慕情

「幕画ふぃんさん……」

 結月さん。カードから救出された「King Arthur」の面々に目をやっている。


「あー、花ちゃん」けらけらと笑うメロウ+さん。「憧、憬」

「しょうけい?」首を傾げる僕。「憧れですか?」


 気づけばほんのりと頬を染める結月さん。知り合いなのか? 


 彼女の視線の先にいたアカウント。


 長い、真っ黒な鞘に包まれた剣を腰に据えた長髪の剣士……だった。髪の色は黒い。男性か女性かは分からない。男性的な無骨さは感じられるが、反面女性的な線の細さ、肌艶も感じられた。あの剣には何かありそうだが……。何となく、禍々しいオーラを放っている気がする。


 苦痛から解放され、ほっとしたり、呆然としているアカウントが多い中で、その幕画ふぃんさんという方だけはしっかりとした目つきでメイルストロムさんに話しかけていた。会話に、耳をそばだてる。


「すまんかったな。被害状況は?」

「壊滅的です」メイルストロムさん。「ついさっきまで私以外、まともなアカウントはおりませんでした」

「見慣れない者がいるが?」

「『ノラ』ギルドの面々です。助けていただきました」

「はぐれ者たちか……」

 と、幕画ふぃんさんの目が結月さんに留まる。飛び跳ねる結月さん。

「あ、あの……」

 そう言いかけた結月さんの頬に幕画ふぃんさんが右手を添える。

「はわわわわ!」

「助けてくれたのか。ありがとう。この恩は必ず返す」


 けらけら笑うメロウ+さん。「役、得」

「助けたのは私なんだけどな」

 栗栖さん。手柄を横取りされた気分なのだろう。

「お腹が……」

 お腹を擦る赤坂さん。女の子の姿に戻っている。そりゃあれだけバナナを食べればお腹も膨れるだろう。


「状況を教えてほしい。君たちは何故この城に来た」

「はわ……えーっと、まず、加藤さんという、うちのギルドのメンバーがいまして……」

 簡単に事情を説明する結月さん。加藤さん救出のために城に来たこと。救出後、新種の『エディター』を確認しその討伐に来たこと。


「なるほど。つまり私たちの敵は同じということだ」

 すっと腰の剣に手を伸ばす。あの剣……わけありそうだ。

「戦えるメンバーはいるか?」

 幕画ふぃんさんが「King Arthur」の面々に声をかける。挙手をするものが数十名。全体の六割程度。


「戦えない者はこの場に残れ。目くらましの魔法が使える者は?」

 数名の挙手。幕画ふぃんさんが指示を飛ばす。

「この教会を守れ。ここで戦闘があった、ということは教会に施しておいた聖なる守りも破られている。補強しておくのだ」

「幕画ふぃん様は?」メイルストロムさんが訊ねる。

「私は『エディター』討伐のためこの者たちと行動を共にする」

 すっと幕画ふぃんさんが僕たちに向かって手を伸ばす。

「私はこういうものだ。覚えておいて欲しい」


 幕画ふぃんさん。アカウントID「@makuga-fin」。紹介文は「関西在住の社畜。※良いと思った作品には唐突にレビュー書く事があります。驚かせてしまったらすいません^^;読むもの、書くもの→異世界/現代ファンタジー、ラブコメ、恋愛、短編」。

 アカウントのキャラよりずっと明るい感じの紹介文だ。関西のノリなのだろうか。それともアカウントのキャラになり切るタイプなのだろうか。

 それに結月さんとの関係もどういうものなのだろう。確かに結月さんの作品はファンタジーっぽいところもあるけれど「King Arthur」と何らかかかわりがあったのだろうか? 


「花ちゃんお取込み中悪いんだけどさぁ」

 メロウ+さんが笑いながら告げる。

「さっさとしないと『カクヨム』フィールドが変なバリアに飲まれちゃうから、次行こうよ、次。進、撃」

「次の『エディター』の居場所に心当たりがあるのか?」

 幕画ふぃんさんが凛とした声で訊ねてくる。メロウ+さんが楽しそうに答える。

「んふふ。太朗くんが城内のスキャンをしてくれた時に、H.O.L.M.E.S.が言ってたでしょ。玄関広間の向こうの応接間と思しき空間にバリアを張っている主がいるって」

 潜、伏。

 メロウ+さんは水晶玉を覗き込む。何か見えるのだろうか。それとも単なる癖なのだろうか。

「花ちゃん臭いで辿れない? 物書きくんが持ってるカードと同じ臭いがするところに行けばいいんでしょ?」


「玄関広間の奥の部屋なら知ってるぞ」

 幕画ふぃんさんが告げる。

「『糸の間』だ」

「『糸の間』」僕は首を傾げる。

 うむ。と幕画ふぃんさんが頷く。

「特に捻りはない。シャンデリアの代わりに糸に光るビーズを通して明かりとしているだけだ。星空のように美しい間だ」

「素敵……」結月さん。「そんなお部屋にふぃん様と……」


「……結月さん、幕画ふぃんさんと何があったんですか」

 僕はメロウ+さんに耳打ちする。すると彼女はけらけら笑って囁き返してくれる。

「花ちゃん幕画ふぃんさんの読者だったの。で、『カクヨム』に登録したばかりの頃、右も左も分からない花ちゃんに『カクヨム』の使い方を教えてくれたのがふぃんさんみたい。花ちゃん、『エディター』騒動が起こった当初は『King Arthur』に入ろうかと思っていたらしいんだけど……」


「だけど?」

「『King Arthur』のトップがかなりいけ好かない奴でね。『☆の力が欲しければ朕のために働け』って感じの人で。偉そうでしょ。おまけに女性アカウントと見るやメイドのコスプレさせるような人だったみたいで。花ちゃんそいつの言いなりになるなんて毛虫に体中這われるような気分だ、って言ってたから、よほど嫌いだったんだね」

 嫌、悪。


 メロウ+さんに僕は質問する。

「幕画ふぃんさんは何でそんな人の下で働こうと思ったのでしょう?」

「まぁ、ファンタジー系のギルドは『King Arthur』一強だからね。自分の力を存分に発揮したいと思ったらここに入るのが確実かも。それに、ふぃんさん元から『☆』持ってるから、ギルドリーダーの言いなりにはならなくて済んだみたいだし」


 実力を持っているから「円卓の騎士」になれたのか。確かにあの人、何となく強そうだ。

「ついて来い。……余力のある者もだ! これより『King Arthur』奪還戦争を開始する!」


 教会中に響き渡る溌剌とした声。ぞろぞろと複数のアカウントがそれに続いていった。当然ながら結月さんもその中に……いた。


 僕とメロウ+さんは笑い合って、みんなについて行った。栗栖さんと赤坂さんは少し不服そうだった。

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