第482話 王権を使う
482 王権を使う
俺が目覚めたことが伝わって、麗、陽菜、セシリアがやって来た。
「あらあら、せっかく2人きりにしたのに、つまらない話ばかりしているのね」
「イチャイチャタイムもったいない」
「力及ばず申し訳なく存じます」
皆心配してくれていたが、結衣との時間を作ってくれていたようだ。
それなのに、俺はその貴重な時間を状況説明に費やしてしまっていた。
それを知った上での麗と陽菜の台詞だろう。
セシリアのは、俺不在でのアーケランド軍説得を失敗したことか。
その気遣いも気にせず、今の状況ばっかり結衣に訊いていた。
反省しなければ。
「そうだったのか。ごめ……いや、ありがとう」
そういや、ごめんと言わずにありがとうキャンペーン中だったわ。
「うふふ、命がけで助けてくれただけで充分だよ♡」
いや、結衣が俺を信じて命をかけてくれたから、あの危機的状況で突破口が開けたのだ。
感謝するのは俺の方だ。
この埋め合わせは後程たっぷりと。
生命の危機を迎えると、身体が子孫を残したいモードになるという。
その影響が今も残っているようだ。
いや、そうだった。あの滾りは何処に?
寝ている間に処理されてしまったのか?
夜に訊いてみるしかないか。
夜の憩いのために、さっさと戦いを終わらせて温泉でスローライフを目指さなければ。
そのためには、セシリアに王権の使い方を教えてもらわないと。
「セシリア、さっさと戦いを終わらせたい。
王権を使うとはどういうことだ?
いや、どう使えば良い?」
「そのことならば、お着替えになりながらお話ししましょう」
セシリアの合図で侍女たちが俺を囲む。
いや、セシリアも侍女が囲んでいる。
「王族には、その身分を公的に示すための魔法があります」
侍女により病院着のような簡素だが清潔な服を脱がされてしまう。
セシリアも普段着のドレスを脱いでいる。
ちょっと、俺の前で着替える気ですか?
まあ、嫁だし、俺以外に男もいないし本人さえ良ければ……。
全然気にしてないね。
「王権を使うとは、その魔法を使うことを意味します」
そんなことは全く気にせずに、セシリアは着替えながら話を続ける。
俺も
セシリアが着替えるのはどうやら王家の正装のようだ。
何処にあったなんて野暮なことは言わない。
大方、侍女の誰かがアイテムボックス持ちだったのだ。
「王権を使えば、王家の紋章がステータス表示のように浮かび上がるのです」
「そんな便利な魔法があるのか」
魔法と言っているが、それはステータス表示と同様のMPを使用しない仕組みだった。
ゲーム的な感覚だとシステムコマンドの一種かな?
なるほど、いくら俺たちが正統アーケランドを主張しても、王権を得るまでは王とは見做されなかったわけだ。
まあ、あの状態ではアレックスと俺の跡目争いみたいなものだったからな。
「王女でも使えますよ。【王権】」
するとセシリアがステータスを表示するかのように王権を使ってみせた。
セシリアの目の前斜め上に紋章が表示される。
「あ、王妃の紋章に代わってますね」
セシリアは、王女の紋章を出すつもりだったようだが、俺が王権を得たために王妃となっていた。
いや王妃であるセシリアの夫の俺が王になったのか。
「まさか、これみたいなことは貴族も使えるのか?」
これを貴族が使えて、貴族の紋章が表示されるのならば、偽貴族なんて一発でバレる。
「爵位は王家が下賜するものですので、王族が使うことで表示させることが出来ますが、貴族本人には出来ません」
なるほど、だから俺が偽貴族をやっていてもバレなかったわけね。
王族と接触することもなかったし、俺の身分を確認するために、わざわざ王族がやってくることもないだろうからな。
「さあ、準備が整いました。
今から王権を示しに参りましょう」
俺とセシリアの正装が完了した。
王権を示し、要塞都市グラジエフの兵たちを掌握する。
