第47話 期待を裏切らないわよね


 なんだかんだで手錠を外すことに成功した彩夢は難しい顔で腕組みをしていた。


「雅也さん、その話は本当ですか?」


「うん、多分動いたと思う……ただ間違いないって断言できるほどはっきり見た訳じゃないんだけど」


「いっつも冷静なマー君が間違えるわけないよ」


「ありがと未来ちゃん」


 話の核は勿論つい先ほど起こった謎の起動である。これまで全ての電子機器がうんともすんとも言わなかったのにもかかわらず微かとは言えハンドマッサージ機が動いたのは何かしらの意味があるのだと雅也は思案していた。


(時が止まった世界で動いた……僕達と同じように例外なのか?まあ人間の中で動ける奴がいるんだからそれ以外の物でも動くことが出来る何かがあっても特段可笑しいことじゃない……可笑しいことじゃないけど改めて考えると不思議だ。どうして僕達が例外になったのか……)


 そんな様子を見ながら彩夢は腕組みをほどいた。


(うーん。雅也さんが最近真面目なんですよね。いやそれ自体は勿論結構なことなんですけど真面目=面白いってことにはなりませんからね。こんな尋常じゃない世界なんですから多少は神経をぶっ飛ばさないと本当に参っちゃいます……何かリラックスを提供しなければ)


 一応彼女なりに雅也のことを想っているのだが余計なお世話とかいう次元ではない考えである。


「雅也さん、あまり根をつめすぎても答えには辿り着きません。最近眉間にしわが出来そうですよ、ほら一緒にリラックスしましょうよ」


「そうかな?」


「そうですよ。確かに私達がこの世界から脱出するために奔走することは必須ですが何事も健康ありきです。知っての通り身体と心は密接すぎる関係があります、緩んだって問題はないと思いますよ」


「毎日お前に心を緩ませられてるような気がするんだが」


「足りません!!!何事も自らの意思がなければ効果は半減なんですよ……とはいえ一体どうすればいいのやら……あ、そうです」


 くるっと彩夢の顔は未来を捉えた。


「え?何?」


 ニッコリ


「ちょっと……何彩夢?その顔何?」


「フフフ、ちょうどいいじゃないですか未来さん。合法的に雅也さんのあんなところやこんなところを触りましょう」


「何が良いの?ちょっと待ちなさい、何その変な手つき……何考えてんの?何を考えてワキワキさせてんの!!??あんなところやこんなところやそんなところを舐め回すなんて何考えてんの!!!??」


(そこまで言ってないよ未来ちゃん)


「せっかくですから……ね?」


「ちょ、マー君なんか言って!!!この子絶対に変なこと考えてる!!!絶対に今の私ピンチ!!!!」


「大丈夫です、気持ちいいことするだけですから!!!」


「ほら聞いた?完全に悪い奴のセリフよ!!!ナンパ師の常套文句よ!!!」


「未来ちゃんのが強いんだから嫌なら彩夢を気絶でもさせればいいじゃん」


「相変わらず冷静すぎるバイオレンス!!!!」


 そんな漫談をしているうちに彩夢の柔らかい手のひらが未来の腕を掴んだ。


「ウフフ、私はスッポンです。一度捕えたら逃しませんよ!!!」


「怖いんだけど!!!彩夢ってこんなに怖かったっけ?」


「スイッチ入るとこのくらい簡単に変わるよ」


「だから冷静ィィぃ!!!!!!!」



 

 珍しすぎる声が響いていた。雅也の物だ。


「くぅぅぅぅ……気持ちいいぃぃぃ」


「そう?ならよかったよマー君……うん、本当に良かった」


「フフフ、テクニックは私も未来さんもトントンでしょうしやっぱりこう言うのは力がある人がした方が良いですよね」


 満足そうな彩夢と雅也をよそに未来は心の中でシクシクと泣いていた。


「マー君ったら身体中こってるね」


「ま、色々苦労してたからね……それにしたってここまでとは思ってなかったけど」


(なんで……なんであそこまで言われてて普通のマッサージをしてるのよ私……彩夢、マー君、貴方達って……本当に期待を裏切らないわよね……

いや、良いんだけどね!!!まだマー君におっぱい吸われる用意とかしてなかったし下着も全然可愛くないのだから良かったんだけど……そう、良かったのよ………ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!!!!)


 余談ではあるが心でどれだけ叫んでもそれを表に出さないのは未来の特技である。




(二人に強引にされてみたいわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!)

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