第290話 トレントの餌

「おえー-っ! ぺっぺっぺっ!」


 俺、こんこん、瞳美ちゃん、ベルばらコンビとメイドさんで食人植物トレントのパンを収穫していると、残念キツネコンコンがパンをつまみ食いしたあげく、盛大に吐き出した。


「うわー-、何やってんだよ!」


 その下品な行動に皆が眉を顰める。


「だって、不味いんですよ?」


「そんなバカな」


 俺はこんこんが冗談でやってると思って徐にパンを口にした。


「おえーっ! ホンマや!」


 本当だった。

パンから嫌ーな味がしていた。


食人植物トレント、何があった?」


 食人植物トレントに念話を飛ばすと、「餌」「不味い」「味」「乗った」という漠然とした概念が伝わって来た。

つまり餌が不味くてその味がパンに乗ったということらしい。


「メイドちゃん、昨日は食人植物トレントの餌に何をあげたの?」


「昨日はゴブリンですぅ」


 世話係に任命されたメイドの1人が答えた。


「もしかして、ゴブリンを餌にあげたからか?」


「ちょっと待って、ゴブリンの成分が入ったならば、毒かもしれないじゃん」


 バレー部女子が慌てて指摘する。

そうだった。ゴブリンの肉には毒があるのだ。

養殖している魚にあげる時は、ゴブリンが材料でも錬金術で毒抜きしたペレットに加工していたが、食人植物トレントには丸ごと1匹を与えていたのだ。


「いやー、半分食べちゃったよー」


 残念キツネコンコンが毒と聞いて大慌てしだした。


「誰か、マドンナちゃん呼んで!」


 バレー部女子がマドンナを呼ぶ。

毒ならばマドンナの癒しでなんとかしてもらおうと思ったのだろう。


「大丈夫?」


 瞳美ちゃんが俺を心配して駆け寄る。


「少量なら死なない。気をしっかり持て」


 バスケ部女子もぐったりしだしたコンコンを介抱する。

俺は残ったパンに【鑑定】をかけて確認した。


『白丸パン C級品 食用 ちょっと茶色い 不味い 毒無し』


「鑑定した。毒はない。ただ不味いだけのようだ」


「良かったー」


 瞳美ちゃんが安堵して俺に抱き着いてくる。

その胸部装甲は相変わず攻撃的だ。


「でも、吐くほど不味いんじゃ今日のパンは廃棄だな」


 バレー部女子が残念そうにパンの山を見て言う。


「もったいないけど、そうするしかないな。

だが、今日から何を食べさせようか?」


 幸い、鑑定結果で毒は認められず、パンの味にのみ影響が出たようだ。

これは食人植物トレントにあげる餌を吟味する必要がありそうだ。

パンの味は昨日あげた餌で変ったようだ。

ならば、今日の餌から替えれば問題ないだろう。


「何が良いかね。

魚なら養殖しているけど、パンが生臭くなっても困る」


「食用にしてる鳥の魔物は?」


 そういや鳥肉として使っている鳥の魔物がいたな。

あれならば、美味しい肉だからパンも美味しくなるかもしれない。

油として味に乗っているかもしれないからな。


「とりあえず食べさせて結果を見るか」


 鳥の魔物も眷属卵で指名召喚することが出来る。

これを毎日孵るようにしておけば良いだろう。

まず実験で1羽召喚する。


 半日後、孵った鳥の魔物――ドードーバードというらしい――を食人植物トレントに食べさせた。

食人植物トレントは触手を器用に使って鳥の魔物を赤い花の口に持って行って食べた。

よし、明日のパンを楽しみにしよう。


 ◇


 翌日。食人植物トレントの触手の先からパンを収穫する。


「うん? 色がいつもと違う?」


 それは白パンではなく、少し黄色みがかったパンだった。

【鑑定】をかけてみる。


『高給丸パン A級品 食用 卵黄を使っているのでちょっと黄色い 美味 毒無し』


「あ、これ卵黄を使ってる」


 どうやらパンには鳥の魔物の中にあった卵が含まれているらしい。

大発見だった。

卵黄が混ざった生地もこれで出来るということなのだ。


「まさか食人植物トレントが食べた物の特性が反映されるなんて!」


 もしかすると砂糖や牛乳を与えればケーキやクッキーを作れる可能性もある。

オークなんか食べさせたらどうなるのだろうか?

さすがに調理パンが出てくるなんてことは無いか。


「まあ、まずは安全にパンが食べられる餌を与え続るとしようか」


 こうして食人植物トレントはグルメな餌を与えられることになった。

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