第361話 隣国の教会に行く3

 カドロクの好意により、爆買いツアーは盛況の元に終了した。

所謂立替払いなので涙目になっていたので、俺が作った武具と、シャインシルクのハンカチを渡しておいた。

まさか、カドロクもあそこまで貪欲に爆買いされるとは思っていなかったのだろう。

ストレスのかかった女子の物欲を舐めてはいけないというエピソードだった。


 それにしても、クロエ、苦労してたんだな……。

王国アーケランドでは満足に買い物も出来なかったらしく、泣きながら買い物を満喫していた。

アイテムボックスに入れて持ち帰るから、好きなだけ買うが良い。


 そして、不二子さん。

エッチな服や下着をオーダーしていたが、それは?

服飾関係ならば、うちの担当が作れると思うが?

え? 見本? 裁縫女子の知識には限界があるから?

なるほど、そのデザインは綾には思いつかないか。

確かに、そんな機能はおぼこには無理だよな。

そ、それを妻ーズに着せる気か?

天才か!


 結局、買い物代金はカドハチからお金を送ってもらうまでもなく、シャインシルクで賄うことが出来てしまった。

さすがカドハチの兄、その価値は良く分かっていて、それを売りさばく伝手を持っていたようだ。

それでも余剰だったため、俺の武具代金だけ貰って、残りは預けることにした。

仕入れ代金までむしり取ってしまったら、シャインシルクが売れる前に店が潰れそうだったからな。


 これにより、いつでも預け金払いで買い物が出来るようになった。

なんなら、王国アーケランドの様子を見て、隣国エール王国ルートで行商に来てくれるそうだ。

まあ、クロエに【転移】で送ってもらう買い物ツアーが今後も行なわれそうなので、そこまではしなくても良さそうだが、アイテムボックス持ちの同行が必要なため、そうそう頻繁に出掛けられないので、それも有りかもしれない。


 武具代でも結構なお金になったため、俺たちは厩舎付きの高級宿をとった。

そして、いよいよ今回の目的地、教会へと竜車を進めた。


 教会に行くと、この街の領主が待ち構えていた。

どうやら伝令が向かったのは領主の館だったらしい。

王様から通達があったのだろうか、俺たちに便宜をはかるために迎えに来てくれたのだが、俺たちがカドロクの店に入ったために見失ったのだそうだ。

それで、今回の訪問の目的である教会で待っていたということらしい。


「教会の者には勇者様であることを内密にするように厳命し、人払いをしてもらっております」


 領主のシュターデン伯爵本人がやたら低姿勢で対応してくれる。

隣国エール王国での勇者の立場が、ここまで高いのかと驚きを隠せない。


 いくばくかのお布施をして、いよいよ職業授受の儀式を行なってもらう。

何のことは無い、神聖な間で、そこに設置されている聖遺物に触るだけだ。

この聖遺物は教会だけが所持しており、その神聖な間から出されると効力を失う。

なので、盗んだりしても無駄であり、俺の錬金術でも複製することが出来ない。


 それは聖遺物と言われているが、元々はただの偶像であり、それが神聖な間に置かれ、何年も祈りを捧げられることで聖遺物となるらしい。

どう考えても神様の仕業だ。

職業システムはステータスと共に完全に神様がシステム管理をしている。

となると、俺のギフトスキルも魔王のジョブも神様が?

神様は俺に何をさせたいんだ? 


 結衣たちが順に聖遺物に触れていく。

すると眩い光が発生し、職業選択の儀が終わる。

あとはステータスを見るだけだ。


 ここで職業が何であるかなどと教会は詮索も関与もしない。

職業を得た自分たちで確認し、納得するだけのことだ。

しかし、職業選択の儀は幼少期に行なわれるものであり、高齢で職業を持っていないなど召喚者以外には有り得ないということで、召喚者=勇者だとバレるのだ。


 そして結衣は料理神、瞳美は賢者、麗は聖女、綾は裁縫神、紗希は動物の友を得た。

紗希の動物の友が引っ掛かるが、他は概ね予想通りか。

これで、各ステータスに補正がかかったり、レベルアップ時の数値上昇率が違うらしいので、これまで以上の活躍が期待出来る。


 それにしても紗希の動物の友はテイマー系のジョブだよな?

ベルばらコンビのような戦闘系だとばかり思っていたが、よくよく考えると動物好きで生き物係だし、納得のいくジョブだったのかもしれない。


「それじゃあ、教会での目的も達したし、宿に泊ってゆっくりしたら明日帰るか」


「え? 明日はカドロク以外の店で買い物よ?」


 綾が、何を言ってるんだと言わんばかりに突っ込みを入れて来た。

どうやら彼女たちの物欲は、留まるところを知らなかったらしい。


「そうね。市場で新鮮な食料も買い込みたいわね」


 結衣も食材を買う気らしい。

たしかにそれは必要な買い物だな。


「本」


 瞳美ちゃんがボソリと呟く。

瞳美ちゃんの本からの知識による助言は役に立っているので、それも必要だった。

だが、知っているぞ。

腐ーちゃんに頼まれて薄い本を物色する気なのを。

本ならばカドロクの店にもあったからな。


「騎獣用の鞍なんかも見たいぞ」


 紗希もそんな用事があったのか。

カドハチの店で充分だったのは麗とクロエぐらいのものだな。


「おい、この竜車の持ち主はどこだ!」


 その時、教会の馬車置き場から怒鳴り声が響いて来た。


「この紋章、わが皇家を偽っておるのか!」


 紋章といえばうちのひっぽくんの竜車だな。

そういや、俺が使っている紋章がアトランディア皇国の皇家のものに似てるとかで、俺に皇子疑惑が上がってたな。


「これは我が主の紋章よ!

偽物扱いとは聞き捨てならないわね」


 ああ、竜車番として残した不二子さんがトラブっている。

まずいぞ。不二子さんに喧嘩売るなんてどうなっても知らないぞ。

いや、それよりもアトランディア皇国とトラブるって勘弁してくれよ。


 俺が慌てて竜車の元への駆け付けると、顔の濃い西郷さんのような男が激怒しているところだった。

なるほど、皇国人を知る者から俺が皇国の縁者の顔じゃないと思われるわけだ。

それにしても、今にも腰の刀を抜きそうになってるって、どこまで戦闘民族なんだよ。

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