バレてる?
何かが粉砕される音が響き渡った。僕は無残にも床に転がっていることしかできなかったので、何が起きたかよくは分からなかったが、どうも壁が壊されたらしかった。
「『エディター』がいることは知っていたさ。
声が一気に遠くなる。
「遠い宇宙からやってきた霧状の地球外生命体が人類を恐怖のどん底に陥れるパニックSF小説だ」
一瞬、僕の視界の中に鳴門さんが入った。
手錠で後ろ手に拘束されながら、しかしおよそ人間とは思えない速度で霧の攻撃をかわしている。
「作中では確か、霧状の宇宙生物のコアが出てきたなぁ。その正体は……」
月。
鳴門さんが確かにそう言ったのが聞こえた。
直後、再び何かが粉砕される音が響き渡った。かと思うと、いきなり周囲を覆っていた黒い霧がバラバラと暴れはじめた。それに応えるかのように、三度目の粉砕音が響き渡る。
「ニキータは殺されているな……」
ここに来て、初めて鳴門さんの声に色が見えた。悲しそうな色だった。
黒い霧が晴れていく。真っ暗だった第二通信室の中がハッキリ見えるようになってきた。部屋が暗かったんじゃない。黒い霧に覆われていたから闇のように見えたんだ。そして霧が晴れた今、室内の様子をハッキリ見ることができた。
粉砕された巨大な岩が見えた。球形をしているので確かに「月」とも取れる。後ろ手に拘束された鳴門さんがその傍に立っていた。と、僕の体に変化が起きた。
柔らかくなってる……!
体が動く……!
僕はぺちぺちと頬を打った。動く。戻った。大丈夫だ。大丈夫だ。窮地からの復活という落差に涙が出そうだった。すぐ近くでヒサ姉が「よっこらしょ」と体を起こす。絶久さんや、スキマさん、すずめさんたちも、復活している。僕は起き上がって周囲を観察した。
入り口ドアの真横の壁が破壊されて大きな穴が開いていた。そのまま中にある機械がいくつか破壊され、あるいは倒され、床に散乱している。機械の破片や倒され方がまるで鳴門さんの移動の軌跡のように見えた。朧気ながら、僕は理解した。
まず壁を破壊して、入り口以外の「入り口」を作る。入り口を守っていればよかった黒い霧はこれで一瞬混乱する。その隙に軽やかなフットワークで本体である「月」に突撃した鳴門さんは、そのまま自由に動かせる足で敵本体を粉砕したのだろう。結果、僕たちは……!
後ろ手に拘束された鳴門さんは悲しそうな顔で床を見つめると、ため息をついた。彼の視線の先には粉々に破壊されたフィギュアがあった。消し炭のように黒くなり、崩壊していくフィギュアが。
「これで僕が本物だと理解してくれたかな」
静かな一言だった。
「
沈黙。誰も何も言わない。
もしかして、
彼の軌跡を見た僕はそんな場違いな感想を抱いた。並の身体能力じゃ「壁を壊して突入し、電光石火の勢いで敵本体を破壊する」なんてことはできない。
悲しそうな顔をしている鳴門さんのところに、綺嬋さんが近寄った。それから告げた。
「……疑ったりして、悪かったわね」
「いいんだ。僕が君たちの立場でも同じことをしていたさ」
僕は慌てて彼に近寄ると、手錠を外す描写をした。自由になった鳴門さんは手首を揉むとつぶやいた。
「信じてもらえて嬉しいよ」
*
危うく全滅の危機を脱し、僕たちは前進していった。ハッチに着くと数名外に出て敵を討伐して帰ってくる、ということを繰り返した。
途中、物資が補給できる倉庫を確認したので全員で中に入り休憩をとった。……とろうとした。
「……ねこちゃん?」
ヒサ姉が素っ頓狂な声を上げた。全員一斉に警戒する。
倉庫の隅。大きなコンテナの後ろに、女の子が隠れていた。ピンク色のポニーテール。真っ白なワンピース。困ったような顔をしたアカウントが……二体。
「あ、よかったぁ、みんなだ。助けに来てくれたぁ」
朱ねこさんだった。遺跡戦闘で飯田さんを刺し殺して日諸さんを復活させた、「時間操作系」の能力を持つ女の子。それが……二人。
「この子私の真似してくるのぉ」
二人の朱ねこさんがお互いを指差してうわーんという顔をする。とりあえず、とすずめさんがメットを使って二人を見る。
「左のが偽物」
銃声。偽朱ねこが倒される。
「はー。怖かった。あいつ何もしてこなかったけどずっと私の真似して……」
「戦闘向きの能力じゃないからお互い危害を加えられなかったんでしょうね」
僕がつぶやくと朱ねこさんがふうと一息ついてから、話し始めた。
「金髪のお姉さんに抱きつかれたらいきなり隣にあいつがいたんだ。怖かった。偽物も、金髪のお姉さんも」
金髪の女、で一斉にみんな反応する。
「どんな奴だった? 何された?」
すずめさん。
「抱きつかれただけだよ……『あなたは弱そうね』とも言われたけど」
あ、でもそう言えば。
朱ねこさんが続ける。
「そのお姉さん、去り際に『EVEブロックのCエリアを通って第五制御室に向かっているのね。ありがとう、いい子ねぇ』ってつぶやいてた」
僕たちに緊張が走った。
「進撃チームの進路がバレてる?」
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