第157話 再交渉2
「これって、ユルゲンを始末したのが、俺たちが使役している魔物だって思われてるよね?」
「そうでないと、全面降伏なんて態度は取らないでしょうね」
どうやら状況証拠を残し過ぎたという懸念は当たってしまっていたようだ。
今後こちらはどのような態度をとるべきだろう?
「やはり知らぬ存ぜぬという態度が正解だろうか?」
「そこは、知らないで良いと思う。
あえて、失礼な態度に対する謝罪程度の感覚で、赤い旗は見れば良いかな?」
つまり誠意ある謝罪として最大級の態度を取ったんだろうということにすれば良いのか。
そこらへん、
◇
俺はその様子を隠密スキルで隠れているホーホーと視覚共有して覗いているところだ。
「赤い旗とは、いかがなされたのですか?
それに、ユルゲン殿は一緒ではないのでしょうか?」
赤い旗の意味をはき違えるのは危険という判断で真意を確かめたいのと、ユルゲンの件はこちらは知らないぞというアピールだ。
「まずは謝罪を。
先程はユルゲンが大変失礼をいたしました。
そのこともあり、ユルゲンは
「処分ですか?」
モーリス隊長は、ユルゲンの不在を処分という言い方で答えた。
隊長自らが殺したともとれる言い方だが、実際はGKがパクっと行っちゃっている。
彼自身も俺たちが関与していると疑っているだろうに、
「ユルゲンは名代と言っても、あそこまでの権限は持ち合わせていません。
あくまでも討伐報酬の金額を交渉する権限があるぐらいなのです。
その権限を逸脱したことと、交渉を決裂させた責任で、更迭いたしました。
その後で魔物による不幸がありましたが、それは別の話ですな」
どうやらユルゲン殺害の件は完全に黙殺するつもりのようだ。
いや、こちらの仕業と疑いつつも、お互いに魔物のせいだとするのが一番良いと納得したというところか。
そこから更に踏み込んで更迭が先だったんだぞと伝えてきたわけだ。
「赤旗は、こちらの謝罪の意を込めてのものとお考え下さい」
「わかりました。
赤旗を掲げてまでの謝罪、受け入れましょう」
いや、
「ありがとうございます」
「では、オーガの討伐部位をお引き渡ししましょう」
オーガの討伐部位は魔石だった。
角や牙などはオーガを殺さなくても手に入る。
だが、魔石は確実に殺していないと手に入らないものだ。
ちなみに魔石は、どの魔物のものかは鑑定魔法や魔道具によって鑑定出来るので、他の魔物の魔石で誤魔化すことは出来ない。
討伐の証拠としてはこれ以上のものはないだろう。
「まだ、討伐報酬の金額を決めていませんが?」
「赤旗をかかげてまでの交渉です。
そちらの決めた金額で構いません」
赤旗の意味や重みなんて知らないだろうに乗っかりやがった。
「おお、ありがとうございます。
それでは金板200枚でお願いします」
金板200枚ということは金貨2万枚相当か。
インセクターが完品で金板5枚らしいから、とんでもない額だな。
食料ならば20億円、服や武器の工芸加工品ならば2千万円ぐらいの感覚だろう。
思わず
「これはオーガ1体の報酬ではありません。
オーガの率いる群数百体の魔物を狩った報酬とお考えください」
オーガ1体ならば、さすがにこの額は有り得ないだろう。
モーリス隊長は壁付近の戦い跡を見て、数百の魔物を倒したことを確信しているのだそうだ。
そこが現場を知らないユルゲンとは違うところだな。
討伐報酬の最大金額として持参した金板全てを出したんだそうだ。
「そうでしたか、ならばこちらもお土産を渡すべきですわね」
そう言うとグレースはキャピコの糸で織られた反物をモーリス隊長に渡した。
「こ、これは!」
「どうぞ、オールドリッチ伯爵に友好の品としてお渡しください」
俺たちは軽い気持ちだった。
キャピコが毎日吐いている糸をクモクモたちが織った布だ。
まあ、日本でいえば絹みたいな高級感はあるが、ただのイモムシの糸だ。
うちでは普段着や女子たちの下着に使っているぐらいのものだ。
普段着なんか白が多すぎて、わざわざ草や泥で汚して染めて着ているぐらいだ。
「承りました」
モーリス隊長が、恭しく受け取る。
あれ? なんか彼の態度が思っていたのと違いすぎないか?
そういや、あの貴族服に使った布や刺繍もキャピコの糸だったか。
見た目だけは高級品に見えたが、珍しいものなのだろうか?
そういや、この世界、布も高かったな。
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