第19話 三度目の戦場

 3度目の戦場は籠城戦となっている城塞都市の援軍だった。


「わがコロニアル城塞都市への助力感謝する」


 このコロニアル城塞都市を守るマグカート・コロニアル辺境伯から援軍に対する僕らへの謝礼の言葉から、現在の戦況に関する状況説明が始まった。


 この戦場は皇帝シュナウザーの命を受けて派遣されたラインハルト帝国第八方面軍司令官のバーサーク将軍が隣国へ攻め込んだことを発端に開戦した。

 戦端を開いたバーサーク将軍は、アスタリア王国軍相手に連戦連勝を重ね、一時は両国の国境を越え、アストリア王国の城塞都市ベンランドまであと一歩というところまで攻め込んだ。

 しかし、ここで、アストリア王国軍の徹底抗戦にい、結局は、城塞都市ベンランドを落とすことができなかった。

 それだけでなく、バーサーク将軍は、城塞都市ベンランド攻防戦のさなか、アストリア王国第3王女ネターニャ率いる部隊が戦場に参戦しているのに気が付くと、ネターニャ王女をとらえようと、自らの直属部隊を率いて、王女のいる部隊に急襲を仕掛けた。

 しかしながら、逆に、ネターニャ王女率いる部隊の副部隊長であるジークハルトとの一騎討ちで返り討ちに遭い、バーサーク将軍はおろか、従軍していた副司令官共々、あっけなく戦死してしまった。

 ラインハルト帝国第八方面軍は、愚かにも、司令官のバーサーク将軍と副司令官を同時に失うという失態をさらし、統制を執ることができなくなってしまい、大混乱におちいっていた。

 後詰あとづめに控えていたマグカート辺境伯はラインハルト帝国第八方面軍がおちいった危機を察し、帝国第八方面軍司令部となっていた第八方面軍本陣まで、わずかの護衛を引き連れ、騎馬で乗り込み、バサーク将軍に代わり、帝国第八方面軍の陣頭指揮を執って、混乱する第八方面軍を何とかまとめあげ、帝国軍のなし崩し的な崩壊を防いだ。


 しかし、勢いを失った帝国軍は、アスタリア王国軍有利の戦況の流れを崩すことはできず、続けて攻め続けるアストリア王国軍の激しい攻勢の前に、撤退に撤退を重ねることしかできなかった。

 遂には、国境沿いの帝国領内の砦まで撤退することとなったのだが、国境線と国境沿いにある帝国領内の砦を、死守することも出来ずに、更に攻め込まれてしまい、アストリア王国軍を帝国領内に侵攻することを許してしまった。


 結局、ラインハルト帝国軍は、コロニアル辺境伯領の領都にあるコロニアル城塞都市まで、アスタリア王国軍の激しい攻勢により、撤退することを余儀なくされた。

 そして、ラインハルト帝国第八方面軍とコロニアル辺境伯領軍は、コロニアル城塞都市に籠城して、アスタリア王国軍の果敢かかんな攻勢を何とかしのいでいるというのが現状であった。


 現在の戦況は、敵国のアスタリア王国軍2万が正面に布陣しているほか、右翼と左翼にも、それぞれ1万づつのアスタリア王国軍が、その布陣を展開しており、コロニアル城塞都市に滞在している帝国第八方面軍と辺境伯軍を併せたラインハルト帝国軍1万5千では、アスタリア王国軍を押し返すことは、厳しい状況に陥っていた。


 敵軍は攻城兵器の準備も着々と進めており、このまま推移すれば、明後日辺りには、この城塞都市に向けての総攻撃もありうる状況が差し迫ってくるのではないかと感じられる程危機的な状況に陥っていた。


 僕はまず、夜襲でアスタリア王国軍の混乱を図り、総攻撃の時期を遅らせることを提案したが、辺境伯からは色よい返事をもらうことは出来なかった。

 ならば、辺境伯が考える作戦をたずねてみると、明日、早朝、僕達の火炎魔法による炎弾を何百発と敵陣に撃ち込むと共に全軍で討ってでる作戦を提案してきた。

 僕は火炎魔法による先制攻撃に難色を示すも、騎士アーノルドが僕らの初陣で、火炎弾400発近くの連弾による魔法攻撃の後の一斉突撃により、快勝した事例を持ち出し、辺境伯の作戦を後押しした。

 その結果、僕達の火炎魔法による炎弾を僕と遥で200発づつ、計400発を敵陣に叩き込むと同時に、全軍で討ってでる作戦の決行が今回の軍議で決まってしまった。


 僕は初陣で計400発の炎弾を敵陣へ撃ち込んだ後、敵兵の黒焦げたしかばね死屍しし累々るいるいと戦場に横たわっていた初戦の光景が脳裏のうりに浮かび、身体から冷や汗が流れ出るのを禁じえなかった。

 ふと、遥の様子が気になり、彼女に視線を向けて見れば、彼女の顔はみるみるとあおざめていった。

 遥も僕と同様のことを思い出していたのか、その身体は小刻こきざみに震えていた。

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