第64話 認識は大事ですよ

 どういう訳か近くの雑貨屋に連れてこられた彩夢は雅也の袖を引っ張った。


「それで雅也さんが思いついた策って何ですか?早く実行してテラさんを外に連れ出したいんですけど」


「まあそんな慌てるなって。


 僕が思いついた案ってのはまあどう考えても無理な奴が一つ、難しいだろってのが一つ、そんでもって出来たらラッキーってのが一つの計三つあんだよね」


「お、三つも思いついてたんですか」


 雅也は毛糸を手に持ってそれを撫でた。


「無理なやつは地縛霊であるテラがあの神社の中でしか動けないんならいっそのこと神社を馬鹿みたく大きくすればいんじゃないって策。


 まあ無茶だよね」


 雅也が自嘲的に笑うと彩夢は何故か手のひらをポンっと鳴らした。


「いえいえそれは決して無茶じゃないかもしれませんよ」

「ん?えっちらおっちら神社の土地を広げるなんて無茶極まりない話じゃないか?」


「ふふふ、確かにそういうやり方では無茶でしょう。私でもそう思います……しかしそんなことをする必要なんてありません、全ては認識の問題ですよ」


 キラキラとして奥深い瞳を見た瞬間雅也は確信した。


(やっば、彩夢のスイッチを押しちゃったみたい)


 心の中で美しいステップを踏みながら彩夢は雑貨屋を歩き回った。


「例えばです、今私達がいるのは雑貨屋さんですよね。しかしとある人から見ればここは色々なものがあるアミューズメントパークに思うかもしれませんし、もしかしたら某ネズミの国以上の夢の世界かもしれませんよ。

 そしてまたある人からすればここは一貫したテーマのない様々な匂いが入り混じった地獄のような空間かもしれません」


 彩夢は雅也とググっと距離を縮めて胸と胸が当たるくらいに接近したあとに雅也の瞳を見つめた。


「つまり認識なんですよ。傲慢極まりないお人なら……魔王のような思考の持ち主ならばこの雑貨屋が世界そのもの、世界は雑貨屋なのだ!!!!と思い込むことが出来ます。


 自身の小さな世界から思考を飛びぬけることさえできればあるいは……もしかしたらですよ」


 二人の顔は本当に近かった。だがそんなことお構いなしに雅也はため息をつく。


「つまりテラがあの神社=世界だって思い込むことさえできればどこにだって行くことが出来るってことか?」

「YESです!!!流石は雅也さん、理解が速い!!!」


(褒められて嬉しいような哀しいよな馬鹿らしいような……まあ嬉しいって思っとくか。そいつが一番気持ちがいい)


「さてとそうと決まれば早速テラさんにこの妙策を伝授しなければ」


 ガッツリ肩を掴んだ。


「待った。彩夢ならいざ知らずあの世間知らずの幽霊少女がそんな風に思い込めるわけがないだろうが。それをしようと思ったら特殊な英才教育が必要になるぞ」


「問題ナッシングです!!!私は普通に育てられましたから!!」


「お前の今まで思い出話を聞く限り普通に育てられたとは到底思えないんだけど」


(そもそも多分お前は生まれつき彩夢になる素質がめっちゃあった)


「何言ってるんですか?勝手気ままに自主性を尊重して育てられたんですよ。どの家庭も大体はそんなもんでしょう」


「それはない」


 雅也は珍しく完全無欠に断言した。


「むぅ……それじゃあ雅也さん、後二つは何ですか?」


「難しいだろってのがテラが地縛霊になった理由を突き止めてそれを解決してやること。まあ成仏しちゃうかもだしそもそもどんな未練なのかさっぱり分からないから今んところ現実的じゃあないね」


「なるほど……ですがまあそのうち必ず解決すべき問題ですね。それで最後の一つはなんですか?」


 雅也は適当な毛糸玉を数個持ち上げてお手玉のように動かした。


「依り代を作ることだよ。人形に憑りつく幽霊なんてよく聞く話だろう」


「なるほど!!!やってみる価値はありますね!!!!それじゃあ早速」


 彩夢は自身の長く美しい髪をプチっととった。


「何やってんのお前?」


「そう言うのって髪の毛とか血とか入れるのが鉄板でしょう。さ、雅也さんも……あと未来さんにもお願いしましょう」


 愉快そうに「フフフ」と笑う彩夢を見ながら雅也は呟いた。


「………その発想はなかった」



 何故か敗北感を覚えた雅也なのであった。

  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る