第286話 戦争の足音2

Side:アーサー委員長


 王国の王都、その中心にある王城の入り口に一陣の風が吹き込んで来た。

それは肉塊を背負ったパーシヴァルパシリが高速移動した残滓だった。

パーシヴァルパシリは慌てた様子で助けを求めた。


「誰か、回復術師を! 早く!」


 パーシヴァルパシリ隣国エール王国との国境地帯に行っていたはずだが、どうしたというのだ。

僕は彼らとの接触を控えているため、ジャスティン金属バットに対応させることにした。


 ジャスティン金属バットは、王国に洗脳されており、僕の【統率】が効きやすかった。

僕のお付きのマリアンヌが邪魔だったが、今では彼女も僕の【統率】の支配下に置いて、あれこれと都合よく使わせてもらっている。

そして、ジャスティン金属バットと、偶然を装っては接触出来るように手配してもらい、ジャスティン金属バットには【統率】スキルの重ね掛けで僕の支配下に入って貰った。


 僕の存在を知ったスティーブンサンボーには、マリアンヌを使ってその記憶を消すように仕向けた。

今ではスティーブンサンボーも僕のことを思い出せなくなっているはずだ。

僕の存在は、過去の勇者の生き残りとでも思っていることだろう。


 レベルアップにより、僕の【統率】にはサブスキルが派生した。

僕の【統率】の支配下に入ると、念話により配下に命令出来るようになった。

そして、僕は念話によりジャスティン金属バットを裏で都合よく動かしているのだ。

スティーブンサンボーはだめだ。

あいつは警戒心が強すぎる。

僕に疑いを持つ前に王国により洗脳することが出来て良かった。


 話を戻す。

僕はパーシヴァルパシリの元にジャスティン金属バットを駆け寄らせた。

何があったのか話を訊く必要があったからだ。

その会話は念話により僕に筒抜けなのだ。


『どうしたのだ! その肉塊は何だ?』


ジャスティン金属バット! これはロンゲローランドだよ。

ロンゲローランド赤Tエドワルドにやられた!』


 なんと、その肉塊はローランドロンゲだった。

ローランドロンゲもその能力から黄金騎士などと自称し、王国での立場を強固にしていた。

雷神の加護を受け、強力な雷スキルを手に入れていた。

少し増長気味であり、コントロールの出来ない存在だった。

そして、この惨状はエドワルド赤Tによるものだと言う。


『早く、治療を!』


 先程の声で城の騎士たちが集まって来た。

回復術師もやって来たが、慌てて奥の治療院へと運ぶように指示をしていた。

その肉塊は、手足が欠損しており、まるで人をドロドロに溶かした後に再構築する途中のようにも見えた。


「これはどこまで治療出来るか疑問だな」


 大事な構成要素を失っている感じがした。

欠損回復の魔法は、元の状態を強く心に保持していなければ治らないという。

その心や記憶が壊れていたならば、元には戻れないだろう。

どうやら貴重な王国の駒が1つ失われたようだ。


 それより、これをやったのがエドワルド赤Tだと?

エドワルド赤Tの攻撃手段は火魔法と剣術がメインだ。

どう見ても症状が違う。

ローランドロンゲには火傷も切り傷も無いのだ。


 少しそこをつついてみるか。

僕はジャスティン金属バットを操り質問させた。


エドワルド赤Tを発見したのか?』


 スティーブンサンボーローランドロンゲパーシヴァルパシリの3人には王国から任務が与えられていた。

それは王国を裏切ったエドワルド赤T討伐と、彼が身を寄せた隣国エール王国の牽制だった。

つまりエドワルド赤Tと戦うことは想定済みだったのだ。

そして、この3人にかかればエドワルド赤Tも倒すことが出来るはずだった。

なのに負けたというのか?


『いや、俺は見てない。

黄金騎士ローランドが単独行動に出て帰って来ないから探しに行ったら、この始末だよ』


 1対1で戦ってローランドロンゲが負けたというのも信じ難い。

まさか、エドワルド赤T側に味方がいて複数相手だったのか?

誰だ? まさかノブちんたちに生き残りがいた?

いや、待て。見ていないのならば、どうしてエドワルド赤Tの仕業だと思ったのだ?


『ならば、なぜエドワルド赤Tにやられたと断定したのだ』


『それは、赤の勇者エドワルドの真っ赤な鎧の一部が落ちていたからだよ。

それでサンボースティーブン赤Tエドワルドだって』


 つまり、相手が複数かどうかは判断材料が無かったということか。


ローランドロンゲの傷は、エドワルド赤Tには無理ではないのか?』


『ああ、なんか水魔法と土魔法と火魔法を、それもそれらを高度に使うやつが居ただろうってサンボースティーブンが言ってたな。

敵は複数っぽいよ』


 おいおい、それを早く言ってよ。

もしかすると各属性毎に勇者クラスがいるってことになるぞ。

つまり、今、勇者スティーブン1人の所に、複数の勇者クラスの敵対者がいるってことだ。

まずい、何か手を打たなければ、僕が王国を乗っ取る障害になってしまう。


 今動かせるのは、パーシヴァルパシリジャスティン金属バット、あとは女子からアマンダアマコーぐらいのものか。

早急に向かわせなければならないが、国王の裁可が必要だ。

このまま不利な戦争になりかねないのだ。

国王を説得しなければならないな。


「なるほど、それが隣国エール王国が強気に出た理由か」


 もしもの事があるならば、僕も隣国エール王国に亡命することも考えないとならないかもね。

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