第222話 赤T、どうする

 赤の勇者こと赤Tの洗脳は中途半端に解けているらしい。

その告白は、以前のような知性の欠片もないような言動からは、明らかにまともに聞こえた。

れい=マドンナも、その真剣さに真面目に答えなければいけないと思ったようだ。


「ごめんなさい。私、もう人妻ですの」


 その気の早い言動に俺も麗を二度見せざるを得なかった。

しかし、それ以上に赤Tには不幸な一言だった。

赤Tは、死にかけて思わず呟いてしまったのだろうに、ここに麗から完全にフラれることとなった。


「え? これは現実? 俺、生きてんのか?」


 赤Tが全身の赤装備よりも顔を赤くする。

何を口走ってしまったのだろうと恥ずかしくなったのだろう。

気持ちはわかる。恥ずかしくて顔から火が出るというやつだ。

そして、麗の言葉を理解したことで、違う意味で赤くなった。

麗を奪った男への怒りだ。


「だ、誰と結婚した!」


 そして、俺の左腕をがっしりと抱き抱え、満面の笑顔で胸を押し付けている様子を見て、全てを理解したようだ。


「お・ま・え・かー!!!」


 赤Tは恥の感情をそのまま怒りに転嫁したかのように怒りだした。

自分でも感情を制御できないらしい。


「落ち着け。まだ毒の影響が完全に抜けていない。

安静にしていろ」


「そうよ、ダーリンが助けに来なかったら死んでたんだからね」


 赤Tの表情が変わる。

助けられたと知ったことではなく、麗が俺をダーリンと呼んだことでだ。

しかし、ダーリンってラ〇ちゃんか!

悪くない。


「hんげうぃうfjk」


 赤Tが言葉にならないものを口走って倒れた。

どうやら頭の血管をやってしまったようだ。


「麗、治してあげて」


「もう、しょうがないわね」


 麗が、女神様に祈る。

しかし、それは心底面倒だと思ったのか、命は助かったけどあまり効果があったようには見えなかった。

相変わらず赤Tは気絶したままだったのだ。


「もしかして、嫌いなの?」


 俺は麗が赤Tを嫌っているのかと訊ねた。

その気持ちが治療にいろいろ影響しているのかと思ったのだ。

それと、赤Tに俺との関係を見せつけて結婚相手だと強調しすぎなように見えたのだ。

だって、まだ結婚してないよね?

そもそも嫁を複数持って良いって話も、よくよく考えたら結衣から直接聞いてないし。

麗に嘘をつかれていたら、この後完全に修羅場だぞ。

いや、今は赤Tのことを考える時だ。


「私、赤Tにいろいろ嫌なことされてたから」


「小学生か!」


 好きな子に悪戯して気を引こうなんて、ヤンキーの強面の外見でやることじゃない。

赤T、その行動は逆効果だぞ。

やられた本人はマジの虐めにしか思えないぞ。

うーん、そうなると赤Tを温泉拠点に連れて来るのは問題があるぞ。

どう考えてもトラブルの元だ。

また青Tのように洗脳するか?

いや、それも闇魔法の暗黒面に落ちそうで怖い。

洗脳の度合いが深ければ深いほど、かける人数が多ければ多いほど闇の底へと落ち込み易くなるようなのだ。


「困ったな。赤Tは王国の洗脳も一部自力で解除できるほどの感情の強さがある。

このまま温泉拠点に連れて行くのは難しいぞ」


「私、赤Tと一緒の共同生活は無理かも。

他にも苦手にしている子、多いよ。

とりあえず命は助けたから、後は自由にしてもらえば……」


 麗さん、ドライね。

だけど、それが温泉拠点にいる同級生女子の総意かもしれない。

以前も委員長チームとヤンキーチームに分かれた時に、ちょくちょく赤Tが絡んで来ては皆が嫌な思いをしていた。

あの時のままの赤Tを受け入れるわけにはいかなかった。


「よし、王国への帰属意識は解けてるみたいだから、このまま放置とするか。

洗脳を完全に解いてしまうと、もっと言動がめんどくさくなるから、加減がわからないしね」


「赤Tも、人妻になった私と一緒は嫌だと思う」


 いやそこでまた人妻を強調しますか。

そういや、麗には貴族の愛人役をやってもらってたから、実質妻として振舞うことが何度もあったんだった。

ああ、結衣が認めたって話、どうなってるのか、ちゃんと確認しないと。

しかし、それが嘘で麗のことを捨てるとなると俺がクソ親父と同じになってしまう。

結衣への裏切りもクソ親父と同じだ。

マジで認めてなかったら、俺はどうすれば良いんだ。

これは赤Tになんか構っている場合ではないぞ。


 幸い、モドキンのおかげでここら辺には魔物が居ない。

しばらく放置しても赤Tが襲われることはないだろう。

なんならGKの配下に守らせても良いだろう。


「じゃあ、赤Tは放置で帰ろうか」


「空は嫌よ?」


 麗が心底嫌そうに言う。

たしかに剝き出しでの空中移動は高所恐怖症の人には受け入れられないだろうな。


「眷属召喚、チョコ丸!」


「クワッ!」


 俺たちの目の前にチョコ丸が召喚されて現れる。

俺と麗はチョコ丸に2人乗りする。

麗を前に横座りさせてその後ろに俺が跨る。

王子様がお姫様を馬に乗せるポジションだ。


「ああ、そうだ。

カブトン、赤Tを抱えて街道まで連れて行ってやってくれ。

隣国寄りにしてあげてね」


 その方が赤Tも身の安全を確保できる。

王国から離脱したとなると、隣国ぐらいしか頼れる国はないだろう。

瞳美ちゃんの本知識による世界情勢では、隣国は寝返った勇者には優しいらしい。

そういえば、ノブちんたちも、隣国に行っているはずだったな。

保護されていれば良いんだけどな。


 そういや、ノブちんたちからの接触のためにこの森に留まっていたことを今思い出したよ。

よくよく考えたら、それさえなければ侯爵と揉めた段階で逃げても良かったわけだ。

まあ、このまま平和が続くならば、温泉拠点周辺を領土にして定住しても悪くないか。


 俺はチョコ丸を走らせて温泉拠点へと急いで戻るのだった。

飛ばないと結構遠いのよね。

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