第395話 伯爵と交渉2
「待ってくれないか?
あまりにも情報が多すぎる」
そう言うとオールドリッチ伯爵は頭を抱えて唸り始めた。
どうやら情報を整理しているようだ。
「勇者アレックスがエレノア王女と婚姻したことは知っている。
そのアレックスが魔王でアーケランド王家を支配していると?」
「はい。私が証人ですわ。
私も含めて王家の皆はアレックスに洗脳支配されておりました。
そして手駒の勇者を増やし、戦争をしかけようとしているのです」
「たしかに、王家の対応が紆余曲折して辻褄が合わないとは感じていた。
侯爵軍の不法行為への対応と、後の
だが、洗脳といえば、今のセシリア王女がヒロキ殿や皇国に洗脳されてそう言っているとも限らない。
私は何を信じれば良いのだ……」
洗脳はアレックスも、こちら側も使えるのだから、どちらを信じれば良いか判らないということか。
ならばステータスを見て、状態異常に洗脳が無いか確認すれば良いだろう。
「洗脳状態にあるかないかは、鑑定でステータスを見れば判るだろう。
王家の者だからこそ、わざわざ鑑定されて来なかったことが盲点だったのだ。
セシリアならば、今直ぐにでも鑑定に応じることを約束しよう」
「なるほど。鑑定させていただけるのであれば、今更嘘ということもないのでしょう。
ならば、アレックスが魔王で王家を支配していたという前提で話をしましょう」
どうやらオールドリッチ伯爵は、状況証拠やセシリアを鑑定できるということで、王家が洗脳されていたとの前提で話を聞いてくれるようだ。
「アレックスは、勇者召喚の時に元魔王の魂が召喚勇者の身体を乗っ取った者だったのだ。
次代の召喚の儀のトラブルで床に伏せていた間と、実権を握り差配しだしてからで、王家の対応がちぐはぐとなったのだ」
「アレックスと同期の勇者たちが、我が皇国を執拗に攻めたのも、皇国に魔王アレックスが完全復活するために必要な秘具が残されていたからじゃ。
それこそが100年前に魔王アレックスが討たれた時に封印された『魔王の魂の欠片』なのじゃ」
それを手に入れるために、アーケランドは、いやアレックスは皇国を目の仇にして来たのだろう。
だが、同期の勇者を手駒として消耗し尽くしても、皇国は強く、それを手に入れることが出来なかった。
そして、どうしても手駒が欲しかったアレックスが、今までの10人から30人に召喚人数を増やして行なったのが、俺たちが召喚され、失敗した召喚の儀だったのだ。
「それが、王家が皇国を執拗に攻めた理由でしたか……」
「その勇者召喚がまた行なわれた可能性が高い。
だから皇国も無視出来ずに、
「魔王アレックスは、アーケランドの兵や国民の命をなんとも思ってない。
召喚の儀には人の命が消費されていたのだ。
そして、このディンチェスターの街だ。
囮として戦場となり犠牲者が出てもかまわない。
それが魔王アレックスのやり口だ」
「そこは私も納得がいかないところだった。
しかし中央からの命令には従うしかなかったのだ」
「その中央がアレックスの洗脳で意志を曲げられているとしたら?」
「それが今までの戦争だったと……。
つまり、正当なアーケランド王国は、セシリア様の居る方ということですな?」
どうやらオールドリッチ伯爵も、その結論に達したようだ。
「セシリア様が洗脳されていない、それが確認されたならば、我らはそちらの味方につきましょう」
「それでは直ぐに鑑定スキル持ちを手配してもらおうか」
そしてオールドリッチ伯爵軍から鑑定スキル持ちが連れて来られて、セシリアを鑑定した。
「間違いありません。セシリア王女本人であり、状態異常もついていませんでした」
ああ、そうか。見た目がセシリア王女でも、偽者という可能性もあったのか。
さすがオールドリッチ伯爵だ。そこらへんは抜け目ないな。
こちらは隠すものなどないから、しっかり本物を連れて来たわけだがな。
「申し訳ありませんな。これも重要なことですので。
間違いなくセシリア王女であり、洗脳もされていないことを確認しました」
「それでは?」
「我がオールドリッチ伯爵軍は、正統アーケランド王国に従いましょう」
なにやら、我が国は、セシリア王女率いる正統アーケランド王国となったようだ。
「我ら皇国も正統アーケランド王国と共に、魔王アレックスとその配下が僭称するアーケランド王国を叩くことを誓おう」
それって皇帝が決めることじゃないのか?
現地指揮官レベルで誓って良いの?
まあ、勢いってあるからな。
こうして戦うことなくオールドリッチ伯爵軍を味方に引き入れることに成功した。
俺の目的である、『民や善意の貴族は助ける』を実現することが出来た。
このまま他の貴族も離反させて、魔王アレックスを倒す。
それで平和が齎されるはずだ。
例え日本に帰れなくても、平和でさえ有ればこの世界で楽しく生きていくことが出来るだろう。
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