第260話 赤Tと青Tその4

『誰も死んでねぇ? ならば、仇なんて言ってんのがおかしいのか……』


 フリーズから覚めた赤Tがブツブツ呟く。

どうやら、青Tとさちぽよが死んでないとなると、今までの仇討ちで張り切っていた感情の持って行き所がなくなってしまう、ということのようだ。


『赤T、仇など初めからいないのですよ?』


 そうだぞ。青Tもっと言ってやれ。


『赤T、猛毒王の毒にやられてなぜ貴方は生きているのですか?』


『そいつは……。俺も不思議だったっつーの』


『それは、赤Tが仇だと狙っている我が主が助けたからですよ?』


『なんだと!?』


 赤Tは自分が助けられたと知って更に混乱したようだ。


『我が主は遥香ハルルンも助けてくれたのです。

皆を不幸にしたのは我が主ではない。

誰ですか? 王国ではないのですか?』


 青Tが全ての責任を王国に転嫁しだした。


『そうだ……。俺を洗脳して良いように使ったんも、さちぽよや青Tに危険な任務を与えたんも、ブービーを死なせてハルルンとさゆゆを奴隷に売ったんも、全て王国の仕業じゃねーか』


 赤Tは青Tの誘導にまんまと乗せられている。

良いぞ、もっとやれ。


『王国にはまだ同級生が洗脳状態で残されているのですよ?

さゆゆもまだ見つかってません。

あなたの真の仇は誰なのですか!?』


 青Tの言に赤Tは迷いの吹っ切れた顔で叫んだ。


『王国、許せねぇ!』


 赤T、単純な奴で良かった。


『これで、我が主に対する誤解は解けましたか?』


 青Tもホッとした表情で、赤Tに語り掛ける。

だが、その台詞が赤Tの態度を硬化させてしまった。


『青T、その口調と、「我が主」という崇拝ぐあい、おまえ洗脳されてるだろ?

俺は王国と同じ洗脳するやつは信用しねー。

そいつはどの女だ?』


 女? なんで青Tの主が女だと?


『女? どうして女なのでしょうか?』


 青Tも何を言ってるんだという感じで呟く。


『俺たち以外の、真面目グループで所在がわかってんのがノブちんたちだけだからだろうが。

ノブちんから委員長は死んだって聞いたからな。

残りは女だけだろうが!』


 またかーい。

また俺の存在が忘れられている。

たしかにヤンキーチームは俺の存在の認識が薄い。

だが、赤Tは俺に散々絡んで来たヤンキー2だろうが!

ヤンキーチームで一番俺の存在を認めてくれていたのがヤンキー2=赤Tだったのに。


『いえいえ、転校生を忘れてますよ?』


 青Tの指摘で、赤Tは「ああ!」と思い出したようだった。


『あの玉子出すしか能がねーやつのことか!

そういや居たな』


 赤T、やっぱり温泉拠点に招き入れなくて正解だったわ。


『けどよ、何で転校生を我が主なんて言ってんだよ。

洗脳のせいじゃねーのか?

それならば、俺は転校生を認めるわけにはいかねーかんな』


 その赤Tの疑問に、青Tは明確に一拍置いてから話し出した。

意を決したかのように。


遥香ハルルンを助けてもらった恩義でしょうか。

彼女は転校生に助けられなかったら死んでいました。

今でも酷い状態なのですが、毎日回復魔法もかけてもらっています。

それを指示したのが転校生なのです。

食料を求めるのも大変な場所で、1人分の余計な食い扶持を負担してまで、彼は遥香ハルルンを、見捨てなかった。

それだけで我が主と呼ぶに相応しい』


 知らなかった。青Tがそこまで感謝してくれていたなんて。

もしかすると、洗脳なんてとっくに解けているのかも。

だけど、青Tは恩義に感じてセバスチャンを演じ続けてくれているのかもしれない。

なんか食料が貴重みたいな感じで言ってるけど、シャインシルクの代金で買う分には何の負担もないんだけどな。


『そうか……』


 赤Tも納得してくれたようだ。

青Tの熱い気持ちが伝わったのだろう。


『そこで、農業国からの食料輸入が必要なのです。

これにはノブちんも関わっています』


 おお、流れるような話の切り替え。

さすが青T、いや親愛を込めてセバスチャンと呼ばせてもらおう。


『ノブちんが?

ああ、あっちからの鳥便ならば、まだ届かない感じか。

しかし、いつの間に?』


 農業国で俺たちとノブちんが会ったことは、まだエール王国隣国の中枢には伝わっていないのだろう。

情報伝達の遅れが誤解の元となっている感じだ。

何か良い情報伝達手段があれば良いのだが……。


『ここにノブちんとエール王国隣国宛ての書状があります。

人食い昆虫魔物など存在しないのです。

そのあらましの報告と、お米の輸入に関する協力依頼だそうです』


 青Tが上手く話を纏めてくれた。

赤Tの誤解も解けたようだし、これで安心してお米の輸入が出来そうだ。


ドーーーーーーーーーーーーン!!!


「なんだ!」


 突然の大爆発に巻き込まれ、カメレオン1の視覚共有では何も見えなくなった。

ヘラクレスオオカブトの視界でも舞い上がった土埃しか見えない。


『おやおや、王国の裏切り者が2人、こんな所で会えるとはね』


 土埃の中から声が聞こえて来た。

その声は赤Tでも青Tでもない第三者のものだった。

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