掌で踊ろう

春風月葉

掌で踊ろう

 中世フランスでは黒死病が流行ったとき、人々はいつ死ぬかわからない恐怖から逃れるために踊り続けたらしい。側からは今の私も同じように見えているのかもしれない。医師に半年の余命を宣言されてから、私は少しでも自分の生きた証を残そうと死ぬ気で生きた。以前までは出不精でお世辞にも立派な大人にはなれていなかった私であったが、仕事先を見つけて社会にも復帰できた。両親にもそれなりに孝行ができた。

 もういつそのときが来てもいいと思っていたが半年経ってもその日はなかなか来なかった。どうせ生きていられるのならできることをその限りまでしようとした。

 そして一年が経った。まだそのときは来ない。私は余命を宣言した医者のもとを訪ねた。すると老医師はあっさりとあの余命宣告が嘘だったことを打ち明けた。両親もそのことは知っていたらしく、私はまんまとはめられたのだと理解した。

 最初はポカンとしていたが、結果を見れば両親たちの謀は大成功だと言えるだろう。実際、私も憤りよりも感謝が大きかった。どうせ生きれるのなら今のまま生きようとそう決めて私は勢いよく病院を出た。

 ガシャン、通りかかった車と衝突した私の人生はあまりにもそこで呆気なく幕を下ろした。

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掌で踊ろう 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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