第59話 雅也と未来の共同作業

 彩夢が高らかと宣言した時に雅也は折り紙を折っていた。


「あはは、マー君って相変わらず手先不器用だね」


「こればっかりはいくら練習しても全然改善しなくってさ。未来ちゃんは力が強いうえに手先も器用で羨ましいよ」


「えへへ、ありがとう」


(マー君と二人で共同作業。ああ、至福の時間)


「ねえマー君、こうしてると小学校でやった六年生を送る会のこと思い出さない?」


「ああ、あのプレゼントにって折り紙で鶴とかウサギとかおりまくったやつね……今思えばプレゼントが折り紙ってうちの学校は一体どういうセンスしてんだか……うん、その節は本当にありがとね未来ちゃん」


 もうすぐ小学校を巣立つ六年生の為に自分たち思い思いの折り紙を折っていたのであるが雅也は死ぬほど不器用だった。


 皆と同じ手順で同じように折っているはずなのにどういう訳なのか全身複雑骨折しているとしか思えない鶴ができたり、ウサギを折れば完全に未知の生命体が誕生した。


 子供たちに人気のキャラクターを描いたこともあるのだが相当気合を入れて集中して描いたはずなのにそこにいたのはもし世の中に公表したとしても著作権法にまず当たらないであろうというくらいに全くの別物、なんならUMAを作り出したのである。


(あんときは結構真面目に落ち込んだっけ………未だに僕の美的センスとか一般的な小三以下だもんな……

でもさぁ僕の髪の毛撫でながら『雅也君、芸術家気取りもほどほどにしてね。じゃないと髪の毛切っちゃうよ』とか

自分の腹を押さえつけながら床に転がって『お前……ふざけてんのか?俺を笑い死にさせるつもりか殺人犯め!!!』とか

司令官みたいなポーズして『雅也君、君はもっとできる子だと思っていたが……あまりおいらを失望させないでくれよ』なんて言うのはさぁ。

まあ僕が悪いことは分かってんだけどもうちょっと手心加えてくれたっていいんじゃないかな?)


「別に、マー君が真面目にやってることは分かってたもん。私はビシッと言うべきことを言っただけだよ」


 胸を張りながらも未来はテキパキと折り紙でわっかを創っていく。それが終わればササっと自作の垂れ幕に丸っこくて綺麗な字を書いていった。


「そもそも私達の小学校には変な子が多すぎるんだよね。急に裸になるナルシストな変態を筆頭にさ」


「まあ大半は同意するけどナルシストな変態は言い過ぎだってば。あの時はまだ小学生だったんだから有恵ちゃんだってたまたまそう言う気分になっただけだよ」


「いいえ、あれは生来のもんよ。私にはわかるの、もしマー君みたいな男の子が有恵の前に来たらあの子はまた同じようなことするに決まってるわ……そう言えばあれって今のテラくらいの年でのことなのよね」


「そうだね。あの時はしょっちゅう死にかけてて大変だったけど。ま、それなりに楽しかったよ。テラにもそんなことがあったのかな?」


 未来は「そうだよ」と言いたくなったが自分達の小学校時代を思い出すとその言葉は胃の中に呑み込んだ。


「一般的に楽しい生活はしてたと思うわよ」


「あはは、やっぱり僕達みたいなことはなかったろうね………まああんな変人奇人の魔窟が全国にうじゃうじゃあるとは思いたくもないけど。卒業してから初めて分かったあのクラスの異常さ……成長ってのは良いもんだね」


 雅也は自身が一所懸命に折った不格好極まりない鶴をしげしげと見つめた。


「まあ骨折はしてないね。全身打撲ですんでる」


「立派に成長してるねっ」


「ありがと、それじゃあ後は何が必要だったんだっけ?」


 未来は指折りしながら思い出してみる。


「えっと。ケーキとシャンメリーと……あと彩夢の要望でクラッカーかな」


「そっか。じゃあ戦力になりそうにない僕がデパートから拝借してくるよ」


「戦力にならないなんてことないって。でもいってらっしゃい……」


 最後に未来はぼそっと「あなた」と付け加えた。そう口にした瞬間顔がぽわっと赤くなる。だが後悔はしていない。


「うん、行ってきます」


(それにしてもまあ歓迎会するのにサプライズとは………はてさて彩夢がどの位時間稼げるかが問題だね。思ったよりも準備するのって手間かかるよ)


 そう思った時くすりとした。



「時間が止まってんのに時間を気にしないといけないことってあるんだね……さ、もうひと頑張りしますか」




「あなたって言っちゃった……聞こえたなかったよね!!!マー君聞こえてたら絶対なんか反応するからあれは聞こえて無かったんだよね!!!!

 でも言っちゃった……ああ、もっともっと言ってみたい!!!でも恥ずかしいぃいぃぃ!!!!でも幸せ!!!」


 スーツ姿の雅也を見送る自分を思い描きながら未来は竜巻を起こすほどの速度でヘドバンをした。


 ビュルンビュルンビュルンビュルン




 彼女の起こした小さな竜巻はお手製のわっかを吹き飛ばしてしまったことに気づくのは少し後のことだ。

 


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