第53話 幽霊に会いに行こう
それは何の前触れもないほど唐突だった。
「肝試ししたいです」
まあ彩夢の思いつきなんて大抵の場合そうなので驚くようなことはしないのだがそれでも雅也は苦く笑う。
「まあ随分と急に変な気持ちになったんだな」
「いいですか雅也さん、感情とはいつでも突然やってくるものです。それはさながら曲がり角で出会うパンを加えた少女や露出狂のように」
「会ったことあるのか?」
彩夢は首を横に振った。
「どちらも一度はお会いしたいと思っているのですが残念ながら。
それまで何とも思っていなかった彼女のふとした仕草に目を奪われたことから始まるラブコメのなんと多いことか。
それまで少しも疑っていなかった彼のふとした言葉に引っかかりを感じるミステリーのなんと多いことか」
「それ微妙に種類が違う気がするんだけど」
「恋愛とはミステリーです。
と、そんな議論をかわしたいわけでは………ありますが」
(あるんかい)
彩夢はギュッと拳を握って優しく自分の頬にこすりつける。
「今は置いておきましょう。それより肝試しがしたんですけど何かいい案はありますか?」
「普通に廃病院なり廃屋なりに行けばいいんじゃないか?」
「それはそうなんですけどこの辺に心霊スポットがないんですよ。せめて暗くなれば少しくらいは雰囲気出るかもしれませんが生憎なことに時間は前に進んでくれません」
雅也はコキりと首を鳴らした後近くにあったベンチに寝ころんだ。
「じゃあ諦め……」
(待てよ……今僕達が置かれている状況こそまさしくオカルトだ。だったら幽霊の一匹や二匹いたとしても可笑しくはない。
そしてもし見つけようもんならこの訳の分からない状況が少しは理解できるかもしれない……時を止める幽霊とか妖怪の話は聞いたことがないけどその手の奴らの仕業としたら)
そんなことを考えながら頭の隅でひたすら冷静な雅也が『あり得るかよそんなもん。彩夢に毒されすぎだ』と言ってくるが気にすることなく思考を前に進ませる。
「そうだな、ちょっと真面目に考えてみるか」
「本当ですか!!??雅也さんの力があれば百人力です!!!あと、未来さんもいればもっと心強いのですが……今どこに?」
「川で水浴びてくるってさ」
「川ですか……河童の巣があったりしませんかね」
「あったとしたらとっくに誰かが見つけてるよ。それより肝試しか……なんかでそうな場所……あったっけかな?うーん」
脳みそをいくら探っても雅也の頭にはそんな場所が思いつかなかった。そもそも暇つぶしに軽い引っ越しをしまくっているので土地勘がそれほどないのである。
そんな雅也に彩夢が何となくしなだれかかった。だがそれでも雅也は気にしない。深く深く思考する。
(あ、これ本当の真剣に考えてくれてますね。鼓動で分かります。
珍しいですね……まあ私からすればひたすらありがたいばかりですが)
それから数分頬をこすったり髪の毛をわしゃわしゃしたり意味もなく身体のいたるところにキスをしたりしたのだが全くの無反応である。
(無反応だとちょっと面白くないですね。しかしこれだけ真剣に考えてくださるってことは素敵なことが起こるに決まってますね。ウフフフフ楽しみです)
(待てよ、肝試しとかなんとかいうけど要するに幽霊が出るっぽい所にいけばそれで充分なんだ。第一彩夢の肝が異次元の物質で構成されてることは分かってるんだから肝試しの必要なんてない……うん、よし決めた)
「あのさ彩夢……ん?なんか身体がベトベト」
「あ、キスしまくりましたから。結構ドキドキするのを感じましたよ」
「あっそ……う?」
(なんだ?キスされた場所がなんか……熱い気がする……ま、気のせいだろう)
「どうしましたか?」
「いや、なんでもない。それよりいい場所を思いついたよ」
「お、流石は雅也さん。それで一体どこなんですか?」
雅也は笑うように努めた。
「この近くにある神社だよ。ちょっとした曰くつきのね」
「へぇ、どんな曰くがあるんですか?」
「裸の奴が現れるんだって」
「え?」
一瞬二人の間に流れていた時間さえも止まった。雅也は彩夢の額を小突く。
「露出狂に会えるかもしれないぞ。良かったな」
「ああ、なるほどです!!!!!」
一瞬でテンションが上がるのは何とも羨ましい限りである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます