第223話 一夫多妻
「遅かったね」
「赤Tは?」
「心配したよー」
温泉拠点に戻ると運動部3人組が声をかけて来た。
この3人は不測の事態の対応で前に出る必要があったため、最初に接触するのは仕方が無かった。
さちぽよも戦闘要員だが、彼女が生きていることが王国に知られてはならないため、こういった時に前には出て来ない。
3人組には、しっかり
だが、この3人は鈍感で、その意味を理解していなかった。
だが、少し遅れてやって来た後続が曲者だった。
俺たちがチョコ丸に2人乗りして来た事実と、麗の様子を見て、察しが良い奴が現れた。
「ちょっと、何関係深めてるのよ」
「お姫様乗り! まさかついに!」
「いや、これは……」
裁縫女子と瞳美ちゃんに反論しようにも否定する言葉が思いつかなかった。
麗と関係を深めてしまったのは事実だからな。
だが、裁縫女子の言うニュアンスと、実際に起きた事実は微妙に違う気がする。
そこへ結衣が遅ればせながら顔を出してしまった。
「やっと帰って来た。
なに? 高所恐怖症対策?」
俺と麗の二人乗りを見ても結衣は全く意に介さなかった。
浮気を疑うという気もないようだ。
「あ、ああ」
後ろめたい気持ちが、俺を口籠らせる。
まるで本当に浮気をしたかのようだ。
いや、ある意味浮気か。
キスからアウト、エッチしたらアウト、2人きりで食事してもアウトと、人によって線引きが違うらしい。
それを決めるのは嫁の気持ち次第って言うからな。
「大丈夫だよ。
大樹くんに何人お嫁さんがいても」
その俺の様子を察したのか結衣が一夫多妻容認発言をする。
麗の言っていたことは事実だったのだ。
「あー、そういうことだったのか!」
「ついにマドンナちゃんにも手を出したか!」
それでやっと理解し反応するベルばらコンビ。
それにしても、結衣が容認しているのが事実で本当に助かった。
そうでなければ退くも進むもどちらもクソ親父コースだったのだ。
結衣が認めていてくれて本当で助かった。
これで2人を幸せにすれば、俺は救われるのだ。
「人聞きの悪い! これから話し合う案件なんだから、手を出すわけないじゃん」
キスとハグは手を出したうちに入るのだろうか。
それにしても、女子たちの間では、一夫多妻容認の話が随分共有されていたんだな。
しかも俺が麗に手を出すだろうと思っていたのか。
違うからね。今回は麗の方から手を出して来たんだからね。
まあ、結衣が許してると聞いて、その関係を認めたのは俺だけどさ。
もうこれ以上は……そういや瞳美ちゃんは娶れって麗が言ってたな……。
いや、まだ考えないようにしよう。
「それって認めてるのと同じ」
「次は私ってどう?」
ベルばらコンビがアピールして来る。
こいつら、本気か揶揄ってるのか判断がつかない。
まあ、本気だったとしても気持ちは1つだけどね。
「ベルばらコンビは無理だからね!
仲間としての好意はあっても、そこに恋愛感情なんて全く無いぞ」
突っ込みついでに思わず本音が出てしまった。
「あー酷い、こんなところで2人ともフリやがった!」
「これから関係を深めるところだったのに!」
えーい、俺はハーレム無理なんだから、言い寄られたら全て受け入れるわけじゃないんだぞ。
今回は麗も幸せにしたいと思っただけなんだからね。
そこには愛情が無いと嫁には出来ないんだぞ。
「そんなことより、赤Tはどうなったでござるか?
助かったのか? 一緒に居ないということは……」
腐ーちゃんが肝心なことを訊ねて来た。
それが一番大事な案件でしょうが。
いや、女子たちにとっては、一番大事なのは恋愛話で正解なのか。
こういう時に、冷静な腐ーちゃんの存在は助かる。
変に嫁にしろアピールも無いしね。
「赤Tの命は助かった。
だけど、ここに連れて来るのはトラブルの元だと考えた」
「赤Tは皆から少なからず嫌われていたでござるからな」
やっぱり嫌われてたんだ赤T。
「俺も無理だと思ったんだ。
洗脳という手も考えたが、赤Tは意志が強く、洗脳から脱する可能性が高い。
その都度再洗脳していたら、俺が暗黒面に落ちる。それは避けたい。
そして奴は麗に懸想しかねなかった」
「うわ、あいつマドンナちゃんに言い寄ってたのか」
「無理無理。次は私ってなったら困る」
裁縫女子、たぶん次にはならないと思うが、赤Tが誰でも良いという奴の可能性は否定できない。
むしろ食い散らかされたら困る。
「だから、命は助けたけど合流はさせなかった。
赤Tは王国とも決別したようなので、隣国に向かうように仕向けておいた」
「隣国と言うと、ノブちんたちが行った国でござるか」
「王国との諍いで勇者を投入されて被害甚大だった過去があるんだったよね」
瞳美ちゃんの本の知識でそこらへんの世界情勢は共有されていた。
今は王国との間には魔の森という不干渉地帯が出来たために停戦状態になっているが、ディンチェスターの街あたりは昔は隣国の領土で王国に奪われたものらしい。
「だから無所属あるいは王国から逃げた勇者は対王国戦力として歓迎されると思うんだ」
勇者即処刑なのは勇者排斥論者という旧教会の残党だけらしい。
そいつらに目を付けられない限り大丈夫なはずだ。
「赤Tはドラゴンスレイヤーの実力らしい。
さすがに勇者排斥論者も手を出せない強さのはずだ」
「でもモドキンに簡単にやられたんだよね?」
そうか、皆はまだモドキンを
俺がハッチを急行させて、麗とともに現場に行ったのも、モドキンの物理攻撃で赤Tが怪我をしたと思っていたようだ。
「実はモドキンは猛毒王の略でモドキだったんだよ。
この世界ではモドキという単語は偽物ではなく恐怖の象徴だったんだ」
「えー、盛大な勘違いだったの?」
「猛毒って危なくないの?」
その心配は尤もか。
「モドキンもいつもは毒を出してないから大丈夫だよ」
それでも事故が起きた時のために毒消しポーションは大量に仕入れておこうか。
「温厚なドラゴンモドキと思っていたら、一番危険なドラゴンだったでござるか」
「魔物図鑑で調べたら、最強種って書いてあった」
瞳美ちゃん、遅いよ。
まあ、誰もがモドキだと疑ってなかったんだよね。
「それより、どうしてマドンナが嫁になったのか詳しく」
「どこまで進んだんだよ!」
ベルばらコンビ、おまえら、忘れてなかったのか。
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