第390話 やっぱり修羅場る
キスまでしてしまったことで、俺は真の勇者という
俺は魔王化を回避できたことで有頂天になって、その行為の迂闊さに気付かずに嫁たちに報告しに行ってしまった。
「第二王女セシリアの説得に成功した。
彼女と政略結婚して、アーケランドを簒奪しようとするアレックスを正当王家として討つということになった。
これでオールドリッチ伯爵と争わず、無辜の民を殺めないで済むよ」
俺はその成果の方に頭が行っていて、妻たちの気持ちへの思いやりが欠けてしまっていた。
「「はぁ? 政略結婚?」」
結衣と麗が冷たいトーンで同じ台詞を口にする。
「あれ?」
少し冷静になると同時に、しまったという思いが浮上する。
だがその時にはもう遅かった。
俺は自らの重大なミスに気付いてしまったのだ。
考えて欲しい。
嫁たちの承諾もなく新たな女を作るのは不倫に該当する。
結婚の承諾を勝手にしたのも迂闊だったが、それよりもセシリアとキスをしてしまったのが問題だ。
不倫のボーダーラインは人それぞれだろうが、俺としてはキスは完全アウトだった。
俺は自らのアイデンティティであるクソおやじを反面教師にするという誓いに反してしまったのだ。
俺は清廉潔白などではなく、真の勇者などと名乗るに値しなかったのだ。
「ぐっ!」
俺の身体を闇のように黒い瘴気が覆う。
ああ、これは真の魔王に変化する予兆か……。
俺は自己矛盾により心が壊れかけるような感じがしていた。
「俺は……オレハ」
「なんか知らないけど、これマズいっすよ!」
「ヤバい、魔族化、いいえ魔王化かも!」
「癒し全開しかないかも」
「とりあえず抱き着け!」
「誰か準備を!」
さちぽよが真っ先に俺に抱き着いた。
「だめ。治まらない!」
「まかせて!」
俺を押し倒し、行為に及ぼうというのだ。
ここは俺の部屋、中には嫁しか居なかったことは幸運だった。
おかげで、あっちの実力行使が可能だったのだ。
「どうしよう」
「私たちの言葉が引き金だったよね?」
結衣と麗が、自分たちが招いた危機にオロオロと狼狽する。
いや、俺が自ら招いた危機なんだけどね。
政略結婚を甘く考えていた。
文字通り愛が無くてもその立場だけを利用する結婚だと思っていた。
だから、嫁には後で報告でも良いだろうと思ってしまっていた。
だが、俺の口をついて出たのはセシリアを守るという台詞だった。
完全に愛の告白だったのだ。
そうなる前に、嫁たちに承諾してもらうべきなのに、何をやっていたのだろうか。
これもクソ親父から引き継いだ血のなせる業なのだろうか。
闇の底に落ちていく。
そう思った瞬間、俺は陽菜の中に包まれていた。
「ほら、愛の力だよ。戻って来て!」
一瞬浮上する俺の意識。
だが、俺の魔王化は止まらなかった。
「どうしよう。止まらないよ!?」
「何か、何かがスイッチになったはずよ」
瞳美ちゃんがそれは何かと思考する。
「あれは、政略結婚に結衣ちゃんと麗ちゃんが異を唱えたところで……。
わかった! 政略結婚を認めないことは不倫になるんだ!
不倫は、ヒロキくんにとって禁忌なのよ!」
「「それか!」」
結衣と麗が納得の表情をする。
「ごめん、認めるから!」
「セシリア王女と結婚しても良いから!」
「人助けが先に立っちゃったんでしょ?」
「別にそこまで怒ってないんだからね」
「「「「「だから戻って来て!」」」」」
皆が抱き着いてくる。
俺は妻ーずの心からの愛に包まれた。
温かい光が全身を駆け巡り、暗い闇から俺は浮上した。
そして、俺の魔王化は止まった。
「ありがとう。そして勝手に先走ってごめん」
俺は陽菜と繋がったままという情けない姿で嫁ーずに感謝した。
「もう、心配したんだからね」
「次からは先に報告するように」
「ほんと、今みたいなことは勘弁だよ」
「じゃあ次はさちとしよーね」
「あん♡ ちょっと、揺すったらマジやばいって♡」
「セシリア王女も連れて来ようよ」
「ふふふ、責め甲斐がありそうね」
この後、感謝を込めて全員と思いっきり愛し合った。
そして、俺の身体は魔王の力を手に入れていた。
魔族化でも半魔化でもなく純粋に力を手に入れたようだ。
魔王の身体の真の勇者、とんでもないバグキャラだった。
なんだか、魔王化で有耶無耶になったようにも思えてしまうが、政略結婚の意義や、王女が洗脳で利用されていたことは皆に理解してもらえた。
アーケランド王家には勇者召喚されたり、同級生たちを死に至らしめた事に対する反感や恨みもあったが、それはアレックスと父王のせいという認識となった。
「嫁たちの愛と、人を救おうという気持ちのおかげで助かったのかな」
今後も気を付けなければ、また危険な状態に陥りかねないな。
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