第128話 眷属卵実験
早速実験で眷属卵を召喚してみる。
「たまご召喚、眷属卵、土ゴーレム!」
眷属卵召喚なので、名前ではなく種族名を唱えてみた。
今までは卵の種類をトカゲ卵とか虫卵とか言っていたので、ちょっと違う感覚だ。
すると、目の前には例のトゲトゲのトゲ卵が現れた。
ダチョウの卵大よいうことは、大きさ的にレベル2の卵だ。
これは本来卵から孵らないような魔物が出て来る魔物卵だ。
「たぶん、これから土ゴーレムが生まれるはず。
レベル2だから孵化は2日後か」
緊急事態なので、なんとか早く孵って欲しい。
そこで俺は禁断の技を使用することにした。
俺のアイテムボックスの中には通常庫と時間停止庫、そして時間経過庫が存在する。
この時間経過庫には生きている卵を殺さずに入れることが出来る。
その時の俺は、生き物の時間を止めたら拙いとの思いで時間経過庫に入れたのだが、どうやらこれは時間を進めるためのものだったらしい。
実際は通常庫にも時間経過があるため、そこで良かったのだが、以前はそれに気付いていなかったのだ。
時間経過庫は基本設定が1.1倍だったため、微妙に早く卵が孵るというアクシデントが発生した。
これが生き物にとっては危険なのではとの考えから、二度と使わないと決めていたのだが……。
今回の魔物卵は、土ゴーレム確定のはずだ。
土ゴーレムって時間停止庫に入れたら機能停止するような魔物だっけ?
生き物というより魔法技術によるロボットみたいなものだよね?
つまり、時間経過庫に入れて時間を早めても、影響は少ないのではないかと考えたのだ。
いや、そのロボットみたいなものが生物的な卵から孵るというのもどうかとは思うよ?
でも、そんな仕組みなんだから受け入れるしかない。
言い換えれば、卵という形をとったガチャだと思えば良いのだ。
トゲもあるし、あのトゲ卵を産む親なんて想像できないだろ?
どんだけエグイ光景だよ。
なので、生命を実験にかけるという忌避感を、土ゴーレムは生き物じゃないという屁理屈でスルーして、時間経過実験を行うこととした。
2日、48時間の時間経過を360倍とすれば8分か。
360は、1時間が60分であり、更に48時間絡みで8の倍数であれば割り切れると思っただけだ。
どうやら時間経過庫の中は複数のコマに分かれているようで、入れた物一つ一つに任意で倍率が設定できるようだ。
設定方法は経過する時間の速度ということになる。
360倍ならば、通常の360倍の速度で時間が流れることとなる。
1時間が360倍の360時間になるのではなく、1/360時間になるのだ。
「あ、8分待つのに、時計が無いぞ」
「8分? なら私が計ってあげるぞ」
バスケ部女子が8分なら計れると主張する。
「え? どうやって」
「バスケの試合は何もなければ1クオーター8分(中学生のため10分ではない)なんだ。
タイムアウトや交代、ボールが外に出た時なんかで時計が止まっても、だいたい合計で8分がわかるようになった。
人間タイマーと呼びたまえ」
つまり、一度も時計が止まることなく8分と考えれば計れるということだった。
なんという特殊能力! 凄いぞ人間タイマー。
だが、そんな凄い人間タイマーは相変わらず半裸なのだ。
「なら頼む」
「任せといて」
俺は時間経過庫の1コマの時間経過設定を360倍にした。
「準備は良いか」
「いつでも良いよ」
「なら、よーい、スタート!」
その号令と同時にトゲ卵を時間経過庫に入れた。
沈黙の中、時間が経過する。
「はい、今!」
俺はバスケ部女子の掛け声で時間経過庫の中からトゲ卵を……。
「あれ?」
そこから出て来たのは既に孵った土ゴーレムだった。
もしかして、バスケ部女子の人間タイマーが狂っていたのか?
「あれー?」
バスケ部女子も失敗したかと慌てている。
そして俺は大きな過ちに気付いた。
「ああ、取り出すまでの1秒弱の時間で孵っちゃったのか!」
真相はどうかわからない。
バスケ部女子の人間タイマーが間違っていたのかもしれない。
1秒弱でも360倍の速度で時間が経過したために、卵が孵る時間が過ぎてしまったのかもしれない。
「うん、土ゴーレムが指名出来ることが確認出来たし、土ゴーレムが無事だから良いか」
土ゴーレムが無事なので、そこは詮索しないことにした。
やはり生き物に使うのは危ないので止めておこう。
取り出す時間が遅れたせいで餓死なんてことも起こり得る。
そして、なんとしても時計を手に入れたいところだ。
「何やってるの?」
結衣が俺たちの様子を見に来た。
半裸の女性と二人きりというのもどうかというところか。
浮気じゃないよ?
「聞いてよ、せっかく私が人間タイマーで8分を計ったのに、孵化時間を失敗しちゃったんだよ。
今となったら、私の人間タイマーが間違っていたのかわからないから、モヤモヤするのよ」
バスケ部女子が事情を説明する。
蒸し返さなくても良いのに。
「ふーん、なら計ってみて?」
そう言うと、結衣は左腕の腕時計を見つめた。
「「え?」」
そう、結衣が腕時計を持っていたのだ。
手に持っているものしかこの世界に持ち込めないはずの、地球のアイテムである腕時計を結衣が普通に持っていた。
まさか、腕に嵌めている腕時計だから持ち込めた?
「え? 大樹君は知ってるよね?
見張りの時間で起こしたことあったよね?」
そういや2時間交代の見張りを普通に交代してたわ。
つまり2時間という時間を計ることが出来たってことだ。
見張りは何度かやったが、結衣や瞳美ちゃんが起こしに来てたっけ。
俺が朝方最後の見張りだったから、時計の貸し借りが無くて知らなかったということか。
「次に時間を計る時はお願いします」
「はい。???」
さっきの苦労は何だったんだろうか。
そしてバスケ部女子の人間タイマーはお役御免となった。
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