そうすれば無益な戦いは終わる。
「ちょっと箔を付けるか」
はったりって必要だよね。
俺は収納されてしまっていた眷属たちを召喚した。
そして俺はレッドドラゴンの頭に乗る。
セシリアはグリーンドラゴンの頭の上だ。
ドラゴンをも従える俺たち夫婦に平伏すのだ。(嘘)
砦の前にドラゴンの頭に乗った男女が現れ、アーケランド軍に騒ぎが起きる。
その騒ぎにより俺たちへの注目が集まる。
これを狙ってのドラゴンなんだからね。
「わたくしはアーケランド王家第二王女セシリアです。
父王より、わたくしの配偶者に王権が移譲されました。
戦時により戴冠式は行なっておりませんが、私の夫が新たなアーケランド王となったのです。
見よ! これがわたくしの夫が王である証拠です。【王権】」
セシリアが堂々と口上を述べ王妃の紋章を表示させた。
先程と違って20畳ほどの巨大なものが空に浮かぶ。
「あれは、王妃の紋章!」
「エレノア王女が王妃になるのではないのか?」
「つまり、セシリア王女の夫こそが王なのか?」
「アレックス様が次期王になると信じてついて来たというのに……」
アーケランド軍の中からざわめきが起きる。
嘆いているのはアレックスに付いて富を得ようと画策していた貴族か?
「我が夫、ヒロキ・ミウラ=カシマ・アーケランドよ、王権を皆の目に!」
そして、セシリアは俺にも紋章を表示するようにと振る。
ああ、俺の名前にアーケランドが付いている。
個人的にはアーケランドはイメージが悪いんだけど?
国の名前って変えられないのかな?
いや、今は王である証拠を示す時だ。
これで
「【王権】」
俺がそう呟くと、俺の目の前斜め上にアーケランド王の紋章が表示された。
「「「「おおお!!!」」」」
アーケランド軍から感嘆の声が漏れる。
いや、俺たちの陣営からも驚きの声が出ている。
そういや、アレックスから王家を救い
アーケランド軍は、文字通りアーケランド王の軍だ。
正規軍ほどその臣従具合は強く、その臣従先はアレックス個人ではなく王権にあった。
なので、彼らは戦いの最中であっても剣を収め、その場に跪いた。
戸惑っているのは良くも悪くもアレックスに付くと決めていた貴族家の領軍だった。
このままでは、アレックスの威を借りた悪行が露見するかもしれないと、あたふたしていた。
だが、形だけでも臣従するべきと判断したのか、皆跪いた。
「あの貴族家はわかるか?」
「はい。後で調べるように言っておきましょう」
こうして、俺たちは要塞都市グラジエフを然程血を流さずに開城させることに成功した。
◇
「申し上げにくいのですが、食糧の備蓄が底を尽きそうでして……」
正規軍を率いる将軍が、20万人、いや市民を入れて25万人の食糧が足りないと申し出て来た。
「王都からの補給は?」
「止まっています」
やはり補給が止まっていたようだ。
こちらだって、5万の兵を食わすのでいっぱいいっぱいなのだ。
25万人分追加なんて冗談ではない。
「領主貴族が参加しているな?
そこから供出させろ」
「はい。しかし時間がかかるかと。
王都からの補給はどうなっているのでしょうか?」
いや、俺も王都は掌握していないからな。
委員長が王になった気で支配しているとなると、王都に補給を望むのは無理だろう。
やはり委員長を排斥しないとこの戦いは終わりそうもないな。
「タルコット侯爵に補給の打診を。
グラジエフの正規軍は、補給物資になるべく近付くために王都へと向かえ!」
補給のしっかりしているタルコット侯爵軍に食糧を分けてもらい、王都で物資を調達するしかない。
そして委員長を討たなければならない。
委員長の【支配】スキルは脅威だ。
王権など関係なく国を支配できる。
ステータスも王権も関係なく、委員長は支配者なのだ。
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