第430話 魔族勇者戦8(前編)

 俺は身体を侵食されながら、結衣たちから距離を取ることだけを考えていた。

致命傷を受けた裁縫女子を助けるためには、マドンナの聖女の力が必要だ。

だが、未だ魔族勇者2の脅威があるうちは、麗も結衣たちも魔法障壁バリアーの外に出すわけにはいかない。


 ならば、安全になるように魔族勇者2を遠ざけるしかないのだ。

やつにはパン屋さん食人植物から奪った触手能力がある。

その触手を伸ばして、麗たちを同化しようとされたら、彼女たちには抗うことすら出来ないだろう。

俺は、俺を捕えたことで悦に入っている魔族勇者2を西門の方角に遠ざけることに全力を注いだ。


「ここまで来れば……」


 俺は魔族勇者2に悟られないように、コンコンに念話を送った。


『コンコン、綾を麗の所まで運んでくれ。

直ぐに聖女の力で回復させるんだ!』


『がってんだー』


 コンコンが綾の所に向かう。


「なるほど、そういうことですか」


 魔族勇者2がニタリと笑い触手を伸ばす。

どうやらまだ射程圏内だったようだ。

コンコンと綾を狙って触手が伸びる。


「させるか!」


 俺はアイテムボックスから取り出した剣を左手に持って、触手に斬りつけた。

手を離したら魔族勇者2に逃げられるって?

もうそれはないのだ。

なぜならば、俺の右腕は魔族勇者2の同化能力で魔族勇者2の胴体に癒着しているからだ。

魔族勇者2の細胞の俺への浸食はそこまで進んでいたのだ。


「無駄なことを!」


 魔族勇者2が新たな触手を伸ばす。

だが、俺はその触手も切り落とす。


「くそっ! なぜ侵食が遅いんだ!」


 どうやら俺の身体はやつにとって侵食しにくかったようだ。


 そうこうするうちに、コンコンが綾を麗の魔法障壁の中へと連れ込むのが見えた。


「裁縫ちゃん!」

「ひどい傷……」

「大丈夫。わたし部位欠損だって治せるんだから!」


 瀕死状態の綾を結衣と瞳美が悲痛な表情で治療台へと運ぶ。

麗も魔法障壁ごと、皆をカバーして動く。

麗の治療が始まった。


「よし、これで一安心だ」


 俺は魔族勇者2の同化能力への対抗手段を考える余裕を持つことが出来た。

今までは綾の安否が気が気でなかったのだ。

さて、これからどうするか。


 魔族勇者2は思うように侵食出来ずに焦っているようだ。

その理由はなんだ?


 もしかして、俺の身体が半分魔王化したことが原因かもしれない。

聖魔法を使った時に右腕にダメージを負ったのも、その魔王化の影響だと思う。

ならば、それを利用すれば突破口が開かれるかもしれないぞ。


――――――――――――――――――――――――――――――

お知らせ

 すみません。

今日の分は個人的な都合により短いです。

時間をあまり空けずに後編も投降する予定です。

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