第152話 家令

Side:領兵隊隊長モーリス


 他の地域を担当していた小隊からも報告を受けたが、やはり魔物はあの貴族たちに討伐されてしまったようだな。

特に貴族の保養地から西に進んだ先に広がる草原地帯は、キラーマンティスが縄張りとする危険地帯だった。

例え魔物の群がそこまで進出していたとしても、食うか食われるかの壮絶な潰し合いとなっていただろう。

報告によるとキラーマンティスは数を減らしているが、未だに縄張りを維持しているようだ。

担当した小隊は接触を避け、命からがら逃げて来たというが、さすがに怒るわけにはいかないか。

草原にはキラーマンティスをも捕食するインセクターが存在していたことが、彼らの命を救ったようなものだからな。

インセクターとキラーマンティスが戦っている隙に逃げることが出来たとは運の良い奴らだ。

もし小隊がこの二者に挟まれていたならば、俺の遺族巡りという仕事が増えるところだった。。

今後は進入禁止措置を取るしかないだろう。


 そのような危険地帯に保養地を作るなど、正気の沙汰ではない。

常に魔物の脅威に晒されるわけだ、それを倒す戦力がなければ……。

いや、その戦力があるからこそ、奇行種のオーガ率いる数百の群を討伐出来たということだな。

あの若い集団が本物の貴族・・・・・であるかどうかは関係ない。

その武さえあれば自ら貴族を名乗り家を興しても誰も文句が言えないだろう。

所謂地方豪族が国王や貴族を自称するというやつだ。

我が国に所属するというのであれば、その所領を併合することで王より叙爵されても不思議ではない。

つまりどこの国の貴族だろうがそうでなかろうが、我が国に害をなさないのであれば、貴族として扱うしかないということだ。


「さて、主君にはオーガの討伐報酬を出してもらわなねばならんな」


 俺たち領兵隊が討伐したならば出さなくても良い金だが、それは人的被害ありきのことだ。

全員無事に帰れた理由が第三者による討伐であれば、そこで浮いた金額ぐらいは払わねばならない。

もし今回、冒険者がオーガを討っていたならば、そこに討伐報酬が出ていたわけだ、それが回されたと思えば良い。


 家令のユルゲンと交渉するのは胃が痛いが、しかたない。

俺たちが到着した時には、既に事は終わっていたのだ。

値切るなら直接ユルゲンが貴族様と交渉すれば良い。

そうだ、奴にやらせよう。俺を信用しないのならばそれが良い。


 ◇


 領都まで戻ると、俺は直ぐに登城し家令のユルゲンに経緯を報告した。


「なるほど。冒険者ならば呼び出せば良いが、相手が貴族ならば出向かわねばならぬな」


「行ってくれるのか?」


「おまえに任せると報奨金の使い込みの心配があるからな。

儂が行くしかないではないか!」


 俺が報奨金を横領するというのか?

こいつはいちいち俺をそのように扱う。

貴族家の出身だとはいえ、どうせ三男か四男で家を継げずに身分は平民に落ちているはずだ。

それでも俺のような平民出の領兵隊長を下に見ているのだ。


「ならば任せる。では俺はこれで」


 厄介事が減ってせいせいしたわ。

後は勝手にやってくれ。


「いや、待て。誰がそこまで案内と護衛をするのだ?

それぐらいの頭は持っているだろうが!」


 わざとに決まってんだろ!

後で泣きついて来ると思ったが、もう突っ込んで来やがったか。


「俺のような信用のならない者を使わずに騎士団を動かせば良い」


 少しは意趣返しをしないと我慢ならん。


「このような些事に騎士団を動かせるわけがないだろうが!」


 ユルゲンが心底バカにした目で俺を見る。

わかってるわ! 嫌味で言ってるんだよ!

仕方ない。行くしかないか。

だが、出先でも相手の貴族様を怒らせなければ良いが……。

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