第17.5話 阿倍遥4

 こちらの世界でヨースケと過ごし始めて半年位過ぎただろうか、突然、私の嫌いな騎士アーノルドが、また、からんで来た

「貴君らは、1週間後、隣国との戦場に派遣されることが決まった。皇帝シュナウザー様のご期待に沿う働きをするように」

 また、馬鹿なことを言い始めた。この騎士アーノルドという奴は頭がおかしい。

『何故、私が戦場に行かなければならないのか?』

『皇帝シュナウザー、誰だ、そいつは?』

『何故、私が縁も所縁ゆかりもないシュナイザーとかいう奴の期待に沿う働きをしなければならないのか?』

『本当にこの男、アーノルドは頭のおかしなことばかり言う』

 私は思わずムッとして、気持ち的にアーノルドへ罵声ばせいを浴びせてやりたかったが、ここはグッと我慢した。大人の対応だ。私はできる女だ。

 別に隷属の輪を使われるのが怖いからではない。

 ないったら、ない、絶対ない。とにかくない。

 あくまでも、大人の対応をしただけなのだから…

 例え、隷属の輪の呪文を唱えられったって、怖くはない。多分…


『ヨースケ…』

 何故か、身体が震えてきた。目から水のようなものがにじみだし、頭の中が真っ暗になる。


『怖いよ。ヨースケ…』


 それから1週間の間、ヨースケと買い物をして過ごした。何故か、買うものは、武器や防具のほか、食糧や医薬品などで、私の好みと合わないものばかり…

 でも、ヨースケとのお買い物は楽しい。たまに、ヨースケに我儘言って、買い食いするのはもっと楽しい。


 でも、気が付けば、私は、何故か、戦場にいた。

『解せぬ…』


 私は、ヨースケと二人で火炎魔法で炎弾を10発づつ生成し、敵陣に向け、広範囲に打ち込む作業を20回繰り返しさせられた。流石に20回も繰り返すと、私の残存魔力は大分少なくなったが、それよりも、敵側の混乱具合は酷かった。


 私の眼の前には、死屍累々と横たわる焼け死んだ敵側の兵士達のしかばねが並んでいた。戦場の燦々さんさんたるむごたらしい惨状さんじょうを目の当たりにした途端、私の身体は、自分の意志で動かすことが出来なくなった。


『私の放った魔法で死んだ。目の前の惨状は、私が殺した兵士達のむくろが生み出した地獄絵図だ…』


 目の前に広がる死屍累々と横たわる骸から、私が人を殺したというまがいのない事実を、私の心が理解してしまった途端、目眩めまいが止まらなくなり、目の前が暗くなった。

 私は気が付けば地面に手を付き、繰り返し嘔吐おうとしていた。

 しばらくして、ヨースケが、私の身体を抱き締め、嘔吐えずく度に私の背中を優しくさすり続けてくれた。


『ヨースケは、本当に優しい』


 それに比べ、あのアーノルドは本当に嫌な奴だ。

私達が身体を動かすことができない状態となり敵陣へ切り込めなかったことに、いちいち文句を言いに来た。

 私たちの炎弾による連続攻撃で敵側の士気をくじいたことで、帝国側の勝利に繋がったというのに…

 事実、他の諸将は一言も文句など言わず、むしろ感謝の言葉しか述べてなかった。アーノルドは本当に器の小さい男だ。

 挙句の果てに、騎士アーノルドは

「そんなもろい精神では兵士としては三流だな」

などと意味不明なことを言い放って、去って行った。

 本当にアーノルドは、頭が悪い。私達は帝国の兵士ではない。しがない学生なのだ。あなた達の悪だくみの所為せいで、今は致し方なく戦場にいるだけだというのに…


 翌日、アーノルドからの命令で、結局、敵陣へ剣を持って突撃させられた。

 人を切った感触が剣を通じて、私の手に伝わってくる。肉を切る感触が、骨を断つ衝撃が…

 気が付けば、私は剣を振るうことができなくなり、戦場でうずくまっていた。

 ヨースケに支えられながら、自陣に戻って来たものの、剣で人を切り殺した感触から一向に抜け出すことが出来ず、私はヨースケと抱き合いながら、再び嘔吐を繰り返した。気が付けば、ヨースケと二人してゲロまみれに成っていた。

