第484話 召喚状1

 王都に到着し、「砦を建ててさあ委員長と決戦だ!」と行きたかったところだが、勝つためには委員長の【支配】スキル対策が必要だった。

こちらの主要メンバーを支配されてしまったならば、簡単に戦況を覆されかねないからだ。


 特に、正規軍の指揮官や貴族の領軍指揮官が支配されてしまうと、その数の暴力が直接俺たちの脅威に早変わりしてしまう。

いくら個の力が強くても集団の力には抗うことが出来ない。

味方が突然敵となりかねないのでは、戦いようがない。


 そのため俺たちは、今のままでは決戦に挑むわけにはいかなかった。

どうやら委員長は情報収集に疎く、まだアレックスが倒されたことも知らないようだった。

そして、アレックスの正規軍が戻って来たことも、アレックスの補給を絶った効果だと思っていて、戦力を奪う好機と認識しているようだ。

俺たちは、この状況を利用して委員長を放置し、レベルアップの時間を稼ぐことにした。


 俺たちは、委員長の勘違いを利用して王都に潜み、委員長の支配を逃れられるレベルに上がってから、総攻撃を仕掛けようという方針に転換していた。


 好都合なことに王都には迷宮があったからだ。

これはリュウヤたちがアーケランド勇者として育成されていた頃に、良く入っていた迷宮で、通称訓練迷宮と呼ばれるものだった。

迷宮は管理され、そこからの素材や富がアーケランドの繁栄の一助ともなっているようだ。


 その迷宮に入り魔物と戦うことで、アーケランドは勇者や騎士のレベル上げをしていたわけだ。

他国との戦争に勝つために。


 そこを俺たちも利用してやろうという事になった。

委員長がアレックスと戦っているつもりになっている今がチャンスだ。


 俺たちは、タルコット侯爵の王都邸に世話になりながら、迷宮でのレベルアップに勤しむことになった。

ちなみに、優斗まさとたちも救出済みで、翼たちと合流させている。

日本食に涙を流し、癒しで魔物毒を浄化しているのは言うまでもない。

彼らも戦力としてあてにしているので、訓練迷宮に入ってもらっている。


 ◇


 そんなある日のこと。


「新アーケランド王を名乗るアーサー卿委員長から、この王都屋敷に召喚状が届きましたぞ」


 それを俺に報告してくれたのは、家主のタルコット侯爵その人だった。

侯爵は、俺が王権を得たという事実よりも前から、次期王という認識を持って仕えてくれていた正統アーケランドの重鎮だ。

委員長がしくじって俺に王権が移ったことを知っており、殊の外喜んでくれた。

そして、この召喚状にどう対応すれば良いのか、俺に指示を仰いで来たのだ。


「おそらくアーケランドの貴族家当主を王城に呼んで、一気に支配するつもりだ」


 貴族家当主、王国アーケランド政治に関わる文官の長、正規軍の将軍、それらを支配すれば国を支配することと同じとなる。

末端の兵や市民など、上さえ掌握すればどうとでもなるということだろう。


 そして、召喚状に応じなければ謀反の気ありと、攻め落とす事も可能。

委員長アーサー卿は、誰が味方で、誰が敵か、明確に判断しようというのだろう。

そして、疑念が在りながらも、形だけでも登城して来た貴族は【支配】スキルで手駒にしてしまう。

委員長アーサー卿にとっては損のない展開というわけだ。


「では、登城しない方向ですかな?」


 タルコット侯爵は、支配されないためには登城しなければ良いという判断のようだ。

だが、俺には策があった。


「この魔導具を使う」


 俺はネックレスとブローチに偽装したアクセサリーと見紛う魔導具をタルコット侯爵に差し出した。


「これは?」


「1回だけ支配スキルから逃れることが出来、支配されているかどうかを宝石の色で教えてくれる魔導具です」


 そう、これはリュウヤと召喚の儀の秘密を王城に探りに行った時に、もしアレックスと遭遇した時に再支配されないようにと、安全のために渡した魔導具だ。

あの時のものはまだリュウヤが持っているので、新たに作ったものだけどね。

錬金術大全、ほんと役に立ったな。

高い金を払った価値があったというものだ。


 その使用機会には恵まれなかったが、1度だけ支配を防ぎ、もし支配されていれば宝石の色が青から赤になり他の者に知らせるという魔導具だ。

リュウヤが赤になっていたならば殺してくれと言っていたやつだ。

その当時はアレックスが【支配】を使っていると思っていたのだが、蓋を開けてみればそれは委員長アーサー卿のスキルだったわけだ。


「これを持って登城し、アーサー卿委員長の思惑を調べて欲しいのです」


「なるほど、この魔導具があれば、1度ならば支配から逃れ、支配されていても後で判るということですな」


「ああ、赤になっても俺が助ける。

これをなるべく多くの派閥貴族たちに配って欲しい。

そして、アーサー卿委員長に恭順するふりをして時間を稼ぐのだ」


 もしタルコット侯爵の魔導具が赤くなって帰って来たら、直ぐに【洗脳】で【支配】を解除する。

派閥貴族たちも、委員長アーサー卿に支配されたからといって、タルコット侯爵派閥から抜けるわけではない。

タルコット侯爵の呼び出しには応じてくれるだろう。

そこで支配されている者が居たならば解除してしまうのだ。


「面白くなって来ましたな」


 タルコット侯爵は、自分が間者にでもなったような気になったらしく、その得難い経験を想像して心躍らせている。

茶目っ気のあるおっさんだ。


「地方貴族が出仕するまでにはまだ時間がかかりましょう。

召喚状は文官が用意したのでしょうから、期日はまだ先になっております。

その前に派閥貴族たちに話をつけ、魔導具の貸与を行ないましょう」


 委員長アーサー卿がそこらへんに疎くても、文官がそこはしっかり調整したか。

貴族家当主本人が地方に居るのに、「明日王城に来い。来なければ謀反と見做す」じゃ命がいくつあっても足りない。

時間があるならば、もう少しやっておこうか。


「俺がアーケランド王になったことを知り、恭順の意を示した貴族家にも話を通せるか?

彼らにも魔導具を配ろう」


「お任せください。

アレックスが討たれて混乱している貴族家の取り崩しも行なってみせましょうぞ」


「頼りにしているよ」


「栄誉の極み」


 ほんと、頼りになる侯爵が味方になってくれて良かった。

アレックス派の貴族たちも、委員長アーサー卿が上に立つのは面白くないだろう。

委員長アーサー卿がセシリアを妻にしたと言っていることも、そこには影響しているのだ。


 アーケランド王家には、跡取り息子が居ないため、3人の王女の誰かの夫が王となることになっていた。

バカバカしい話だが、そこで各王女を推して次代の王にあやかろうという派閥が生まれた。

アレックスに与したのはエレノア王女を推す派閥で、タルコット侯爵はセシリア王女派閥だったわけだ。

つまり、委員長アーサー卿が自称しているセシリア王女の夫というのはセシリア王女派閥だと言っていることとなり、エレノア王女派閥とは犬猿の仲なわけだ。


 アレックスが死に、既に王権が俺に移ったと知った後、エレノア王女派閥は委員長アーサー卿には与しないはずだ。

よほどの悪行を働き、俺から粛清されると思っている悪徳貴族でなければな。


 そんな奴らは、むしろ委員長アーサー卿と共に倒してしまった方が良いだろう。

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