう一押しすれば・・・


「陛下、奴隷を甘やかせば付け上がるだけです。聖女殿もお優しすぎるのも如何いかがなものかと」

 おのれ、クラウド、皇帝に取り入り父上を追い落としただけでなく、ヨースケ殿達の折角の待遇改善の機会を邪魔してくるとは…

 全く余計な口を挟みおって、宰相の立場にいるくせに人の痛みが分からぬのか…

 父上に全く及ばない愚物ぐぶつめ。


 ガタ、ガタガタ、タ、ガタン、ガタン、タン、ドッ、ドオ、ドーン。


 謁見の間に激震が走る。

「何事だ」

「「陛下をお守りしろ」」

 突然の激しい揺れに、謁見の間に緊張が走る。

「何事だ、至急、確認し報告せよ」

 近衛隊長の指示が飛び交う。


『これは、召喚の古文書こもんじょに記されていた災害の一つ、地震だ。やはり、異世界からの召喚は召喚された土地に災いをもたらすのだろうか…』

私はつぶやく。

「陛下、これは、いにしえに聞く地震という災害かも知れません」

 私が行った召喚の儀式の所為せいで王都に災いが訪れたのだろうか。せめて、私が率先して臣民を救わなければ…

「私に臣民救済しんみんきゅうさい御下命ごかめいを。また、私に”迷い人”の二人をお貸しください。慈悲深い陛下の名声を城下に広めて参ります」

 私は心から陛下に頭を下げる。


「陛下、この大地を揺るがすこの揺れが地震という災害かどうか分かりませんが、速やかに陛下自らが事態の収拾に動いたとの実績を作れば、”迷い人”を召喚したがゆえの災害といううわさぬぐい去ることができます。聖女様が速やかに動かれることに、陛下の利得りとくはあれど、損失はございません。ここは聖女様に動いて頂いては」

「うむ、分かった。ではシルビア頼んだぞ」

「クラウド、今回のこの揺れに関する情報をシルビアに集まる様、万事ばんじ手配せよ」

「御意に」


 ***


 謁見の間を出たシルビアは従者の待合室に控えていた侍祭のアイリカに、先ほど起きた大きな地震よる災害に対しての救済活動を皇帝陛下から命じられ、ヨースケ殿とハルカ殿にも私の手伝いをしてもらうこととなった経緯を話した。 

 アイリカにはヨースケ殿とハルカ殿に私の手伝いして欲しいことを二人に伝え、シルビアと連絡が何時でも取れるよう二人と行動を共にするよう命じた。


 私はヨースケ殿とハルカ殿のことをアイリカに頼むと、近衛隊長と警護隊長のもとに、今回の災害に対する救済活動の応援依頼に訪問した。

 しかし、近衛隊長からは、

「陛下の安全が第一だ。市井しせいの者のために出す人員など、我々近衛隊にはない」

と素気無く断られてしまった。


「陛下の勅命であり、陛下の名声を広げるための名誉の臣民救済活動なのに、そこに近衛隊の兵士が一人もいないなんて、あとで、私が何度もお声を掛けなかった所為だなどとは言わないでくださいよ」

「…、陛下の安全が第一なのは我々の使命だ。陛下の護衛以外の職務に人を割き、陛下の身を危険にさらさせるようなことはできない。なれど、聖女様に何度も請われたのであれば、ましては陛下の勅命、多くは出せないが協力させていただきましょう」

「ありがとうございます」

「勅命を成し遂げたあかつきには、陛下の勅命の遂行に、我々近衛隊が大きな貢献を果たしたと、是非、聖女様からも陛下にご進言を…」

「…」

などのやり取りの結果、近衛隊からは3名の人員を出してもらうことができた。


『たった3名で大きな貢献などと、どの口が言えるのでしょうか…』

 私は気を取り直し、次は、警備隊長の執務室へ向かった。


 警備隊も近衛隊と同様で、

「この非常時に出せる人員などある分けないだろう」

と付け入るすきも見せぬ、剣もほろろな態度ではあったが、

「陛下の勅命であり、陛下の名声を広げるための名誉ある臣民救済活動なのに、そこに警備隊の兵士が一人も参加していないなんてなどと、あとで、非難を受けても、いえ、私が何度もお声を掛けなかった所為せいだなどとは言わないでくださいよ」

「そうは言っても、非常時の厳しい折ではあるが、陛下の勅命ということであれば、喜んで兵をだしましょう。我々の果たした大きな貢献を陛下に聖女様からも宜しくお伝えください」

「…」


 この結果、警備隊からは1部隊20名のほか、救護班副部隊長以下16名の人員の拠出を受けることができた。


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