第26話 王女の想い

「ところで、どういった状況になれば、私を解放してくださるのかしら」

 ネターニャ王女が僕に尋ねる。

「アストリア王国軍が撤退、あるいは、撤退しそうな状況となった段階かな」

「まぁ、攻城兵器は壊されちゃったし、集積所の食糧や武器も大分燃やされちゃったみたいだから、戦線をこのまま維持し続けることは不可能に近いわね。そうすると、撤退か、この城塞を占拠して食料と武器を確保して余力を得るしかないけど、攻城兵器がないとこの城塞都市の占拠はかなり難易度は高いわね。…でも、もし、あなた方が内通して私達に協力してくれれば、十分可能かも…」

「それは無理だな」

「即答ね。ラインハルト帝国への忠誠心かしら、それとも、あなた達の矜持きょうじか何か?」

「そんなものはない。むしろ、ラインハルト帝国など滅んでしまえとは思っている」

「ならば、何故? 私たちに協力してくれたら、報酬だってはずませてもらうし、我が国への亡命だって受け入れるわ。決して悪い様にはしないと誓うわよ。私、アスタリア王国第三王女ネターニャの名にかけても」

「僕らにとって、大変魅力的な提案だが、これの所為せいでラインハルト帝国を裏切ることが出来なくなっている。残念な限りだ」

「隷属の輪⁉ 主人は誰?」

「皇帝シュナウザー」

「それは…」

「まぁ、運が悪かったと思って俺達に協力してくれないかな」

「協力ったって、しょうがないわね。どうせ、私に選択肢は無いようなものでしょうし」

「悪いな」

 この後も僕とネターニャ王女と話し合いは続いた。


 王女は身分を隠し、僕らが雇った傭兵兼小間使いと偽装して、僕らのテントに留まってもらうこととした。

 一様、身バレを防ぐため、王女様の髪をバッサリと、少年と見間違えるほどに短く切ってもらった。更に、トラブルの未然防止のため、女性と分からないよう顔も布で覆い隠して生活してもらうことにした。


 僕らは、軍事機密に関する部分はお互いに触れないという紳士協定の許、お互いに情報交換を行った。

 僕らが召喚された経緯とその後の王城での暮らしぶりのこと、アスタリア王国から見たラインハルト帝国侵略戦争の経緯と諸外国の状況など、様々な事について、情報交換と意見交換を行うことができた。


 遥は僕と王女の会話を黙って聞いていたが、僕が席を外したタイミングで王女に話し掛ける。

「王女様は好きな人はいないの」

 いきなり王女様に恋バナを吹っ掛けた。


「い、いきなり、何を」

 王女様が動揺する。


「だって、王女様の恋愛事情とか気になるじゃない」

 遥も本来の女子高生という年頃を考えれば興味ある話題なのかも知れない。


「わ、私は、王女だ。王族の婚姻は国益と将来性をかんがみて、国が決めた相手と行うことになる。私情をはさむ余地はない」

 王女様は本音を隠し、建前で答える。


「わっ、寂しい。じゃ、国が決めた相手ならどんな嫌な奴でもいいんだ。例えば、いつも嫌らしい目で見てくる不細工なデブとか、陰険で貧相な顔のせ男とか、何人もおめかけさんがいる禿はげで顔が脂ぎっている中年親父とかでもいいの?」

「い、いや~、ちょっと、そういうのは…」

 遥の突っ込みに、建前を保つことができず、本音が漏れ出すネターニャ王女。


「実際に結婚するかは別のして、王女様の周りでこの人ならいいかなって人いないの?」

「私は王女だ。そのようなうわついた心など持たぬ」

 取り敢えず、強がってみる王女。


「ふーん、じゃあ、不細工なデブとか、貧相な陰険ガリガリ男とか、脂ぎった禿親父とかでもいいんだ」

「だから、それはちょっと…」

 やっぱり、本音を漏らす王女。


「ん~、じゃあヨースケはどう? ヨースケはすごく優しいよ。 王女様は行方不明っていうことで、私たちと一緒に第二の人生ってどう? 私、王女様のこと気にいっちゃった。」

「確かに、ヨースケ殿は素敵な殿方だが、私は王女としての責務を放棄するつもりはない。それに、我がアスタリア王国にだって、素敵な男性はいる」

「へぇー、どんな人」

「わ、私の幼馴染だ。乳兄弟なのだが、彼は、若くして、王国で5本の指に入るくらいの剣の腕前を持つ程の努力家で、軍略にも秀でており、今までのアスタリア王国軍の快進撃ははっきり言って彼なしで成し遂げることはできなかった。それに彼は私にとても良くしてくれるし、何と言っても彼は私に凄く優しい」

「へぇー、なんて人」

「ジークハルト、彼はジークハルト・ウルナード。ウルナード子爵家の嫡男だ」

「その人とは結婚できないの?」

「ジークハルトは子爵家なので、王女の私とは身分が合わない」

「エッ、王女様、身分とかで差別しちゃうんだ」

「そ、そのようなことはない。只、王族の婚姻は国家に利益をもたらせられるような婚姻でないと認められない。子爵家では、王女との婚姻による国益を考慮した場合、対象外となってしまうのだ」

「えー、結構シビアね。じゃ、王女様は彼と結婚できないんだ」

「まず、できない。彼がアスタリア王国の救国の英雄とでもならない限りは…」


 二人の会話はその後も続いたのだが、女同士の恋バナに僕のいる場所は無かった。

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