混乱、及び本物は誰か。
ちありやしか……?
「やっぱり内通者が?」
僕が声を上げるとすずめさんがそっと制した。
「可能性はある。それか、監視衛星みたいに我々を偵察する何かがあるか」
「外側は私が確認しましたし、先程もハッチから出て外の敵を殲滅しているはずです」
スキマさんがきびきびと告げる。
「基地の中に敵がいるとしか……」
「透視系の能力を持った作家くらいいるわね」
綺嬋さんも顎に手を当てる。
「そいつの
「不確定要素が多すぎて訳が分からないよ……」
助けたばかりの朱ねこさんが首を振る。
「一旦進撃チームと合流した方がいい。今のままじゃまずい。先回りされる。何とかしなくちゃ」
すずめさんがメットを操作する。ちありやさんに繋ごうとしているのだろう。
「もしもしちありやさん? もしもし……」
と、すぐにすずめさんがびくっと肩を揺らした。大慌てでメットを外している。何だ。何があった? と思っているとメットの内側からけたたましい音楽が聞こえていた。いきなりこれが耳元で聞こえたらびっくりする。
「何? 何なのこれ?」
すずめさんが目をぱちくりさせると、音楽を耳にしたスキマさんが呆れたように笑った。
「偽物」
「偽物?」
ホットワードに「ノラ」の面々が反応する。しかし綺嬋さんが……というより綺嬋さんも、笑って続けた。
「安心していいわね。うちのギルド員わよ」
それから綺嬋さんは作家の名前を口にした。
「……戯言遣いの偽物」
*
「戯言遣いの偽物さんって言うんですか?」
ややこしいな。
「そうわよ。まぁ、使える作家だからとっとと会いに行くわね」
「はぁ」
そういうわけで僕たちは今、「戯言遣いの偽物」さんに会いに行っている。オートラインに乗って道の続くままに。僕はさっきのことを思い出す。
倉庫の中、すずめさんの通信に割って入った人物。
音楽を爆音で流して、「偽物」と呼ばれている。
そんな彼は、音楽に負けないくらいの大声で、こう伝えてきた。
〈あーあー、誰だ? とにかく繋がったな? 今セクターZの第二砲台を通り過ぎたところだ……。そっちはどこだ? っていうか誰だ?〉
「偽物ぉ。あんたいきなり現れてどうしたわね」
メットに向かって綺嬋さんが叫ぶ。
「セクターZ通過って、避難シェルターは平気わね?」
〈シェルターの方にはかなたろーとクララがいる!〉
何だろう、通信の隙間にすごい音。ジェット機か何かで駆けつけているのか?
〈ほんで綺嬋か? これは誰の通信端末だ? 適当に繋いだんだが……〉
「『ノラ』からの助っ人さんの端末わね。あんた行動動機を話すわよ。何があって持ち場を離れたわね?」
〈エネルギールームが襲撃された。エネルギールームに繋がるオートラインの分岐点を守っていた『ゼロ課』の連中が救難信号を出してきた〉
「ゼロ課って……」
「『シゴワ』わね。『イビルスター』幹部の別称」
ややこしいなぁ、もう。
〈一旦こっちの方で敵は制圧したが、これってまずくないか?〉
「まずいわね……」
綺嬋さんが首を横に振る。すると、鳴門さんが珍しく、緊張した面持ちを見せた。
「エネルギールームの正確な場所、この中に知っている奴はいるのかい?」
「私は知りません」スキマさん。
「エネルギールームって、なぁに?」
ヒサ姉が訊くと鳴門さんが答えた。
「この基地のコアですよ、お嬢さん。動力源です」
「でもその場所って……」
言い淀んだスキマさんに被せるように、通信先の偽物さんが。
〈ああ、そうだ〉
一瞬、沈黙。
〈ギルド長の星氏を除き、後はちありやしか知らない〉
*
偽物さんが言うには、「ちありやしか知り得ない情報を敵が知っている」ことから「どうもちありやが
〈オートラインの分岐点を守っていた『ゼロ課』もちありやの配備だ。一応確認したが、オートラインの先は確かに重要区域に繋がっている。入ろうとしたら認証を求められた。しかも俺たちのIDじゃ入れないらしい〉
「……『シゴワ』で入れないって間違いなくエネルギールームわね」
〈制圧した敵の『エディター』を調べるとどうも対セキュリティ用のハッキングシステムを持っているタイプのようだった。そこに性能を割いていたからかな、弱かった〉
考え込むように沈黙する一同。
「話は分かったけどあんたが
〈どうすればいい? 一旦俺は
「とりあえず合流するわね。
〈OK、どこで合流する?〉
「セクターZを通ってるって言ったわね? エリア『VENOM』はどうわね?」
一瞬、砂嵐。それからすぐに。
〈了解! すぐ向かうぜ!〉
そういうわけで僕たちは今、オートラインに乗ってエリア「VENOM」とやらに向かっている。何だか禍々しい名前というか何というか、行っていいのか分からないところだが……。
だが意外と近場だったらしい。オートラインはすぐに体育館くらいの大きさがあるドームの中に入ると停止した。綺嬋さんがつぶやく。
「エリア『VENOM』わよ」
と、デザートイーグルを構えながら、正面を見る。ああ、もちろん、僕たちの目にも見えている。
黒光りするボディ。
ごつごつと堅そうなデザイン。防御も攻めも兼ねていそうな。
胸の辺りに輝く何か。動力源か?
体のそこかしこに黄色いライン。やっぱり何だか、近未来的。
見るからにパワードスーツ、というものを着た人物がそこに立っていた。この人が、偽物さん……?
「偽物」
綺嬋さんが銃を構えたまま詰問する。
「一旦警戒しながら話を聞くことにするわね。ちありやが
「ああ、そうだ」
パワードスーツ姿のまま、ホールドアップする偽物さん。
「まぁ、根拠はさっきも話した通り……ちありやしか知り得ない情報を敵が知っている」
「敵がちありやから聞き出した、という線はないわね?」
「ちありやだぞ。拷問されても話さないだろう」
まぁ、考えられることがあるとすれば、と偽物さんは続ける。
「ちありやは能力を使っている間は『幽炉』になる。機械と一体化するんだ。ハッキングされ得る」
「ちありやのセキュリティをくぐるって相当な腕の持ち主わね」
「ああ。だが良くも悪くもちありやは人間的な部分を保持したまま機械と一体化できる。もしかしたら心理的隙を突いたのかもしれない」
「なるほど、言い分は分かりました」
スキマさんが小銃を構えたままきびきび告げる。
「次はあなたが
「それについてなんだが正直困って……」
と、言いかけた時だった。
「証明なんてしなくていいわよ。本物だもの」
ごつごつのパワードスーツの背後から。
いきなりあの金髪女が姿を現した。僕たちは一斉に攻撃態勢に入った。しかし金髪女が笑う。
「撃って下さっても結構よ。この子堅そうだもの。盾になってくれそうだわ」
うふふ、と女が続ける。
「今までは一人に対して一回しか
女が香水の瓶を取り出す。
細い指先で優雅に、二度ポンプした。
「ハイ。二回。さぁ、これであなたが二人出来たわ」
それからいきなり、床からスライム状の物体が二機、湧きあがってきた。かと思うとそれらはすぐ、金髪女が抱きかかえている黒光りのパワードスーツに姿を変えた。
無機質な輝きが偽物さんの周囲を包んだ。
「ゆっくり遊んで頂戴ね」
「待て!」
と、声をかけても無駄だった。女が立ち去る。そしてそれを護衛するかのように。
二人の
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