第371話 時を戻す1

 時を戻すと簡単に言うが、そんなことが可能なのか、そもそもそこからが判っていなかった。

俺たちは、デリケートな話をハルルンに聞かせるわけにはいかないと、リビングに戻って話し合いを続けた。

ちなみにサダヒサには家族のプライベ-トな話なので遠慮してもらっている。


「瞳美ちゃん、魔法大全に時を戻す知識はあるか?」


 俺の嫁瞳美ちゃんは、読んだ全ての書物の知識が頭に入っている。

加えてギフトスキル【知識の泉】によって、キーとなる単語から深い知識をアカシックレコードから引っ張ってくることが可能だった。


「時を戻す魔法はある。

でもその効果は限定的で、術者への負担が大きすぎるよ」


 瞳美ちゃんは、魔法を使うならば俺だと思ったためか、俺を庇ってそれ以上言うのを躊躇った。

ハルルンは助けたいけど、俺を失ったらという葛藤がそこにはあったのだろう。


「今はその方法と、どこまで可能なのか、どんなリスクがあるのかを知りたい。

やるかやらないかはリスクを考えて総合的に判断したい。

リスクが高すぎるならば、当然中止するよ。

最後の手段でドラゴンの肉という手も残っているしな」


 ドラゴンの肉というのは半分嘘だが、そう言わなければ瞳美ちゃんも納得してくれなかっただろう。


「わかった」


 瞳美ちゃんが引き出した知識では、術者は全て闇魔法の使い手で最低3人が必要となり、その複数人で術を行使する必要があるとのことだ。

戻せるのは世界全体ではなく、対象者の時のみ。

つまり全員でやり直しというものではない。

対象者が死んでいたら不可能で、戻るのが遠ければ遠い過去ほど失敗の可能性が高くなる。

代償は、術者の闇落ち。

特に中心となる術者は危険だそうだ。


「闇落ちか……」


 ハルルンの魔族化を止めるために、術者が闇落ちする可能性が高いのか。


「言い出しっぺは拙者だ。拙者が中心となろう」


 腐ーちゃんが毅然とした態度でそう言う。

腐ーちゃんも闇魔法の使い手だから参加は必須だが、腐ーちゃんは俺より闇魔法のレベルが低い。

それに最低3人必要だからな。


「いや、俺と腐ーちゃんの2人だけでは魔法が成立しない。

この方法は実現不可能だったんだ」


「薔薇咲メグ先生に協力を仰ごう」


 腐ーちゃんが口にしたのは、薔薇咲メグ先生の存在だった。

たしかに半魔となっている薔薇咲メグ先生ならば、闇魔法を使えるだろう。


「半魔で留まった先生を危険に晒すのか?」


 まあ、全員が危険なのだがな。

1人の魔族化を止めるために3人が魔族になってしまっては本末転倒だ。

それも全員に失敗し化け物となる危険性がある。


「むしろ、薔薇咲メグ先生の意見を訊こうよ」


 瞳美ちゃんが、そう言ったのは、もしかすると諦めさせるためかもしれない。

先生ならば、こんな危険な事は止める気がするのだ。



「事情は把握した。

まずは病状を見させてもらおうか」


 そう言うと先生はセバスチャン青Tとともにハルルンの様子を見に行った。

俺たちは、部屋にさえ近付かせてもらえなかった。

そして先生がセバスチャン青Tとともにリビングに戻る。


「状況は把握した。

結論から言うと、トラウマを消すまで時を戻すのは不可能であろう。

せいぜいが魔族化が始まった前までじゃな」


 先生が言うにはドラゴンの肉の話をした時に言ってもらえれば、もっと安全に魔法が使えたんだそうだ。

あれから数日、その時間まで戻さなければならないのは術者にとっても負担が大きすぎるそうだ。


「我とサユリ腐ーちゃんは腐教活動で、そちは嫁とラブラブで癒せるが、ハルルンとやらは、それもトラウマで出来ないのであろう?

となると時を戻しても、また魔族化が進行するぞ」


 意外なことだが、先生は俺たちの無謀な計画に協力してくれるようだ。

だが、このままでは八方ふさがり。

そんな考えが俺の頭を過った。


「いや、待て。

あと2人闇魔法の使い手がいた」


 それは魔族そのもののオトコスキーと不二子さんだった。

悪魔とサキュバス、闇落ちが進行しても本人には影響は無い。


「それに不二子さんの房中術でハルルンに夢を見させることが出来れば、癒しも可能では?」


「術者が5人ならば負担も減るであろう。

それにハルルンが房中術で自ら行為に及べば癒しとなるであろう」


 不二子さんがサキュバスであることは先生には言っていなかった。

なのでサキュバスの力による催淫効果ではなく、房中術ということにしたのだ。

それは俺たちの負担も減って、ハルルンにトラウマも忘れさせる上手い方法だと、その時の俺は思っていた。

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