第164話 鉄鉱石?いいえ、岩トカゲです

 さて、困ったぞ。

俺が一番得意とする魔法は火魔法だ。

なのに、どうやらロックトカゲは、その火魔法に耐性があるようだ。

この峡谷、なんとなく気温が高いと思ったら、どうやら火山の火口が近いみたいだ。

火口のある外輪山に開いた峡谷という感じだろうか。

そこに好んで生息するからには、ロックトカゲは火耐性を持っているということだろう。


 次に俺がやや得意な魔法は、スキル統合でレベルの上がった水魔法と風魔法だろう。

伏せているロックトカゲに風の刃を当てても、背中にある岩の甲殻で防がれてしまう。

ここはロックトカゲの弱点である、岩の甲殻が無い腹部を狙いたいところだ。

だが、それを実現できる地面からトゲを生えさせるような魔法は土魔法と決まっている。

俺はその土魔法をスキル整理で捨ててしまった。

残るは水魔法。水魔法でも使える氷の魔法を使ってみようか。

ロックトカゲと呼ばれるぐらいなので、冷血動物ならば寒さに弱いはずだ。


「アイスバレット!」


 複数の氷の礫がロックトカゲに当たる。

だが、ロックトカゲは平気な顔をしている。

俺が使える氷魔法はレベルが低すぎて効果的ではなかったのだ。

元々氷魔法は水魔法の上位スキルであり、水魔法レベル2で使える氷魔法と言ったら初歩の初歩でしかなかった。


「だめだ。範囲魔法で気温を下げられるような高度な氷魔法がないと効果が無い」


 やはり得意な火魔法でなんとかするしかないか。

ここは火耐性を上回る火力をぶつけるしかないと判断する。

耐えられると言っても、限界があるはずだ。

俺のMPとロックトカゲの耐久力の勝負となるだろう。


「ん? あれは!」


 氷の礫が当たったうちの一か所に俺は目がいった。

そこに違和感を持ったのだ。

それは先ほど火魔法が苔を焼いた岩の甲殻部分だった。


「あそこに歪みが出来ている?」


 それは熱した部分を急激に冷やしたせいで起こった熱膨張と収縮による歪みだろう。


「あそこを集中して熱したり冷やしたりして脆くすることが可能かも!」


 ロックトカゲは伏せた体制でしか動けず、岩の上に避難した俺たちに攻撃することが出来ないようだ。

つまり魔法による遠距離攻撃ならば攻撃し放題だった。

だが、止めは接近して刺さなければならない。

そこだけが危険な瞬間となるだろう。


 火魔法と氷魔法を同じ場所に当て続ける。

頭の良い魔物であれば、危険を察して逃げるところかもしれないが、甲殻の中身にはほとんどダメージがないことと、攻撃されたことで激昂しているようでロックトカゲはその場に留まり続けた。

もう1匹もお零れに預かるつもりか逃げようともしない。


ビシッ!


 ついに岩の甲殻に罅が入った。

元々不純物を含んでいた部分が脆かったのだろう。

その罅の下にはロックトカゲの柔らかい皮膚が見えている。


 それには焦ったのか、ロックトカゲが手当たり次第に毒液を吐きまくる。

これでは毒耐性のある俺でも接近し辛い。

槍か何かあそこに突き刺すものでも……。

そうだ、刺突のスペシャリストがいるじゃないか!


「眷属召喚、カブトン!」


 俺の横にカブトンが現れる。

カブトンには鶏の護衛を頼んでいたが、ベルばら組が鶏担当だって言ってたから呼んでも問題ないだろう。


「カブトン、あの罅に刺突攻撃だ!」


 俺が命じると、カブトンは羽を広げて岩の上から飛び立ち、空をぐるっと旋回して速度を増すとロックトカゲの罅に刺突を行った。


ズドーーン!


 それはオーガをも倒す強力な一撃だ。

ロックトカゲはその一撃で吹き飛び、腹を見せて動かなくなった。

カブトンは以前と比べて大きくなり、体長1.5mはある。角を入れると2mか。

成虫が脱皮もなしに大きくなるとは不可解だが、そこは魔物、何らかの進化方法があるのだろう。


 残る1匹のロックトカゲも、それを見て慌てて逃げようとする。

そのロックトカゲにカブトンは角によるカチ上げを行う。

ロックトカゲは、そのまま宙を舞い、腹を上にしてひっくり返った。

そこにカブトンが角を突き刺す。

2匹目もカブトンが止めを刺した。


「俺の魔法攻撃は、要らなかったのか!」


 カブトンにかかれば、俺の魔法は無駄だったようだ。

カブトンが次々とロックトカゲを倒していく。

それを俺がアイテムボックスに収納していく。

最早、鉄鉱石を拾っているのも同じだった。


 こうして俺は鉄鉱石を大量に手に入れることが出来た。

なお、ロックトカゲは毒持ちなのだが、毒袋を綺麗に排除出来れば肉は食えるそうだ。

毒持ちは美味いというので期待しよう。

ちなみに、毒袋も素材として売れるらしい。

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