第17話 初めての夜

 初めての戦場という狂気渦巻く場にいる感覚と大量殺人を犯したという事実に僕たちの精神はとてつもなく疲弊ひへいしていた。

 

 僕は戦場で震える遥を優しく抱きしめながらひたすらなぐさめた。

 遥は僕が常にそばにいないと錯乱してしまうほど、情緒不安定な状態になっていた。

 僕だって戦場の狂気にさらされ、殺した人たちの顔が脳裏のうりに浮かぶ夜が続き、情緒不安定になり掛けてはいたのだが、遥の面倒を見なければいけないとの使命感が僕を正気な状態に押し留めていた。僕が正気でいられるのは、遥の面倒を見なければならないとの使命感のなせるわざだと言えた。

『とにかく僕が遥を守る』

 僕は決意を新たにしながら、遥の背中をさすり、既に日課と課している口移しでの食事を与えていた。しかし、戦場では口移しで食べさせても食べ物を戻してしまうことも多く、遥はすっかりせ細っていった。


 ようやく戦場での軍務ぐんむが終わり、僕らに与えられた地下室みたいな城の小部屋に戻ってきた。


 城に帰ると戦場での僕らの活躍に対する報奨の話も出ていたらしいが、式典に出席する精神的余裕が僕らには全く無かった。

 ラインハルト帝国皇帝シュナウザーとしては、帝国軍士気高揚の舞台として盛大に報奨授与の式典を実施したかったようだが、僕たちの精神が余りにも疲弊ひへいし過ぎていてとても尋常じんじょうじゃない様子から、代わりに騎士アーノルドと聖女シルビアの二人に僕たち育成の功績に対する報奨を授与する式典が挙行された。

 実績を上げた僕たちを今後とも戦場に投入するのは既に規定路線となっているようで、次回の戦場投入の時までに確実に復活できるよう1週間の静養が報奨代わりに僕たちに与えられた。


 戦場から離れたことが良かったのか、遥は食べた物を戻すことは無くなった。しかし、目を瞑ると殺した兵士たちの顔が脳裏のうりに浮かぶらしく、眠るのをひどく怖がり、眠ってもうなされていることが多くなり、浅い眠りしかとることができなくなっていた。


 また、遥は自身で身体をく気力もえてしまっているのか、身体を拭くのも面倒くさがるようになってしまっていた。

「遥、身体を綺麗にしようよ。せっかくの美人が台無しだよ」


「ヨースケが、私の身体を拭いて」

 遥はそのまま僕にその身を預けてきた。


「…、ゴクッ」


 僕は唾を飲み込むと遥の服を少しづつ脱がせ始めた。

 始めは背中を濡れた布で拭き清め、次に前側を拭き始めた。僕の視界には彼女の形の良い胸が目に入る。

 その形の良い彼女の胸を優しく丁寧に拭いた時

「ウッ、ウーン」

 彼女からなまめかしい吐息が発せられた。

 僕はその吐息を聞いた瞬間、理性を失った。

 気が付けば彼女の胸をむさぼり、いつの間にか裸で抱き合っていた。

 僕はけだものになっていた。


☆☆☆


「ヨースケが私の初めての人」

 遥が嬉しそうに僕に話し掛ける。


「ヨースケ、好き、好き、大好き」

 そのあと、また遥を滅茶苦茶めちゃくちゃ抱きまくった。


 休養として与えられた1週間、僕と遥は二人だけのただれ切った生活を地下の小部屋で過ごした。


 全く姿を見せない僕らを心配して様子を見に来た聖女シルビアが二人の痴態を見てドン引きしていたことを僕らは知らない。


 侍女のアンナとメリーは僕ら二人の痴態を見てとても興奮していた。

 何度ものぞき見に来ていたため、アンナとメリーのことは流石に気付いていたのだが、今までも二人で抱き合って寝ているところを何度も見られていたため、今更、ちょっと痴態のレベルが上がっただけと気にも留めなかった。


 遥は1週間の休養で滅茶苦茶元気になり肌にも張りが戻っていた。

 一方、僕は、何故か、やつれ果てたような疲れを心身共に感じていた。





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