 そんな私達を見て、帝国の兵士達は「ゲロゲロの勇者」と呼んでいた。

『私たちはカエルじゃないのに、プン、プン、:・プン( ̄▽ ̄)』

 

 昼間は人を切った感覚が抜けず、身体が震え、夜は殺した人達の顔が脳裏のうりに浮かび、眠れない日々が続いた。


 ヨースケはそんな私の背中を優しくさすりながらなぐさめてくれた。

 しかしながら、私の身体は食べ物を受け付けなくなってしまったようで、ヨースケが食べ物を城の地下の小部屋で二人きりの食事の時のように、食べ物を口移しで食べさせてくれるのだが、暫くすると、胃が痙攣けいれんを起こし、戻してしまうことが度々あった。

 私にとって、この戦場は正に”地獄の戦場”だった。


 ようやく、戦場での軍務ぐんむが終わり、城の地下の小部屋に戻ってこれた。


 地獄の戦場から離れたためか、食事の後、食べた物を戻すことは無くなってきた。しかし、目をつむると殺した兵士たちの顔が脳裏のうりに浮かび、怖くて眠れないことが多かった。眠ることができた時でも、夢の中で私が殺した兵士達が恨めしそうな顔をして出て来た。私は十分な睡眠を取ることが出来なくなり、段々と、全ての事に気力を持つことができ無くなっていった。


『もう、何もしたく無い、何もかもが面倒くさい』

 これが、私の正直な気持ちだった。


「遥、身体を綺麗にしようよ。せっかくの美人が台無しだよ」

ヨースケが話し掛けてくる。


「ヨースケが、私の身体を拭いて」

 私はそのままヨースケに身体を預けた。


「…、ゴクッ」


 ヨースケののどの辺りから変な音が聞こえた。

 ヨースケは私の服を少しづつ、脱がせ始める。

 始めは背中に冷たい感触が走り、ヨースケが丁寧に私の背中を拭いてくれていた。背中に触れるヨースケの手の感触が心地よく、とても気持ちが良い。このままずっと触れていて欲しい。何か胸もドキドキしてきたような気もする。

 いつの間にか、ヨースケの手が私の前の方に伸びていた。続けて、私の胸の辺りを拭き始める積もりのようだ。私は緊張で身体の動きが固まってしまう。そして、ヨースケの手が胸の辺りに伸び、私の胸に軽く触れた瞬間、


「ウッ、ウーン」


 思わず、変な声が出てしまった。恥ずかしさのあまり、顔が熱くなるのが自分でも分かる。私、男の人の前にその身体をさらし、男の人の手で直接身体を拭いてもらっている。私は何をしているのだろう。顔だけでなく、身体中までが熱く火照ほてってきた。


 その時、いつも優しいヨースケが、突然、豹変した。気が付けば、ヨースケはけだものになっていた。

 私はヨースケに強く抱きしめられ、蹂躙じゅうりんされてしまった。


☆☆☆

 

「ヨースケが私の初めての人」

 私はヨースケに触れられるのがとても心地良かった。私の肌がヨースケの肌と直接、接しているととても安心する。心が安らぐ。

 私はヨースケのとりこになってしまっていた。もう、ヨースケ無しでは生きていけない。ずーっと、ずーっとヨースケと一緒にいたい。何時までもヨースケと触れ合っていたい。


「ヨースケ、好き、好き、大好き」

 そのあと、またヨースケと肌を互いに直接触れ合わせ合い、ヨースケ成分を沢山吸収して、私は幸せな気分になった。


 私は1週間近く、ヨースケと二人切りで愛し合った。汚らしい地下の小部屋が幸せな二人の空間に変わっていた。


 私の肌は、1週間で艶々つやつやになっていた。

 でも、何故かヨースケはやつれ果てた顔をしていた。








 

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