第49話 バスケ中の視線

 ダムダムとボールが弾む音が心地よい。


「行きますよ!!!ドリブル!!!!」


 気合タップリで彩夢が地面にボールを叩きつけるとダムンッと大きく跳ねた。

「あ」


 自分の身長よりも高くに跳んだボールに暖かい視線を送っていると大ジャンプをした未来の手で颯爽とボールを奪われた。


「よっと。そんでもってシュート!!!」


 バスン


「よし、これで27対0ね」


「ハァハァハァハァハァ………まさか二対一だというのにここまでボコボコにされるとは、しかも全て3ポイントシュート……これが持って生まれた絶対的な差と言うやつですか……フフフ、燃えてきましたね!!!!メラメラです!!!!!」


「こんな遊びでへこたれてもらっちゃ困るけどここまで手ごたえがないとなんか複雑な気持ちになるわね」


 彩夢が清々しい汗を流しながら青春の瞳をギラギラさせているとその視界の端にぶっ倒れている雅也が映った。


「死ぬぅ」


「何言ってんですか雅也さん!!まだ始まってから30分です!!!バスケットの試合は確か一時間です!!!」


「クォーター制って知ってる?15分ごとに休憩時間が与えられてるって知ってる?お前と僕の運動量の差って知ってる?」


「安心して下さい!!!若いうちは無理しても死にません!!!!!」


「死ななきゃ何しても良いなんてブラック企業戦士みたいなこと言うなよ……ったくもうよぉ」 


 ぶつくさと文句を言いながらも何とか立ち上がった雅也の膝はとんでもなく笑っていた。


(マー君ったら本当に負けず嫌いなんだから、素直に休ませろって言えばいいのに。

 まあ私からすればヘロヘロになっても懸命に頑張るマー君の艶めかしい姿が見れるからありがたい限りなんだけどね。


 スーンも素敵だけどそんなマー君が必死になるのもグッとくるの。ギャップ萌えってやつかしらねこれ

 あと単純に体操服の露出の少なさが大好き。汗まみれでパフォーマンスが鈍くなってるのも何もかもが好きすぎて困るわ)


「さ、もう一本いこうか」


「うん、じゃ、行きましょうか」


 未来がダムダムとボールを弾ませると彩夢が突っ込んできた。当然猪突猛進ガールとは言え彩夢はぶっ壊れるほど狂った本能をザイルの縄で制御するタイプの女だったため無策という訳ではない。


 だがまあどんな策を弄そうと圧倒的な力の差は埋められないものだ。


「ああっ!!!ちょ、今何したんですか!!??ボールが消えたんですけど!!!」


「驚くんじゃないわよ、単に超高速でボールを回した後に身体で隠したりしただけじゃないの。ほら、うだうだしてたらボールも見ないまま抜かれちゃうわよ」


「ワァオです。それは勘弁!!!!」


 彩夢はそれでも元気いっぱいに動きまくっていた、大きな胸を揺らし柔和な身体が躍動し、夢見る少女のような幼気な瞳で本当に楽しそうにボールと彩夢の姿を追っていた。


(ああ、とっても美味しそう。もう20超えてるのにとっても瑞々しくって……本当に綺麗で鮮やかな肢体してるわよね。心の若さというか幼さが反映されてるのかしら?

 これ見るだけで胸いっぱいの幸せが溢れてくるわ。

 マー君の姿を見るだけでも幸福感で一杯になるのにもう完全にオーバーフローよ、私の子宮オーバーフローよ!!!!!)


 半ばトリップしながらも正確にドリブルをして彩夢を抜き去った未来であったがその抜きっぷりを呼んでいたかのように控えていた雅也にぶつかってしまった。


「きゃっ」


 と言いながら未来は思った。


(かわさないでおこっと)


 汗まみれで疲労感の塗れた雅也の感覚を存分に堪能しながらムフフと笑う。


 最近の未来は彩夢を見習ってなのか自分の欲望を優先する術を身につけてきている。




 それが良いことなのかどうかは分からない、しかしまあ本人が幸せそうなのできっと良いことなのであろう。


 



 


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