第151話 交易準備

「駄目だったのか?」


 領兵隊が去った後、屋上から降りて来たバレー部女子は、何が悪かったのか解らないという様子でそう訊いた。

確かに、あの状況ではああ対応せざるを得なかったのは解る。


「いや、オスカルは無いなーと思って……」


 言いたいことはあるけど、ここで責めてもどうにもならない。

いきあたりばったりだが、次の一手を考えれば良い。

最悪武力を示してお引き取り願う手もある。

ここはバレー部女子を揶揄ってお茶を濁しておこう。


「バレーちゃんがオスカルならば、バスケちゃんがアンドレね」


 俺の茶化しに合わせてくれたのか、腐ーちゃんが乗っかってくる。

しかし、アンドレは俺たちが召喚勇者だと疑われる原因になりかねない。

オスカルだけでは偶然でも、アンドレまで揃ったなら召喚者はピンと来るはすだ。

あ、ヤンキーチームならば知らない可能性もあるか。

いや、過去の召喚勇者が生き残っていないとは限らないぞ。

変にそういった物語を残してる可能性もある。


「それは止めておこう。アンドレまで揃ったら召喚勇者だとバレかねない」


「それもそうか」


「だが、偽名は決めておかないと、咄嗟のことでは危ないかもな。

次に何て名前を口走ってしまうかわからないからな」


「言うなー、オスカルしか出て来なかったんだからしょうがないじゃないか」


 バレー部女子が激しく後悔し崩れ落ちてorzになっている。


「まあ、日本名を名乗らなかったのは褒めてあげたい」


「そこはヤバいと思ったからね」


 バレー部女子が力なく言う。

名乗らなければならない流れに乗っかったのが迂闊だったんだけどね。


「まあ、流れで今後の交易交渉にはオスカル・・・・に出てもらうことになるけどね」


「ああー、ずっとそれを名乗らないとならないんだー!!」


 その事実に気付き、バレー部女子はさらに落ち込む。

また迂闊な行動に出るかもしれないので、交渉にはお目付け役を付けておこう。

出来れば外したいが、相手のモーリス隊長に交渉役と認識されてしまっている。

ならば、お飾りにしてしまえば良い。


「交易交渉には裁縫女子にもサポートでついてもらう。

いや、サポートというかメインの交渉役だな。

裁縫女子はなんて名乗る?」


「私はグレースで」


「それはマク〇スFだね」


 いや、腐ーちゃん、たぶん偶然。

主役じゃないんだから、それは解らないと思う。

ほら、裁縫女子も???ってなってる。


「それは大丈夫じゃないかな?」


「それより、交易交渉で屋敷の中まで入れるつもり?」


 いや、ハリボテの屋敷の中になんて入れられるわけないじゃん。

まあ、それを理解しているからのグレース(笑)裁縫女子の指摘なわけだが。

なんとなくイメージが重なって笑ってしまった。


「さすがに敷地内に入れてしまったら、屋敷がハリボテだとバレる。

選択肢は3つ。屋敷を完成させるか、交易用の応接室を外に設けるか、出向いて交渉するかだ」


 屋敷を完成させるのは、時間的に無理。

モーリス隊長は、おそらく大規模討伐終了の証拠としてオーガの素材が必要なのだろう。

つまり、早急に素材を必要としている。

玄関と応接室だけならば完成出来たとしても、工事が間に合わずにハリボテの裏側が見えてしまうことだろう。


 出向いて交渉するのは、貴族馬車なり、騎士の装備なりが必要になる。

さちぽよの装備があるが、あれはさちぽよの正体がバレる証拠物だ。

手を加えるにしても、時間的に無理がある。

だいたい、さちぽよとバレー部女子では体格差がある。


 つまり消去法で交易用の応接室を外に設けるしかない。

壁の外に応接室を一部屋作ってしまうのだ。

その外側にも壁を設置して守れば良い。

応接室のある壁が破られても、まだ中の壁は突破されない。

大阪城の真田丸もそんな思想の防衛拠点だったな。

昔から防衛手段として理にかなっているのだ。

進〇の巨人でも同様の構造の壁があったはずだ。


「という感じなので、応接室を外に作る。

交易交渉はそこで行う」


「交易というからには、こちらの特産品を売り込まないと不自然じゃない?」


「こちらの特産品なんてあった?」


「キャピコの糸を織った布とか?」


 あれか。確かに高級感溢れる、日本ならば最高級の絹を思わせる布だよな。

あれならば特産品としての格は充分だろう。


「オーガの討伐部位、キャピコの布、あとはオーク肉でも売り渡すか」


「オークは丸ごと渡せば解体の手間が省けるわ」


 さすが裁縫女子、だがアイテムボックス持ちって俺と結衣とマドンナだけだぞ。

オーク丸ごとだと誰かが出て行く必要がある。


「それだとアイテムボックス持ちが出て行かなければならないだろ」


「そんなの引き渡しの時だけだから、三つ編みちゃんが出てくれば問題ないわよ」


 裁縫女子、俺やマドンナじゃなく、結衣を選ぶとは……。

確かにあまり目立ってなかったから、顔バレはしてないと思うけどさ。

貴族家当主として目立った俺と、美人で映えるマドンナよりマシだけどさ。

なんか俺の嫁がディスられてる気がするのは、気のせいだろうか?

だが、それしか選択肢がないのも事実。


「そこらへん、オーラ消すのは得意だから任せて」


 結衣が自ら志願して来た。

俺が困った顔をしていたのを察してくれたのだろう。


「奥方がアイテムボックス持ちだったなんて、普通に有り得る事案だから、堂々としていて構わないわよ?」


 ああ、素材の管理なんて下々のやることかと思ったが、容量のあるアイテムボックス持ちは希少だったんだった。

低容量のアイテムボックスを持っている庶民はそこそこ居るようだが、オーク丸ごととかあの群を入れて置ける大容量アイテムボックス持ちなんて、それこそ大商人か貴族に囲われるレベルだったわ。


 俺たちは召喚特典なのか、レベル1のアイテムボックスから大容量を実現していた。

一般の人のアイテムボックスはレベル1ではそこまでの容量はない。

まあスキルレベルを公開するわけではないので、大容量なのは貴族の奥方だから高レベルなんだと思ってくれる可能性もある。


「よし、早速準備に取り掛かろう」


 まあ、応接室を作るのならば、ゴラムとゴレーヌに働いてもらうんだけどね。

ああ、屋敷建築の作業効率を上げるために土ゴーレムの眷属を増やしておくか。

ゴーレムならば時間経過庫が使えるしな。

屋敷が完成するぐらい増やすという手もあるが、眷属の枠は有限なのでゴーレムばかりを増やすわけにもいかない。

作業が終わったから眷属から抜けてもらうなんて非情な手段は俺には出来ないからな。

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