第472話 委員長の暗躍

Side:委員長


 夢から目が覚めた。

王国アーケランドの王太女配、つまり次期王女の夫アレックスからの洗脳が解けたのだ。

僕は王国アーケランドの対応にはずっと不審感を持っていた。

ヤンキーチームとは合わせてもらえず、せっかく出会った金属バットは洗脳されたようで別人格にされていた。

それにより、僕自身は洗脳されないようにと王国アーケランドの益になるようにと動いていた。

大方金属バットたちが暴れたせいで御し易いようにと洗脳されたのだろうと思っていたからだ。

都合が良い相手ならば洗脳などしないと判断したわけだ。


 僕の警戒の中心は、アーケランド王に向かっていた。

どうやら金属バットたちを洗脳したのは、アーケランド王その人だったようなのだ。

洗脳されたら終わる。警戒するに越したことはない。


 僕のお付きの女騎士――マリアンヌはヤンキーたちの動向に関しては多くを語らないが、アーケランドの勇者物語というものは、マリアンヌ自信が好きなのか、良く語ってくれた。


 その勇者物語はちょっと異常だった。

王国アーケランドでは当然のことのように伝わっているようだが、節々に違和感がある。

勇者が魔物や魔王軍幹部を倒し、ついに魔王を討伐し、めでたしめでたしではないのだ。


 まず勇者物語には魔王に協力している人類国家が尖兵として登場する。

勇者はその人類国家の打倒から入るのだ。

これって、勇者が王国アーケランドに良いように使われて戦争をさせられているだけなのでは?


 そして、勇者が裏切って魔王の手先となり、それを別の勇者が討伐する。

その勇者は元々魔王と内通していたのだという話になる。

魔王に協力している人類国家を打倒した勇者なのにだ。

ここでおかしいと思わない王国アーケランド国民の感性を疑う。


 多大な犠牲を払いながら、裏切り者を倒し、そしてついに魔王を倒し物語は終わる。


 では、今僕たちが戦えと言われている魔王とその魔王の手先である皇国は何なのだ?

絶対におかしい。

王国アーケランドはやはり他国を侵略するために召喚勇者を利用しているだけなのではないのか?

そして、都合が悪くなると勇者を裏切り者扱いして処分して来たのではないのか?


 この国アーケランドに居てはだめだ。早く脱出しなければ。

だが、いったい何処へ行けば良いのか?

今はまだ力を付ける時だ。


 ◇


 ようやく僕にも王国アーケランドに抗う力が手に入った。

僕のスキルは【統率】だったが、それが進化して【支配】となったのだ。


 【統率】は自分よりレベルの低い相手の行動を緩やかに意のままにするものだった。

僕が【統率】を使うと、誰も僕の意見に異を唱えなくなる。

だが、それに違和感を持たれ、反発されてしまう。

そんな感じだった。


 それが【支配】となると別だった。

【支配】は自分よりレベルの低い相手を完全に意のままにするものだった。

僕が【支配】を使うと、誰もが僕の言いなりとなる。

それは僕が離れていても同様なのだ。


 そんな力を付けたおり、召喚の儀のトラブルで療養していたアレックスという人物が現れた。

アレックスは先代勇者の生き残りだそうだ。

先代勇者ならば、王国アーケランドのあらゆる事情を知っているはずだった。

敵か味方かはわからない。

王国アーケランドに染まっているならば敵、忸怩たる思いを抱きながら耐えているならば味方だろう。


 アレックスは王国貴族の非道を正し処分し、更に召喚勇者たちの待遇を改善し出した。

そこで知ったのだが、ヤンキーチームの不明3人は、ブービーが育成中に死亡、ハルルンとさゆゆは生産職だというだけで腐敗した貴族に奴隷として売られていたそうだ。

その非道にアレックスは激怒した。

この人は信用できそうだ、だが、本当にそうなのか?

