第127話 移転
「そんなに元気なら、まだ質問を続けるぞ。
この国の者たちが召喚者に対して、どのようなことを考えているのか詳しく聞かせてもらおうか」
「あー、頭が痛いーー」
そう言うとさちぽよは俺に抱き着くのをやめて逃げて行った。
この面倒くささ、この国の連中がさちぽよたちを洗脳して使おうとした理由が少しだけ理解できるぞ。
さてと、この後は居残り組に魔物の氾濫やその対処の説明をしないとな。
「皆、聞いて欲しい。
特に居残り組の皆には、謝っておかないとならない。
街で魔物の氾濫が発生した。
暫く街に行くことは出来ない」
「「えーーー!!」」
半裸2人組が不服の声をあげる。
いや、まだ半裸なのかよ!
なんだろう? もう1度見られてるし、気心が知れて体裁を取り繕うのをやめたという感じか?
女子校では、男子教師を居ないものとして、平気で着替えたりできるという、あの境地だろうか?
紗希もそうだけど、運動部系はそこらへんが緩い気がする。
もう、そこは突っ込むのを諦めるしかないか。
半裸2人組の反応は、街行きが今は危ないということは理解しているが、街での買い物というイベントへの渇望が大きすぎて、受け入れられないという感じだろうか。
「なるべく早く街へと行けるように検討するが、今はダメだ。
さちぽよが怪我をしたのを見てるだろう?」
さちぽよがレベル20だということは、皆が知るところとなっている。
そのさちぽよが怪我するような事態ということは、女子たちのレベルではあっさり死にかねないのだ。
「うーん……」
理解は出来るけど納得できないという、あの状態だろうか。
まあ、そのモヤモヤは各自で解消してください。
「話を戻すぞ。
それに加えて、魔物の氾濫に便乗した盗賊行為が横行しているようだ。
俺たちも昨日遭遇して、返り討ちにしている」
「え!?」
マドンナが絶句する。
俺たちが人を殺して来たことにショックを受けたようだ。
まあ、日本人のアイデンティティだと、いかなる殺人も受け入れ難い人はいるものだ。
俺は、帰還を諦めているから良いが、紗希はフォローしないと拙いかもな。
帰還後に面倒になるかもしれない。
「
殺らなければ殺られる。そんな状況で女子たちを守るためには仕方なかった。
ゴブリンを倒したのと同じ感覚で、あまり現実味がないんだけどな」
実際は結衣の胸に抱かれて癒されなければならないほどダメージがあった。
だが、それは俺だけが被れば良いリスクだ。
ここは嘘でも平気なふりをするところだろう。
「そんな盗賊も、本業は冒険者らしい。
冒険者が、他人の危機に便乗して追い剥ぎ紛いのことをするのが、この世界なんだ」
「マシかよ。えぐいな」
バレー部女子が呟く。
少しは街の危険性が理解できただろうか。
魔物も危険だが、人はもっと危険だと。
「腐っても冒険者だ。
そいつらが帰って来なければ、捜索隊が出るだろう」
ラノベ知識だが、そうそう間違っていないはずだ。
冒険者ギルドという仕組みが存在するからには、そこには互助の仕組みが存在するはずだ。
それが無ければ、冒険者ギルドの存在意義が無いからだ。
「ここからが本題だ。
その捜索で、この拠点が発覚する危険がある。
俺たちが移動した痕跡は消して来たが、街から獣車で1日の距離となると、偶然発見されかねない。
なので拠点を温泉に変更する。
それが完成するのはまだだが、早急に移動したいと思っている」
「やったー!」
温泉に住みたいと主張した張本人のマドンナが歓喜の声を上げる。
だが、女子たちの反応には温度差があった。
「見つかっても、冒険者との関わりを否定すれば良いのでは?」
バスケ部女子が疑問を呈する。
「そこで俺たちが召喚者だとバレれば、それこそさちぽよのように捕まって洗脳されるぞ」
森の中の洞穴に男女――主に女性ばかり――が居れば保護しようとするのが当然だろう。
それが善意から来ていたとしても、俺たちが召喚者だと発覚すれば状況が変わる。
そのせいで、俺たちがどういった扱いになるかわからない。
さちぽよたちの件を見れば、国に引き渡されて洗脳という道はあながち間違っていない。
捕まって洗脳という危機に恐怖を覚えたのか、バスケ部女子も引き下がる。
「温泉に拠点を移しても、そのうち発見されるのは同じでは?」
腐ーちゃんが、鋭い質問をする。
たしかにその通りなのだが、見つかってからの対処が違うのだ。
「洞窟暮らしと屋敷暮らしでは、扱いが変わるだろう。
塀もあるし、そこへ踏み込んで来るような蛮族ならば、撃退しても問題ない。
こちらも敷地内への侵入を拒否することぐらいは出来るはずだ」
捜索隊は、行方不明の冒険者を探そうとして動いただけの、おそらく善意の人達だ。
この拠点でもGKとカブトン、クモクモに守ってもらうことは出来るが、その善意の人達に危害を加える訳にもいかない。
それに、まさか行方不明の冒険者が盗賊兼業だったとは、思っていないはず。
盗賊兼業の奴らのようにモラルが低い連中でないのならば、塀のある敷地に踏み込んで来る粗相を犯すとは思えない。
「ああ、ここってまともな家とは見做されないよねー」
腐ーちゃんも納得してくれた。
「実は、任意の眷属の卵を召喚出来るようになったかもしれない。
ゴラムの仲間を指名で召喚出来れば、家の建築が早まるはずだ」
実はこれこそが、拠点を変えることを急いでも問題ないと思った理由だった。
ゴラムと仲間で建築速度が2倍になる。
問題は、その眷属卵が孵るまでの時間なんだよな。
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