第267話 赤T救助

 土魔法で穴を埋めると、俺は飛竜纏を解いて、カブトンによりまた空へと上がった。

眷属纏は消耗が激しく、長時間行うと行動不能となるクールタイムが発生する。

赤Tがどう動くか判らない現状では、無防備な状態でクールタイムに入るわけにはいかなかった。


 ロンゲという共通の敵が現れたため、赤Tは青Tと共闘したが、俺たちが敵だとの疑いは晴れたわけではない。

そんな疑いを抱きながらロンゲに瀕死の重傷を負わされて今に至るのだ。

倒れている赤Tには俺が助けた部分の記憶はないだろう。

赤Tは青Tとさちぽよが生きていたとには納得したようだが、俺に洗脳されて行動を共にしているという疑惑はまだ持っていそうだったのだ。

赤Tのことだ、どんな反応をするのか判断できなかった。


 更にやっかいなのは、赤Tが連れていた騎士たちだった。

王国の強敵黄金騎士出現と、オオトカゲの毒による負傷者救出で赤Tに逃げろと命じられてはいたが、一部は残って遠巻きに戦闘を見守っていたのだ。

さすがに援護するまでは出来なかったようだが。


 つまり俺が飛竜纏をして外見的には竜人のようになったことを見られてしまっていたのだ。

どう見ても怪しい。最悪魔王軍の一員だと勘違いされる可能性があった。

まあ、カメレオン男を見られていなかっただけマシだと言えたが……。

それでも俺が纏を解いて人に戻ったこと、空へと退避したことで安全だと思ったのか、騎士たちは未だ瀕死の重傷の赤Tの下へと救助に駆けつけていた。


「誰か、回復薬の手持ちは!?」


「先ほどマウロ毒を受けた騎士に使ってしまったので下級回復薬しかないぞ」


 どうやら騎士たちは、赤Tの怪我の状態を知り、回復薬を使おうとしているようだ。

だが、下級回復薬しか手持ちがないようだ。


「それでも良い、早く!」


「まて、魔物が取り付いているぞ!」


 まずい。カメレオン1が光学迷彩も使わず赤Tに取り付いたままだ。

赤Tが気を失っている現状では、カメレオン1が赤Tに害をなしているかに見えてしまう。

赤Tとカメレオン1に絆が発生しているなどとは思ってもいないため、その扱いは駆除すべきものという雰囲気だ。


「待て、それは赤の勇者赤Tの使役魔物だ。

先ほども彼を守ったのを見てなかったのか!」


 俺はカブトンに抱えられながら、赤Tの近くまで降下した。

今の俺ではこの騎士たちに攻撃されても危険だが、カメレオン1を害されないためには致し方ない。


「そうだ、赤の勇者様を安全なところまで引きずっていたぞ」


 騎士の一人が指摘する。


「それは食べるためではないのか?」


 まだ疑う騎士がいた。

魔物は駆除するもの、その認識を変えられないのだ。


「今でも食べていないではないか。

それに赤の勇者が目覚めれば、真偽がわかるだろ。

ほら、これを使え」


 俺はアイテムボックスから中級回復薬を出して騎士に投げて渡す。

さすがに彼の剣の間合いには入りたくないからだ。


 俺が赤Tと青Tの敵である黄金騎士ロンゲを倒したことは見て分かっていても、俺の飛竜纏の竜人姿を見ているため警戒されているのだ。


「おっと」


 騎士が中級回復薬を取り落としそうになり慌てる。

そして、それをしげしげと確認しだした。

どうやら、自分たちの上司に怪しい薬は使えないと思っているようだ。

それだけ俺の姿は信用を損なうものだったらしい。

まあ、客観視すると今も竜人が人間に化けているとの疑いがあるからな。

この世界で竜人といえば、魔王軍の一角らしいからな。

それは瞳美ちゃんの書籍知識から教えてもらっていて知っていた。

やっかいなことになっていた。


「問題ない。【鑑定】スキルで本物だとわかった」


「本当か! 申し訳ない、使わせていただく」


 騎士の一人がどうやら【鑑定】スキル持ちだったようだ。

本物とわかれば使うことに躊躇はなかった。

たとえそれが怪しい人物からの贈り物でもだ。

俺が青Tを助けたところを見ているはずなので、それが少しはプラスに働いているのかもしれない。


「この魔物は赤の勇者赤Tをずっと守っていた存在だ。

これからも駆除しないようにな」


「それは赤の勇者様の話を聞いてからだ」


 それで良い。少なくとも今はカメレオン1が害されることはない。

さすがに赤Tも、あの絆のパスが通った感覚は覚えているだろう。

意識が戻れば大丈夫だろう。


「それでは赤の勇者赤Tによろしく伝えてくれ。

俺は青の勇者青Tを連れて帰る」


 疑われていると感じた俺は、長居は無用と立ち去ることにした。

この疑いもノブちんからの報告が上がれば晴れるのだ。

赤Tに書状(瞳美ちゃん監修)も渡した。

これで隣国とスムーズにお米取引が出来れば、騎士たちに多少気味悪がられても問題ない。


「待ってください。あなた様のお名前は?」


 ここで俺は言い淀んでしまった。

俺の本名を知る同級生は温泉拠点の女子たちだけだ。

大樹ヒロキと名乗っても隣国にいる同級生は誰も知らない。

つまり、これしか言いようがなかった。


「俺の名は転校生だ」


「テンコーセイ殿だな?」


「ああ」


 なんか発音が違うが、それは言語の違い故に仕方がない。

こうして隣国に俺の存在が認識されることになった。

竜人「テンコーセイ」として。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る