その相反する気持ちを解決する手段を僕は持っていた。

アレックスを【支配】で支配下に置いて、真意を正せば良いのだ。

味方ならば支配を解いて謝罪すれば良い。


 そう思って僕はアレックスとの面会を望み、【支配】でその真の姿を探ることにしたのだ。


「私と話したいというのは君か?」


 アレックスの執務室に入った僕に、先代勇者アレックスは好意的な態度で握手を求めて来た。

好都合だ。

【統率】は非接触で、声により効果を齎したが、【支配】は接触しなければ発動しない。


 僕はアレックスが差し伸べた右手を握ると【支配】のスキルを発動した。


 だが、そこからの僕は、頭に霞がかかり、自由を奪われてしまったのだ。

僕のスキルよりも強力な【洗脳】の闇魔法が僕を侵食したのだ。

僕の【支配】はアレックスとのレベル差に破れ、アレックスの【洗脳】が勝ったのだ。


「あの時からか……」


 僕が僕でなくなった瞬間を僕は思い出していた。

そして、僕がアレックスの命令でさせられていたことが、他人事のように記憶から浮かび上がって来る。


「金属バットやアマコーを僕が【支配】で操り人形にしたのか……」


 彼らは隣国エール王国との戦いで戦死したと聞いていた。

つまり、僕が彼らを【支配】し、その指揮権をアレックスに奪われたために、彼らを死地に向かわせてしまったのだ。


「そして、僕自身も農業国侵略へと向かわされている……」


 農業国は魔王の手先、倒さなければならない。

そう思い込んでいたが、農業国は単なる食料の輸入先だったはすだ。

隣国エール王国との戦いで食料が不足したから、隣国と同盟国である農業国を攻め、食料を奪ったのだ。


「そこで、同級生に化けた魔族を倒した」


 バカな魔族で無抵抗だったが、良い経験値になったので有難いと思っていた。

いや、なぜ魔族だと思った?

僕が見捨てて死んだはずのノブちんと栄ちゃんの姿だったからか?

だが、どうしてそれが助かった本人たちだと思わなかった?


「僕が生きていたと喜ぶ魔族などいるものか……」


 僕はアレックスの洗脳のせいで、大切な同級生に手をかけていたのだ。


 その苦艱の念に心が壊れる。

僕のステータスにあった真の勇者が消えている理由がわかった。

自らの経験値のためにと無抵抗の同級生を手にかける、そのどこが真の勇者か。


「全てはアレックスの洗脳のせいだ」

 

 アレックスこそが王国アーケランドを牛耳る巨悪だったのだ。

あの強力な闇魔法で、王様や王国アーケランドの重鎮もアレックスの洗脳下にあって操られているのだ。

今ならわかる。アレックスこそが魔王に違いない。

これだけの悪事を働けば、ステータスに出ているはずだ。

魔王だと。


「そう、僕が魔王になってしまったように」


 ◇


 農業国の支配地域に籠り、反抗の機会を伺っていた。

そこで、アレックスが正統アーケランドを名乗る反乱軍と皇国打倒のために軍を動かしたことを知った。

その情報が齎されるまでに数日の時が過ぎているが、それこそ好都合だった。

今から王城に向かえば、移動期間も合わせて、もぬけの殻の王城を落せる。


 僕の【支配】ならば、王国アーケランドを乗っ取ることも可能だろう。

そうだ、第二王女のセシリア姫を妻に向かえ、僕が王となろう。

反乱軍と皇国を利用してアレックスを討つのだ。


 農業国の一部を支配していたアーケランド軍を【支配】し、王都に向かった。

王都を防衛する軍も、アーケランド正規軍を制止するわけがなく、疑いも無くスルーする。

僕はすんなりと王城へと侵入することに成功する。


 だが、そこではトラブルが起きていた。

侵入者が王女の誘拐を試みていたのだ。

賊はエレノア王女の部屋に立て籠もっているという。


 僕がエレノア王女の部屋に入った時、転移阻害の魔導具により転移できないはずの部屋の中から、3人の王女が転移で誘拐されようとしていた。


「【支配】」


 僕は3人の中からセシリア王女に駆け寄り、【支配】のスキルを使った。

王女たちは洗脳されて従わされているようだったからだ。

セシリア姫の手が、竜人と見紛う鎧の男から離れる。

するとセシリア姫の転移はキャンセルされその場に取り残された。


 やったぞ、セシリア姫を助けることに成功した。


「委員長!」


 その時、竜人が僕の仇名を叫んだ。

誰だ? こいつ?

まあ、どうでも良い、敵には違いないのだ。

【支配】スキルを使い、支配下にあるセシリアに命じる。

僕を夫として愛するようにと。


 セシリアが竜人の元から僕の方に駆け寄り抱き着く。


「セシリアーーー!!!」


 竜人はその声だけを残し、魔法陣と共に消え去って行った。


「皆の者のおかげで、セシリア姫誘拐は防ぐことが出来た。

大義であった」


 僕はそう言うと、困惑の表情を見せながら臣下の礼をとる騎士たちの肩に触れ労っていく。

そう、【支配】をかけるためだ。

ここにいる騎士たち全員を支配下に置くと、次は王妃と国王の部屋へと向かう。


 警備の騎士たちが、僕に従っているのだ。

その後、何の抵抗もなく国王と王妃の支配に成功した。


 早速国王には退位してもらい、王位をセシリア姫の配偶者・・・・・・・・・に譲ってもらった。

つまり僕がアーケランドの王となったのだ。

これにより、アーケランド王国は、僕の国となったのだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


 作者自身がNTR嫌いのため、このあとNTR展開はないです。

委員長は玉座が欲しかっただけなので、この後セシリアを放置します。

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