捻じ曲げられて
「『円卓の騎士』……?」
僕は組み敷かれた幕画ふぃんさんに訊ねる。
「強いんですか?」
「剣の腕は確かだ! そしてPVも多いから他のキャラの能力も使える。作中にめちゃくちゃに強い魔法使いがいる。人形を使って戦闘もできる!」
「……多分、『人形を使う』が曲解されてる!」
狼型の結月さんが叫ぶ。
「何とかして! 私が押さえ込めるのにも限界がある!」
「幕画ふぃんさんが思いついたという攻略法とやらを!」
僕が叫ぶと幕画ふぃんさんは笑った。
「可能性にすぎん。そもそも魔法の可能性もあるしな」
しかし、と幕画ふぃんさんは頭上を見上げる。
「『人形を操る能力』が曲解されているのだとしたら『糸』がある! それを切ればあるいは……」
「こういうことかな」
栗栖さん。一瞬で結月さんの方に接近し、頭上に向かって剣を振る。
「どう。自分の意思で動けるようになったかな」
「……なった!」
立ち退く結月さん。
「暴力を振るったことをお許しください!」
幕画ふぃんさんは優しく銀髪を撫でる。
「いいんだ。ありがとう。助けてくれて」
さて、と幕画ふぃんさん。頭上を睨む。
「あそこに攻撃を当てるのは少々面倒だ。まずは仲間を解放する……」
続いて熊の方を睨む幕画ふぃんさん。
「悪魔だな。あいつがMACKとAi_neと道裏に影響を与えているのは見て取れる。……だが、接近はできんようだな。近づけないなら近づけないで手はあるが……」
「あの『エディター』はうちのギルドに任せた方がいい。あなたたちは正しく能力が使えない危険がある」
栗栖さんが
「メロウ+さんなら攻撃できるかな」
僕はどきりとした。バリアを突破する時の光景を思い出したからだ。幻惑。幻想。彼女の左手で浮かぶ水晶に、冷たい窓ガラスに頬を当てたような恐怖がほんのりと蘇る。
「糸を切ればいいんだね」
獣型の
「牙でも切れるかな……」
「っていうかさ、物書きくんが『呪いは解けた』みたいな描写すればいいんじゃないの?」赤坂さんが僕に訊ねる。僕は返す。
「機械より原理が難しい魔法の描写なんてできるわけないでしょ……」
「想像しなよ。創造でしょ?」
またその言葉か。
「本とかも読まないの?」
「全然」
「何で『カクヨム』に来たんだよ」
その事情を話すと長くなる。
とはいえ、戦闘に参加できるように、僕は「ペン」と「虫眼鏡」を手にした。
臨戦態勢。頭上から降ってくる糸に注意しながら、戦う姿勢を見せる。
「元凶叩くのが一番だわね」メロウ+さん。「撲、滅」
水晶玉が不思議な光を放つ。彼女はどうやらあの熊に的を絞ったようだ。
「物書きくんと葵ちゃんは花ちゃんとふぃんさんの援護ねぇ」
メロウ+さんが指示を飛ばしてくる。
「はい!」僕は叫ぶ。
糸の支配から解放された幕画ふぃんさんと結月さんは、頭上を睨んでいた。
「私たちが貴様を正気に戻してやる! 待っていろ、MACK!」
幕画ふぃんさんの剣技は鮮やかだった。
華麗な動きでアカウントの頭上の糸を切断し、解放していく。自分の意思で動けるようになったアカウントはどんどん「糸の間」から退散し、余計な混乱を起こすまいとしている。
が、しかし。
糸は無限に伸びてくるのだろうか。逃げようとするアカウントの挙動がおかしくなることがあった。その度に幕画ふぃんさんが糸を切断しに行く。
「少しでも自分の挙動に不安を感じた者は叫べ!」
剣を振りながら幕画ふぃんさん。
「必ず救出する!」
しかし。
糸が無限に伸び続けているこの状況は幕画ふぃんさんが消耗するだけだった。栗栖さんも
「許せない……許せない……」
狼姿の結月さんがつぶやく。
「MACKさんの『マリオネットインテグレーター』は精霊の支配から脱して自分の意思を取り戻す話。それがこんな、人を支配する能力に変えられるなんて……」
彼女の無念も分かる気がした。作品は作家にとって我が子に等しい。読者にとっては聖典に等しい。それが曲解され、捻じ曲げられ、歪んだ形で現実にされるのはさぞかし悔しいだろう。
何とかしてあげたい。力になりたい。僕はそう思った。
手を見る。「ペン」、「虫眼鏡」これで何かできないか。
ふと、ひとつのアイディアを思いついたのは幕画ふぃんさんが剣で糸を切断している時だった。
そうだ。糸、だよな。あれ、MACKさんが操っているってことは、逆にMACKさんに繋がっているんだよな。
「赤坂さん! 結月さん!」
僕は叫ぶ。「ペン」を動かし〈糸〉と綴る。それから「虫眼鏡」を構えた。
「MACKさんを引きずり下ろします! 手伝って!」
「任せて」赤坂さんが「脳筋ゴリラ」のまま近づいてくる。その気配で察したのか、結月さんも人型の
「何する気?」結月さんの質問に僕は答える。
「糸を全部検索で引っ掛けます。この室内にある糸が全部僕の手元に来る。そうしたら三人で、思いっきり引っ張りましょう。あるいは、引きずり落とせるかもしれない」
「なるほど!」
結月さんと赤坂さんが身構える。
「やって! 物書きくん!」
「はい!」
僕は虫眼鏡を覗く。〈糸〉という字が消えた。
次の瞬間。
天井からぶら下げられていた光るビーズの通った糸が一斉に僕の手元に集まった。室内が一気に暗くなり、代わりに僕らの周りの床が明るくなる。しかし僕は検索に引っかかったそれらを、握る。
「これって天井の明かりの糸が引き寄せられただけじゃ……」
とつぶやく赤坂さんに、僕は叫ぶ。
「妙な手ごたえがあります! 多分、MACKさんに繋がっている!」
頭上。宙に浮いたMACKさんがバランスを崩したように揺れる。結月さんが僕の手元にある糸をつかんだ。
「さすが物書きくん! 上手くいってる!」
ぐい、と見えない糸を手繰り寄せる結月さん。
「葵ちゃんも手伝って!」
「はい!」
「脳筋ゴリラ」も見えない糸をつかむ。僕は声を上げる。
「せーのっ」
三人で、思いっきり引っ張る。
MACKさんが体勢を崩した。三人で、再び一気に手繰り寄せる。
MACKさんがこちらの方に飛んできた。引き寄せられている。すぐさま結月さんが反応した。獣型
「押さえた……!」低い、唸り声。
「正気に戻って! あなたの作品はこんなのじゃない!」
しかし。
ロッドのように長い、剣……。
「落ちてくる時に抜いてたんだ!」赤坂さん。
「接近戦に切り替えた! 注意して!」
「ごめんね、MACKさん。あなたを傷つけたくないけど……」
「必ず正気に戻してみせるから……!」
しかし。と僕は思った。
元凶を叩かないとまたすぐに誰かの正気が失われるかもしれない。
本体を……あの爆睡している熊を叩かねば。
そう思って僕はメロウ+さんの方を見た。彼女は怪しげな表情で水晶玉を構えていた。
「起きろ。熊」メロウ+さんの手の中の水晶が光り輝く。「覚、醒」
こちらの戦闘も、始まろうとしていた。
気がかりなのは……両サイドの二人。
オレンジ色の髪をした男性と真っ赤な髪をした少女。
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