第298話 誤解を訂正できない

『GK、王国の使者が帰ったら中継地からこちら側は封鎖だ。

そのライン内への侵入を監視して、越えて来た者には攻撃を許可する。

情報はキラトと共有してくれ。

それから、カドハチ便も止める。

これ以後は道を魔物から守らなくて良いからな』


『ギギギ』


 今までこの温泉拠点への道が安全だったのは、GKとその配下が魔物を抑制していたからだ。

道の入口付近に巣食うジャイアントセンチピードムカデであっても、GKの配下によってカドハチ便を襲わないように遠ざけたりコントロールされていたのだ。

それを放棄するだけで、道は魔の森の野良の魔物の跳梁跋扈を許し、安全ではなくなる。


 あれ? この野良の魔物たちの攻撃が、王国には俺からの攻撃だと思われてしまうのか?

俺が竜人で魔物を使役していると王国に思われているならば、王国はそれも俺の仕業だと思うのか?

そう思うならば思わせておけば良いか。

野良の魔物は組織立って攻撃をしないから、偶然見逃されて中継地点まで到達できる連中も出て来るだろう。

そこから入って来たら一人残らず殲滅する。

それにより、王国にも明確な線引きは見えるはずだ。


「キラト、ゴブリン隊に最終防衛ラインの迎撃を頼む。

見張りはGKの配下が行なうので、GKとの連携を頼む。

ラインを越えたら殲滅して良いからな」


「承知した」


 最終防衛ラインは道の途中にある休憩用の中継地点と温泉拠点の中心を半径とした円とする。

その北東から西に向けたライン上を重点警戒とする。

これはアーケランド王国と国境砦からの正面方向になる。

裏面の警戒を薄くしたのは、そちらに迂回すればするほど野良の魔物からの被害を受けることになるからだ。

まさに野良の魔物が王国軍の進撃の邪魔となってくれるのだ。

今やたまご召喚して眷属化せずに放出した魔物が野良化して、上手い具合に凶悪なことになっている。


トントン


「ん? 念話? これはカメレオン2のノックか」


 ノブちんに預けたカメレオン2から念話要求のノックがあった。

これはカメレオンを預けた相手が連絡を取りたい時に、こちらの都合が悪い――例えば戦闘中とかの――場合にいきなり念話を繋げるのを防ぐための措置だ。

今回は何も問題がないので、念話を繋げる。

するとカメレオンは、繋がったことをジェスチャーで相手に伝えることになる。

そこで視覚共有すれば、こちらからは伝えることの出来ない一方通行のテレビ電話が成立するのだ。


『お、繋がったな』


 そこに見えたのはせっちんと貴坊、そして豪華な服を着て冠を頭に載せたいかにも王様という人物だった。


『ノブちんからお米とカメレオンを預かって、今王都に帰って来た。

転校生と女子たちのことは王様に伝えた』


 せっちんが、王様を紹介するようにカメレオン2の前に促す。


『この魔物に話せば良いのか?』


『はい、テイムされた魔物です。安心してください』


 王様は魔物に話しかけるというシュールな状況に戸惑っているようだ。


『話は聞いた。我が国はいつでもそなたたちを歓迎しよう。

彼ら勇者に合流するならば、女性に配慮した輸送をすると約束しよう。

今やアーケランド王国とは険悪だ。勇者の存在は知れ渡ったと見て良い。

勇者排斥論者どもを気にする必要もないから欺瞞の必要も無くなった。

安心するがよい』


 そう言うと王様が後に下がった。

どうやら俺たちを自国に勧誘したかったようだ。

残念ながら俺たちはここ温泉拠点で独立して生きていくつもりだ。

協力はするが、合流はないかな。


『お米輸送も国でやってもらえるように手配した。

あとはどうやって渡すかを話し合いたいってさ』


 ふたたびせっちんが前に出て話し始めた。

その件は赤Tに渡した親書に書いてあったはずだった。

まさか伝わっていない?

確か距離的には農業国からエール王国王都よりもアーケランドからエール王国王都の方が近かったはず。

どうしてまだ伝わってない?

まさか赤Tがやらかしたか!


『空路は人食い昆虫魔物がいるのでやめた方が良い』


 ああ、それ俺たちだから安心してって伝えたはずなのに……。

やっぱり赤Tに頼んだ親書が届いてないっぽいな。


『いま、アーケランド王国との間で戦争の機運が高まっている。

赤Tも国境でロンゲに襲われたらしい。

そこを竜人に助けられたそうだ』


 それ竜人でなく飛竜を纏った俺ね。


『その竜人はテンコーセイと名乗ったそうだが、転校生のことなのか?

竜人は魔王軍の幹部だという話を聞いている。

偶然の一致なのか、敵か味方か判断がつかない。

アーケランド王国からは共に魔王軍と戦おうなどという戯言も伝わって来ている』


 なんということだ。

赤Tと直接話さなかったことで、俺の存在が正確に伝わってない。

それに竜人は魔王軍の幹部という話が、この世界の定説となっていて話をややこしくしている。

それに赤T! 親書渡してないのかよ!


『エール王国は、アーケランド王国との戦争に備えて、国境に軍を進めている。

今は赤Tと栄ちゃんたちが行っているからなんとか接触して欲しい。

俺も向かうことになるから、そこで話そう。

エール王国は転校生と女子たちに危害は加えない。

安心して接触して欲しい。

くれぐれもアーケランド王国と魔王軍には気を付けて』


 せっちんがそう言うとカメレオン2からの念話と視覚共有が切れた。

この通信の問題は、こちらから話を伝えられないことだ。

誤解がてんこ盛りだったのに、それを否定することも出来ない。


 眷属と念話で繋がっているのは俺だけで、せっちんに眷属を通じて俺からの伝言を伝えることも出来ないのだ。

眷属が口をきければ……いたな。口のきける眷属が。

残念キツネコンコンのような眷属を派遣すれば相互通信が可能か。

だが、あれでもレア種。眷属卵召喚で召喚して増やすことは出来ない。

それに回復要員として貴重な存在だ。

キラトや不二子さんのような有能な眷属も通信のためだけに外に出すわけにはいかない。

これは通信要員となる話せる眷属が召喚出来ないか、【たまごショップ】をチェックだな。


 それにしても赤Tのやつ、親書渡してないのかよ!

せめて親書を受け取ったけど失くしたぐらいの報告はしてくれよ。

確か内容についても青Tが掻い摘んで話したよね?

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