第18話 二度目の実戦

 次の戦場も小国との小競り合いが続く戦場だ。

 僕達をこういった戦場で実戦経験を積ませ、より激しい戦場へ投入していくことが既定路線として策定されているようだった。


 敵側は疲弊ひへいした帝国軍の様子を見て、戦況を一挙に有利に運ぶべく攻勢を掛けてくる作戦を模索している感じだった。

 各諸将が集められた軍議の席で、総司令官から僕らに対し、この局面で僕らの力を効果的に使い、かつ、この戦場に適した作戦案があれば披露ひろうしてくれと求められたので、僕は敵方の攻勢をうまく誘導して相手方をせん滅しやすい地形に誘い込む”一時撤退囮包囲殲滅作戦”を提案した。

 僕の提案に対し、軍議に参加していた各諸将は

「作戦通り包囲殲滅できれば良いが、敵の勢いに押され、そのまま攻め込まれたら誰が責任をとるのだ」

「敵に背を見せ、わざと一時撤退するような卑怯ひきょうな作戦は認められない。戦とは真正面から攻め、ひたすら前進あるのみだ」

「若造の作戦など認められるわけないだろう。我らは何年この戦場で戦ってきたと思っているのだ」

などと、僕らに作戦案の提案を求めてきたくせに、求めに応じて提案した僕の作戦案を代案も示さず、ただ、ののしってきた。

 そこで、

「では何か代わりになる良い案はありますか?」

と僕が代案を求めても、良案はないらしく、積極的な意見は出て来なかった。

 今の状況では正面から迎え撃っても、敵軍を押し返せる可能性が乏しいことは、現在の戦況と兵士の士気の状態から明白であることは、各諸将も共通の見解であり、結局、良い代案は出てこなかった。

 仮に正面から迎え撃った結果、戦局が膠着こうちゃく状態あるいは一時的に敵側に押し込まれた後の戦略はどうするのか、あるいは、砦に籠城した場合のその後の戦略、特に救援部隊の有無、籠城後の展開を訪ねるも、列席の諸将は押し黙ったまま、今後の展望を持てる作戦に繋がる意見を出すことが出来ず、押し黙ってしまうだけであった。 

 改めて、僕の作戦により戦局を打開できる可能性を説明すると共に、この戦いに勝利した場合、功績を得る可能性が高い待ち伏せ部隊の選定を諸将達の各部隊から選び、一番役どころの難しいおとり撤退部隊の指揮を僕らが、そして実際に危険にさらされやすい部隊員を傭兵たちから起用することを提案した。

 そしてこの作戦を採用し、負けたならその失敗は僕らの所為せいにすればよく、逆に成功させることができれば、敵を多く打ち取った待ち伏せ部隊を率いていた各諸将の戦功となる。更に、この作戦の性格からして、僕達の囮部隊のほかは、先走って敵陣へ突撃した待ち伏せ部隊などが現れなければ、各部隊が壊滅する恐れは極めて少ない作戦であることを軍議の席で説いた。

 更に、強力な戦略兵器となりうる僕らがこの戦場に居られる時間は限られており、このままじりじりと戦況が厳しくなっていく状況を受け入れていくのか、そして、折角の戦功をあげれる絶好のこの機会を逃すのかと強くせまったら、あっさりと僕の作戦案が採用された。


 僕らは敵側にファイアボールでの専制攻撃を仕掛け、突入するも力負けし、撤退する役回りを演じた。

 撤退時は、部隊が傭兵達の寄せ集めだったのが幸いしたと言って良いのか、見事な程、散り散りになりながらも、予定していた撤退ポイントに向かって、一目散に退却していく様子は、適度に敵側の攻撃意欲を刺激していった。

 僕らは退却部隊を程よく援護しながら殿しんがりを務め、作戦通り僕らを深追いしてきた敵兵士達を、見通しが悪いS字上に曲がった道に誘い込みながら、戦列が長く伸びるよう退却のスピードを調整し、今回の作戦で求められた撤退ポイントへ敵兵を上手く誘導した。

 誘い込んだ道沿いに潜んでいた味方側の諸将たちの各部隊は、総司令官の合図と共に、ここぞとばかり敵側に奇襲を仕掛け、各戸撃破していった。

 僕は待ち伏せしていた味方側陣営が攻撃に入ると同時に自陣へ走り込み、遥と二人で戦いでの疲れをいやすべく休養した。

 暫くすると味方側勝利の一報が届き、続けて、各諸将たちの怒涛どとうの活躍の様子が伝えられた。

 僕らはほとんど自らの手を汚すことなく敵側の兵の殺戮さつりくを他の諸将達に押し付けることに成功した。

 他の諸将達は、結果として戦功を得られ、武勲ぶくんを称えられるので正にWIN・WINの関係になれた。僕と遥の精神的安定が保つための代価が、他人に戦功を譲ることで済むなら正に安いものと言えた。

 最も、ラインハルト帝国からの戦功なんて僕らは欲しくもない、むしろ、出来る事なら帝国を滅ぼしてやりたい位の気持ちなのだから…


 夜は戦勝のうたげが開かれた。参戦した諸将達は上機嫌だ。僕はそんな諸将達に今回の勝利は

「貴殿の部隊が怒涛どとうの進撃を行い敵兵をほふった結果だ。さすが帝国の精兵だ」

とあちらこちらで彼らを持ち上げ、め上げた。

 これで、こちらの心象が良くなり僕らの足を引っ張ることがなければ、本当に御の字である。

 遥は相変わらず詰まらなそうにしていて、各諸将から話し掛けられても、本当に塩対応だ。僕はそんな遥の対応をほろうしながら、相手方のご機嫌を取るのに、結構、忙しい。

 でも、遥のほろうのためであったとしても、僕が遥のそばを少しでも離れると、更に不機嫌となり、うたげに参加している他のメンバーと要らぬ争いを起こしそうになったりする。はっきり言って僕の心労は半端はんぱない。

 遥は駄々をこねる子供のようだ。

『遥さんお願いですから、僕の負担を無暗むやみに増やさないでください』

などと、思いながら、その後始末で奔走ほんそうするため、幾ばくかの間、遥の傍を離れてしまった。


すると、

「ヨースケが私の傍に。お願い、私を捨てないで」

と遥のそばに戻った時、泣き付かれてしまった。

 寂しくて泣き付いてくる遥も可愛いと思いながら遥の頭を撫でながら慰める。

「僕の行動のほとんどは遥のために動き回っているのだから心配しないで」

ささやきながら…


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