第57話 あたしの名前は

(それにしても名前を付けるって……犬や亀じゃあるまいし……とはいえ確かに便宜的にでも名前がないと面倒か)


 これまで雅也はペットを飼ったことがなかったしゲームのキャラに名前を付けるときも大抵デフォルトネームかさもなくば『雅也』をはじめとした同級生や家族の名前を勝手に拝借してつけていた。


 因みに明らかに性格悪そうなキャラには男だろうが女だろうが無機物だろうが『恵那』という姉の名前を使っていたのはとっとした秘密である。


(まあゴン奈よりかはマシな名前を付けられるか)


(うーん……名前かぁ昔マー君との子供にどんな名前を付けようかなって妄想したことはあるけど……それをこの子につけるってのは……それはちょっと……こっぱずかしぃぃい!!!!)


 子犬のような笑みを浮かべながら自分たちの提案する名前を待っている幽霊少女をみてプイっと目をそらした。


(だってこの子を呼ぶたびにマー君とのまだ見ぬ子供を想像するってことでしょ!!遊奈恵とか佳奈美とか玲とか……ああ、それはできない!!!そんなことしたら私は素面でいられる自信がない!!!!死ぬ!!!絶対に死ぬ!!!)


 勝手に顔を真っ赤にしまくる未来の横で彩夢は唇に手を当てていた。

「うーん……名無しの権兵衛が駄目なら幽霊からとって幽那とか幽李とか……いえ霊からとって美霊とか霊未とか……悩みますねぇ」


「聞こえてるよ彩夢ちゃん」

「あ、聞こえてましたか……お恥ずかしいです」


「ああ、恥ずかしいって自覚はあるんだ。良かった良かった」


「心の中が勝手に口に出てしまうほどウキウキしてたなんてまだ精進が足りませんね」


「そっち!!!!???」


 本当に驚いた顔で彼女は叫んだ。


「え?そっちって何ですか?」


「いや、その安直かつ適当な名前を言っちゃったことなんだけど」


 彩夢は首をかしげて本当に不思議そうに表情筋を歪ませた。


「安直ですか?一ひねりしてると思いますよ。なんて言ったって私が真剣に考えたんですからね」


「真剣に考えた?え?真剣に?」


「真剣ですよ。イッツアシリアスにいきました。だって名前って一生ついて回るものなんですよ。どうせなら仲良くしてもらいたいじゃないですか」


「あ……うんそうだね」


(あーあ、あの子ったらあんなに照れてさ……まあずっとこんな所に一人っきりだったんだからヤバい彩夢の真っ直ぐな好意を受けたら照れちゃうか……

あは、可愛いもんだね。子供ってのはこうあるべきもんだよ…………)


 雅也の脳裏に小学生の頃の記憶が蘇ってきた。カカオそのものを顔に塗り造られたように表情が苦くなる。


(いや、やっぱりいいや。子供っていっても自分達の好きなように反応してくれればいいか。伸び伸び成長するのが一番……ヤバい、今のび子って名前思いついた。この前ドラえもんみたせいか?)


「あ、そうだ。のび子ってどうですか?」


「なし!!!!!あたしあの子よりももっとできる子だもん!!!」


 彩夢と思考が一致したことに奇妙な嬉しさを感じながら何ともニコリと笑った。


(うん。口に出さなくて良かった。本当に良かった。マジでよかった)


「あっそうです。ここは神社ですし神から、さらに神の中でも太陽神である天照大神からとって照那てるななんてどうでしょうか?」


「あ、それ結構良いわね」


(私の子供候補の名前にも挙がってないし)


「どうですか?」


「うーん……悪くないんだけどもうちょっと捻りが欲しいなぁ。もっと愛されてるって感じが欲しい!!!」


(愛されてるねぇ……あはは僕達にとってはそれなりに難しいこと……でもないか)


「じゃあ単純に君の好きなものから名前を頂こうか」


「あたしの好きなこと?なにそれ?」


「コーラだよ。もっともコーラはカタカナだから……そうだね漢字は諦めて照那と合わせてテラってのはどうかな?」

 その瞬間、雅也の周りの時が止まった。ただでさえ止まったのにさらに止まった。


 そして一気に、ダムが決壊するときよりもさらに勢いよく動き出した。


「アハハハハハハハ!!!!!!!カタカナか、あたしはカタカナか!!!!神社の地縛霊だってのに漢字よりカタカナか。しかもコーラと天照大神を組み合わせるって……雅也君も大概ヤバいね!!!」


「え?そうなの?」


 未来をみると微妙な顔をしていた。彩夢の方はみない、見ても見なくても同じだから見ない。


「いやぁ……でもまあいいや。気に行ったよ雅也君!!!君のそういう面白い行為を受け取る!!!さてと、それじゃあ改めて」


 少女はくるりと回った後に少しぎこちなく礼をした。





「あたしは幽霊である。名前はテラ。これからよろしくね」

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