第24話 捕縛

「ドーン」

 閃光せんこうが走り、爆音が響き渡る。

「前線の方だ」

「何だ、夜襲やしゅうか?」

「取り敢えず、こちらは大丈夫そうだな」

 閃光と爆音に警護の兵士達の間に一瞬の緊張と動揺が走る。


 前線の方へ気をらした兵士達の隙を付き、人影が荷車の集積所に近付く。

「食料だけでなく、武器もあるな」

 人影は独り呟くと、集積されている荷車のうち、中心部にある荷車の数台を自身の亜空間倉庫に取り込む。換わりに、油の入った革袋を周囲にまき散らすと、上空に炎をまとった十数発のたまを生成させた。

「何だ、あれは⁉」

急に周囲が明るくなったことに驚き、警備の兵士たちが騒ぎ出す。

 上空に生成された炎の弾はゆっくりと降下していき、油をかぶった荷車に当たると、勢いよく炎を上げ燃えだす。またたく間に、荷車を集積していた辺り一面は火の海になった。


「火事だ。火を消せ。水を持ってこい」

 辺りは騒然となり、警備の兵士が右往左往と動き回るも、火の勢いは衰えることなく燃え上がる。

「ドッ、ドーン」

 兵士達の消火活動は全く功を奏せず、油を含んだ荷車のうちの一つが爆発炎上を起こし、大きな爆発音が響き渡った。


「あの方向は?」

 急に明るくなった方向を見上げ、ネターニャ王女が問い掛ける。

「第3集積所の方向かと」

「二手に分かれる。ジークハルト、5人程引き連れ、第2集積所へ迎え、私は第1集積所に向かう。近衛は私について来い」

「王女、危険です」

「近衛がいる。心配ない。頼むぞセレナ近衛隊長」

「お任せを」


「ここが2か所目」

 第3集積所から上がる火の手の様子を受け、第2集積所の警備陣は慌ただしく動き廻っている。

「警戒を怠るな」

 兵士達の掛け声が上がる。

「ドッ、ドーン」

 第3集積所の方から、再度、爆発音が上がる。

 一瞬、爆発音の方に注意を向けた兵士たちの隙をつき、荷車が集積された場所の奥に人影が入り混む。

 荷車の集積所に入り混んだ人影は油の入った袋を辺りにき散らしながら、数台の荷車を自身の亜空間倉庫に取り込む。

「おい、今、あそこにあった荷車が消えなかったか」

兵士の一人が消えた荷車を目にし、騒ぎ出す。

「やべぇ」

 人影は一言呟くと、慌てて十数発の大きな火の弾を上空に生成させる。

「おい、あの火の弾は何だ」

 生成された火の弾はゆっくりと降下すると、荷車に当たると大きな炎へと変わり、次々と荷車に燃え移った。辺り一面が火の海と化す。


「遅かったか」

 第2集積所に到着したジークハルトの目の前で、炎上し始める荷車を見て、一言、声を漏らす。

「警備兵、周りに怪しい人影がないか。確認をしろ。それと、消火隊の役割を与えられた者は未だ延焼していない荷車をこの場から退避だ。消火活動はその後だ」

 第二集積所では、燃え上がる炎の中、ジークハルトの怒声が響き渡っていた。


「ドーン」

 第2集積所から上がる爆音が響き渡ると同時に、燃え上がる炎が夜空に照らし出される。

「ネターニャ様、第2集積所の方です」

「ジークハルトは間に合わなかったか。まだ、第1集積所は無事だな、おい急げ」

 ネターニャ王女一行は第1集積所へ急ぎ向かう。


「さて、ここで最後だな」

 思わず、呟きながら、騒然とした集積所に近付こうと進んでいく。


「動くな。貴様の所属と名前を申告しろ」

「えっ、あ、私は、只の通りすがりで、決して怪しいものでは」

「思い切り怪しいではないか。アスタリア王国軍の徽章きしょうも付けず、襲撃が続く集積所付近でのその怪しい動きとその言動。集積所の襲撃犯は貴様だな。攻城兵器の襲撃は陽動か?」

「あれ、攻城兵器の方に注意が向いて、こちらは手薄になっていると思っていたのに、よくお分かりで」

「私は、アスタリア王国軍総司令のネターニャだ。名を名乗れ」

「えっ、総司令、もしかして王女様?」

「名を名乗らんのか」

「ヨースケと言います。しがない盗賊です。王女様」

「攻城兵器を破壊し、糧秣りょうまつに火をつけておいて何を言う。貴様、帝国軍の密偵か」

「嫌々、只の通りすがりの火事場泥棒です」

「ふざけたことを! お前には聞きたいことがある。抵抗は無駄だ。おい、捕縛しろ」


「ドッ、ドーン」

 ヨースケが背にしていた荷車がある集積所の上空から炎弾が次々と撃ち込まれ、炎が上がる。

 上空には大きな鳥の姿とその背に乗る一人の女性の姿が見える。

『遥、ナイスアシスト』

 ヨースケは独り心の中で呟くと、速やかに動き出した。


「うっ、仲間がいたのか」

「ネターニャ様、大丈夫ですか」


「ドッ、ドーン」

 続けて、他の集積所の荷車が爆発した音がこちらまで響き渡ってくる。


「ネターニャ様」

 ヨースケは次々と響く爆発音と燃え出す集積所に気を捉えていたいたネターニャ王女一行の隙をとらえ、ネターニャ王女の背に廻り込むと、ネターニャ王女を後方へ強引に引っ張り出し、その首筋にやいばを当てた。

「クッ、貴様」

 王女ネターニャが思わず、声を上げる。


「おい、ネターニャ様を放せ」

 近衛たちが騒ぎ出す。


「形勢逆転ですね、さあ、道を開けてください。王女様の顔に傷を付けても良いのですか」

 ヨースケは首筋から王女の美しい顔の頬に刃を異動させ、周りを威嚇いかくする。


「おのれ、卑怯ひきょうな…」

 近衛たちから声が漏れる。


「さあ、王女様、ご命令通り、捕縛しましたよ。ご褒美は何ですかね」

「お、お前に言ったんじゃない。部下たちにお前を捕縛するように言ったんだ。自分で、自分を捕縛しろ、などと言う分けあるか」

「またまた、素直じゃありませんね。王女様は捕縛願望があるのですね」

「な、何を言っているんだ」

「では、ご褒美は王女様自身ということで」

「なっ…」

 突如、漆黒の狼が現れ、近衛達がひるんだ隙に、王女を抱ええたヨースケがその狼の背にまたがる。

「うわっ」

王女から悲鳴が上がる。


「待て、ネターニャ様を放せ」

「ドッ、ドーン」

 上空から再度、炎弾が降り注ぐ。

「ウワッ」

 後には、近衛達の悲鳴が響き渡っていた。


 騒ぎた立てる近衛達を置き去りにして、王女をさらった男を乗せた漆黒の狼の姿は、既に見えなくなっていた。

 








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