第242話 帰ろうか裏

Side:隣国


「強力な魔物が、魔の森からこの国を通過して農業国へと向かうという予知を得ました」


 そう口にしたのは貴坊だった。


「その確率は?」


 俺は、そう貴坊に訊ねる。

貴坊の予知は、100%当たるわけではない。

だが、貴坊のレベルが上がるにつれて、その正当率は上がっているようだった。

この国に拾われて、正式に所属勇者となった後、貴坊はその予知を「王国の危機に関わる事」に限定して使用するようになった。


「今は60%ぐらいかな?」


 つまり、5回に3回は当たるのだ。

前回はハズレた。今回は当たるのだろうか?


「魔物の脅威ならば、警戒するしかないな」


 この国に所属した同級生は、6人。

せっちんとノブちん、貴坊、丸くん、栄ちゃん、雅やんだ。

女子たちを迎えに行くことは、王都までの輸送に問題があり、全員で口を閉ざすことに決めた。

さすがに女子たちを犯罪者扱いして全裸で輸送させるわけにはいかなかった。

それが命を守るためであってもだ。そう思っていたのだが……。


 この6人、1人が盾役、2人が後衛の戦闘系で、3人が補助系のギフトスキルだった。

俺たちは正面切って戦うには不利だった。

そのため、他のスキルが開花することも期待されてレベル上げを行なった。


 しかし、補助系のギフトスキル持ちは職業もそっち系となってしまい、戦闘には向かないことが判明した。

貴坊のギフトスキルは予知、職業は預言者となり、この国を危機から守るためにだけ予知スキルを使い続けることになった。

丸くんのギフトスキルは清浄で、職業は聖職者となり、教会で回復魔法を使う仕事に就いた。

栄ちゃんのギフトスキルは職業に植物博士を得たために植物神の加護に進化した。

そのスキルが最も生かせる場がこの国の隣の農業国だったため、今はノブちんと一緒に農業国に派遣されている。

そのノブちんのギフトスキルは豊穣神の加護で、職業は脂肪騎士だ。

太っていることが強さの秘訣らしく、厳しい訓練を経ても痩せることはなかった。

雅やんは職業に毒魔導士を得て、ギフトスキルが全毒知識となった。

全ての毒を司ることが可能となり、それを使用して戦闘をも熟す。

そしてせっちんは、ギフトスキルに火神の加護を得て、職業は火炎魔導士となった。


 そうそう、そこにもう1人加わった。

王国から赤Tが逃げて来てこの国に亡命したのだ。

そのせいでこの国は王国と緊張状態になってしまった。

俺たちには前衛職が居なかったので、赤Tという前衛職は有難いかったのだが、むしろ王国に目を付けられたのはマイナスだった。


 赤Tはいろいろ情報を齎した。

特に王国は召喚勇者を洗脳するだとか、同級生たちのうち数人が既に死んでいると聞いたことはショックだった。

魔の森も魔物が活性化し、侯爵軍の騎士や兵士が千人死んだらしい。

その魔の森に取り残された女子たちの生存は絶望的らしい。

裸連行の方がマシだったのだろうか?


 その魔物が、この国の上を通過し、農業国へと向かうと貴坊が予知したのだ。


「空を飛ぶ魔物ならば、俺が出るしかないな。

それと、魔物の通過する時間や位置は貴坊に予知してもらいたい」


「半分期待しないでいてね」


 貴坊がそう釘を刺す。

半分はハズレるのだ。それも込みで動くしかない。


 しかし、その日は空の魔物を捉える事は無かった。


 ◇


「王国との国境沿いで空を高速で飛ぶ魔物を農民が目撃したそうです」


 その目撃情報は、まさに貴坊が予知した日のことだった。

つまり、貴坊の空飛ぶ魔物の上空通過は当たったものの、その時間や場所の予知はハズレたのだ。


「農業国に空の魔物? 知らないよ?

まあ、僕が出立したのは1週間以上前だからね」


 農業国に行っていた栄ちゃんが戻って来たのだが、空の魔物の事は日にち的に知らなかったようだ。

まあ、こちらも農業国へ警告を与えるのは無理だったのだがな。

農業国に残っているノブちんに問い合わせても、その情報伝達に時間がかかってしまい意味をなさない。

しかし、やらないよりやった方がマシだろうな。

俺はノブちんに問い合わせの手紙を送った。


 ◇


 そんな手紙がまだ届かないだろう頃、また貴坊が予知をした。


「空飛ぶ魔物が戻って来る。同じルートだ」


 同じルートが本当ならば、迎撃可能だろう。


「貴坊、出撃だ!」


 こうして俺と貴坊は再度魔物の迎撃に出撃した。

今度は農民が目撃した魔物の飛行ルートに添って南下したのだ。

これならば、魔物を発見次第攻撃可能だったからだ。

だが、魔物には遭遇することもなく、農業国に比較的近い場所に陣取ることとなった。


 その夜。貴坊が突然予知をした。


「あそこ、空の魔物が通る。今!」


 その予知は今までになく強気だった。

俺は躊躇せず【爆裂魔法】を空に放った。

その爆発が巨大な花を咲かせたとき、その光に照らされた空飛ぶ魔物が見えた。

その数3。よりによって人間を抱えている。


「農業国より攫われた人か?」


 俺は巻き添えにしてはまずいと躊躇した。


「魔物に抱えられるなんて、もう生きてないでしょ」


 だが貴坊の言葉に攻撃の意志を固めた。


「そうだな。俺が仇をとってやる」


 俺は空に向けて追撃の【爆裂魔法】を複数放った。

だが、魔物はひらりと回避すると農業国の方へと戻って行った。


「逃がしたか。

だが、貴坊、今日の予知は大当たりだったな」


「でも、取り逃がした。

しかもあの魔物は人を攫って食うつもりだったんだと思う」


 被害者が農業国の人ならば、魔物を農業国に戻したのはまずい。

新たな被害者を出しかねない。


「そうだな。農業国に知らせた方が良いだろうな」


 俺たちがこのまま南下して知らせることも選択肢に入れておこうか。

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