第219話 赤の勇者
『GK、入口封鎖!』
俺は予め決めてあった緊急対応策をGKに命じた。
これは温泉拠点まで来てほしくない団体、あるいは人物が森に侵入しようとした時の対応策の一つだ。
入口封鎖を発令すると、GKの配下が抑え込んでいた巨大ムカデが解放される。
そして侵入者が森へと進めば、巨大ムカデを道まで追い立てることになるのだ。
巨大ムカデは入口付近に巣を作っているため、侵入者が縄張りを犯したと判断し暴れる。
これが結果的に入口封鎖となるのだ。
巨大ムカデを眷属化していればもっと簡単だったのだが、巨大ムカデはGKのように隠密行動が出来ず、眷属として世話をすると自ずと目に入ってしまう。
その姿は女子ウケが悪く、泣く泣く放出となってしまったのだ。
テイムスキルでもあれば、こっそり眷属に戻したいだけの戦闘力がある頼りになる魔物だ。
『眷属召喚、モドキン! ポイント1封鎖!』
次にモドキンを入口後方のポイント1に配置する。
これは転移の魔道具を応用した眷属召喚のポイント指定だ。
転移起点となる魔道具を設置することで、その場所に眷属を召喚できるのだ。
目視していない場所にも眷属を配置出来る優れものだ。
ただし、予め転移起点の設置が必要なので、召喚出来る場所は限られている。
例えば、場所も知らない王城に、いま急に眷属を召喚するなどということは出来ない。
誰かが王城に転移起点の魔道具を配置してくれれば別だが。
こうして二重態勢で赤Tを待ち受けることとなった。
赤Tが巨大ムカデを突破しても、モドキンの姿を見れば逃げ帰ってくれることだろう。
モドキンは
こういった脅しに使うには便利なのだ。
赤Tはあれでも同級生なので、死んでもらっては困るのだ。
赤Tはまだ従者の騎士と揉めていた。
騎士はさちぽよの時と同じ4人。
赤Tのお世話役であり、こういった場合の歯止め役でもあるようだ。
『お待ちください、もしものことがあったら困ります!』
『私を誰だと思っているのだ!
私は王国唯一のドラゴンスレイヤーだぞ!』
「は? ドラゴンスレイヤーってドラゴンを倒したってことだよね?」
モドキンは偽ドラゴンだから、本物を狩れるドラゴンスレイヤーの手にかかったらひとたまりもない。
しかも転移起点の魔道具を使用した眷属召喚の制限が、再召喚で戻すことを阻んでいて、今は戻せないのだ。
この魔導具を使用した唯一の欠点、クールタイムが発生してしまうからだ。
『こうなったら、仕方ありませんね』
従者の騎士が意を決したかのように呟く。
『王の名において命ずる! 我に従え! 行動停止!』
従者の騎士がそう口にすると、赤Tの身体が固まり動けなくなった。
『くっ、私に何をした!』
『勇者が我が王国の指示に従わない時、あるいは反逆した時のために、隷属魔法がかけられているのだよ。
なるべく使いたくなかったのだが、こうなったら致し方ない』
『いつの間に……』
『あなた方は扱い辛かったのでね。
洗脳で性格を変えたというのに、まだ身勝手な行動をとろうとする所が残っていたとは思いませんでしたよ。
帰ったら再洗脳ですかね』
『おのれ、貴様ら!』
赤Tの顔が赤く染まり、ブチ切れている様子が伺えた。
それにしても、隷属魔法までかけられていたとは思ってもいなかった。
青Tことセバスチャンもまだ隷属下にあるのだろうか?
そんな感じは無かったのだが……。
もしかすると俺の洗脳上書きか、マドンナの癒しで解除されているのかもしれないな。
パーン!
その時、赤Tの首から下げていた魔道具の魔石が割れて弾けた。
あれはたしか鑑定阻害アイテムか。
すると、赤Tがゆっくりと背中の大剣に手をかけ抜き放った。
赤Tは動けるようになっていたのだ。
まさか、あれが隷属の魔道具を兼ねていたのか。
それが壊れたので隷属魔法が切れた?
そういや青Tからもあれを取り上げてあったな。
『お前ら王国の正体、良く判った。
私は王国から離脱し友の仇を討つ!
その後は王国だ。覚悟しておけよ!』
赤Tが自らの意志で隷属魔法を撃ち破り、王国から離脱した瞬間だった。
どうする、助けるか?
こいつ、めんどくさい奴なんだよなぁ。
洗脳が良い感じになっていてくれれば良いんだが……。
『エドワルド卿、いや赤の勇者様、ご乱心めさるな。
今のは嘘、そう冗談でござる』
『そんな言い訳が通じると思うか!』
赤Tは王国の騎士と戦闘状態に入ってしまった。
これは困った。
赤Tを大っぴらに助けると、俺たちも自動的に王国の敵となってしまう。
ヤンキーの尻ぬぐいで俺たちが危険に晒されるのは困る。
今はまだ王国と敵対するのは早すぎる。
しばらく赤Tは放置で様子を見るしかないか。
それよりもモドキンが危ない。今から撤退させておこう。
しかし、モドキンの脚は王者の風格かの如く遅く、遅々として進まなかった。
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あとがき
皆さん、ご理解いただけていると思いますが、転校生はモドキを偽物の意味だと思っています。
モドキが猛毒王の略語――召喚勇者が冗談で付けた名前が定着した現地語――だとは思っていません。
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