第407話 サダヒサの詰問

 竜の卵は鳥の卵を巨大にしたやつで、悪魔の卵はお約束の黒いトゲ卵なのであまり変わり映えしなかったが、鬼の卵だけは違っていた。

以前の鬼の卵は赤くて2本角が生えていたが、今回の鬼の卵は青くて1本角だった。

赤鬼卵と青鬼卵ということだろうか?

赤鬼卵からは、キラトが孵っている。

なので青鬼卵もそんな感じだろうと思われる。


 【たまごショップ】で購入した卵は、基本的に2時間で孵る。

ここは時短など考えずにそのまま孵すことにする。

時短にすると特殊個体が孵るのだが、変な要素を加えるべきではないという判断もある。

【たまごショップ】の卵は、今までも変なのしか出て来なかったからな。

輪をかけて変なのになったら困る。


 俺はいま、あの領主館のバルコニーで卵が孵るのを待っている。

あのままバルコニーに留まって、侯爵軍が降伏するのを見守っていたのだ。

そしていま、領主館は完全に占領下にあった。

ほら、纏のクールタイムがあったからあまり動けなかったんだよ。

魔族勇者が逃げたことをオトコスキーが確認するまで、纏を解除出来なかったからね。

それでも、クールタイムは短くなった方だ。

だが、魔族勇者の存在により、俺の周囲も護衛が増えた。

キラトとオトコスキーが常駐するようになったのだ。


「ヒロキ殿、しばしよろしいか?」


 卵が孵るのを待っている俺のところに、サダヒサがやって来た。

やっと彼も雑務から解放されたのだろう。

チラチラとオトコスキーのことを見ているところをみると、あの件でやって来たのだろう。

あの時のことを根掘り葉掘り訊くためだと思うと、俺は憂鬱にならざるを得なかった。

オトコスキーという魔人の存在、そして彼から語られた「魔王様でなくなった」という台詞、それをサダヒサには聞かれていたかもしれないのだから。


「(キラトぐらいならば誤魔化せたんだけどな)」


 俺は覚悟を決めるしかなかった。


「ヒロキ殿には感謝しもうす。

それがし、命を捨ててでも侯爵を討とうと考えていたのであるが、ヒロキ殿はそれがしを救い、侯爵をも討つという離れ業をやってのけたのである。

おかげでそれがしも堂々と生きながらえることが出来もうした」


 そう言うとサダヒサは深々と頭を下げた。

サダヒサが助かったことで侯爵を討ち漏らしたならば、おそらくサダヒサは武人として行き恥を晒すことになったと考えているのだろう。


「だがそこで、聞き捨ての出来ぬ台詞を耳にしもうした」


 ああ、やっぱりサダヒサは聞いてたか。

あのどさくさで聞いてなければ良いと思ったが、さすがに無理があったな。


「ヒロキ殿が『魔王様ではなくなった』とはどういうことであるか?」


 皇国とシマズ家は、魔王討伐で名を馳せた勇者の末裔だ。

俺が魔王であれば、協力関係など結べるはずもない。

だから、俺は魔王と思われないようにと、サダヒサの前では能力を隠していたのだ。

それが、あの場面で形振りかまえなかったことで、それが白日の下に晒されてしまったということだ。


「話さなければならないんだよな?」


「話してもらえなければ、我が皇国との関係も壊れると思ってくだされ」


 サダヒサが悲痛な表情を見せる。

サダヒサが危機に陥らなければ、俺は疑われるような力を使わなかっただろう。

そこまでして救ってもらった恩義と、魔王絡みならば容赦出来ないという葛藤をサダヒサは抱えているのだろう。


「俺はギフトスキルの恩恵で、魔人や魔物を眷属として使役できる」


「それをテイマーと申されていたのであるな」


「そうだ。農業国の教会でジョブを調べたところ、俺には何故か複数のジョブがあった。

領主、たまご召喚士、錬金術師などだ。

だが、その他に持っていたジョブの1つが魔王だった」


「最近発見されたセカンドジョブであるな」


 俺の告白に、サダヒサは腰の刀の柄に手を添えた。

俺が魔王ならば問答無用で斬るという感じだろうか。

だが、サダヒサは浅慮な行動には出ず、俺の次の言葉を待った。


「だが、それは『魔物の王』という感じだったのだと思う。

眷属を増やす等の行ないでジョブが育って来てしまっていた。

そこに悪行が加わることで闇落ちの危険が俺を襲った。

悪行といっても、俺の倫理観によるものだ。

攻撃して来た王国アーケランド軍の兵を、眷属が大量に殺した、それでも俺は闇落ちの危機となった。

それを救ってくれたのが嫁たちだった」


「闇落ちは知ってもうす。

まさにアレックスが勇者から闇落ちして魔王になったと伝えられているのである。

闇落ちにそのうような回避方法があるなど、初めて知ったのである」


「そして、先日、最大の危機が訪れた。

俺は、アーケランドの民を救うため、セシリア王女に協力を求めた。

その協力の条件が、俺との婚姻だった。

それを承諾したところセシリア王女からキスをされた。

すると、アーケランド王家の血が持つ聖なる力で、俺から魔王のジョブが消え、真の勇者となっていたのだ」


「アーケランド王家の血にそんな力が!

となると、根絶やしにするわけにもいかないであるな。

これでセシリア王女の件を上手く説得できそうである」


「どこで歪んだのかは知らないが、アーケランド王家は元々は勇者に協力し魔王を倒す聖なる血筋だったのだ」


「それで唯一、勇者召喚の秘儀を持っておったのであるな」


「だが、そのキス行為が問題だった。

その時俺は、気付かないうちに、俺にとって最大の禁忌である不倫状態が成立していたのだ。

俺は自責の念で一気に闇落ちが進み、真の魔王に裏返るところだった。

そこで救ってくれたのが、やはり俺の嫁たちだった。

その献身的な愛により、俺の魔王化は回避され、パワーアップした真の勇者となったのだ」


「真の勇者様とは俄かに信じがたい。

それはステータスで見られるのであるか?」


「ああ、見せよう」


 俺は偽りの無いステータスをサダヒサに開示した。

いや、見せられるのは今は第4ジョブまでなので、4つのジョブ、領主、たまご召喚士、錬金術師、真の勇者を見せた。


「なんということであるか。

4つものジョブの所持も驚きであるが、まごうことなく真の勇者様であったか。

魔をも征し従わせる真の勇者など聞いたことも無いのである。

我が皇国は真の勇者を援護するための国、これを伝えれば魔人や魔物を従わせておっても、誰も文句は言いもうさん」


 サダヒサは感涙し俺の手をとり上下に振った。

問題が解決したのは良いが、痛いぞ。


 それにしても、委員長が真の勇者を持っていたことが、皇国に知られてなくて良かったよ。

知られていたら、皇国と委員長が組んでいたということだからな。

瞳美ちゃんによると、真の勇者はユニークジョブなので、委員長はもう失っているはず。

おそらくノブちんたちを殺したせいで闇落ちしたのだろう。

つまり、俺の真の勇者も闇落ちで失う可能性がある。

嫁ーズに癒してもらって、闇落ちを回避し続けなければならないな。

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