第217話 横からバカがしゃしゃり出る

 捕虜の引き渡し交渉が思わぬ所で難航した。

侯爵軍第3軍の元となっているのが、第3軍司令だったジャスパー=バーリスモンドに与えられた所領の騎士と領兵、そして民兵だった。

ジャスパー子飼いの騎士と領兵、そこに領民から徴兵された兵士が加わっていたのだ。


 ジャスパーが亡くなったあと、その領地の差配をしたのが、ジャスパーの母であるブリアナ=バーリスモンドだった。

ブリアナは現侯爵となったメルヴィン=バーリスモンドの姉だった。

所謂出戻りであり、弟メルヴィンに女子しか子供がなかったことで、自分の息子であるジャスパーを侯爵家の跡取りとしようと画策していた。

それがメルヴィンにも男子が生まれ、ジャスパーは継承権がその子の後となってしまった。

ならば軍事で力をつけようというのが、侯爵軍第3軍だったのだ。


 そのブリアナが難物だったのだ。

ブリアナは騎士と領兵には身代金を払い引き取るが、民兵は要らないと言っているそうなのだ。

それも纏まりかけたロイド将軍との交渉にしゃしゃり出て横やりを入れぶち壊したのだという。


 俺はそうケールから説明を受け、頭を抱えた。

これはどうにもならないと。

自軍の状態も自分の実力も理解出来ていなかった、あのどうしようもない指揮官の母親なのだ。


「何人が引き取り拒否に?」


「196人中161人です」


「161人の身代金はいらないから連れて行けと言っても?」


「その161人を奴隷として渡すから騎士と領兵の身代金にその代金をあてろと言ってます」


 民を何だと思っているのだ。

しかも値切るための道具にしようとは……。


「しかも質が悪いのは、騎士や領兵であっても、一定の額以上ならば引き取らなくても良いと言っているのです」


 ああ、そいつ、絶対にダメな奴だ。

捕虜の人達は真面目にしっかり畑を耕してくれているというのに。

それは、領地に戻っても同じで、領地繁栄の生産力だろうに。


「捕虜を処刑することになると言っても?」


 ブラフだが、そのような駆け引きも必要だろう。


「息子を守れなかった者たちなど勝手に死んでくれだそうです」


 なんて金に汚い奴なんだろうか。

いや、そこは本音なのかもしれない。

息子第一で、息子を守れなかったことが捕虜たちへの恨みとなっているのだろう。


「つまり、難癖付けて、捕虜が帰らない責任は俺たちに擦り着けると」


「そのようです」


 このまま捕虜を留め置いても、そのうち食費等が負担となる。


「いっそ、タダでも良いから返すか」


「それをやると、ブリアナ様の手柄となってしまいます」


 それも気に喰わないな。

こうなったら奴には汚点を残してもらいたいところだ。


「わかった。捕虜はブリアナのせいで全員処刑されたと伝えよ」


「え?」


 唐突な俺の宣言に、ケールも戸惑う。


「こちらで全員面倒をみる。

それを処刑されたと伝えよ。

しかし、これで停戦とはいかなくなった。

覚悟しろとブリアナに伝えてくれ」


 俺は侯爵領への攻撃を決意した。

この捕虜返還はただの手続きではない。

お互いに矛を収めるための儀式でもあるのだ。

それを円満に行う気がないというなら、結果は知れたものだろう。

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