第112話 同級生との遭遇
カドハチの店だけでほとんどの私物の買い物は終わった。
この後は
だが、カドハチの店だったから良かったものの、他の人目の多い往来の露天などで爆買いをされると悪目立ちする。
召喚者がどのように扱われるか判らない現状では、俺たちが召喚者であることを隠さなければならないのだ。
「いい? カドハチの店だから誤魔化しが利いたけど、道端の露天では周囲にどんな目があるかわからないんだからね?
捕まって奴隷になるなんて嫌でしょ?
なるべく買い物は目立たないようにね?」
「わ、わかってるわよ」
結衣と
忘れていたとしても紗希みたいに堂々と出来ないものだろうか?
「じゃあ、まず剣を買いに武器屋ね」
武器屋には、オヤジに本人を連れて来ないと売れないと言われていた黒鋼の剣を買いに行く。
「本人を連れて来ました」
相変わらずオヤジがカウンターで睨んでくる。
ここのオヤジは怖いので言葉に気をつける。
変に気分を害したら売ってくれない可能性があるのだ。
「おう、
帯剣しているのが紗希だけなので、判ったのだろう。
オヤジが紗希を嘗めまわすように見る。
黒鋼の剣に値する使い手か見分されているのだろう。
嫌らしい目でみているわけではない。と思う。
「今使っている剣を見せろ」
紗希が無言で数打ちの剣を鞘ごと渡す。
それをオヤジがスラリと抜いて刃をじっくり見ている。
あ、紗希のやつ、剣の手入れってしたことあるのか?
ちょっと拙いかもしれない。
「まあ、いいだろ」
え? 合格?
「手入れをした形跡は無いが、腕が良いのか綺麗にしてる」
おい、紗希、やっぱり手入れしてないのかよ!
腕が良いというのはスキルのおかげか、運動神経が良いおかげか。
偶然だろうが、助かった。
バレー部女子とバスケ部女子には剣の手入れをさせておこう。
「兄ちゃん、手入れの仕方を教えとけ!
それが売る条件だ!」
「はい」
なんだろう、ここのオヤジは女性に甘い?
オヤジは店の奥を漁ると、俺の黒鋼の剣より少し長めの剣を持ってきた。
紗希に合わせた剣ということなのだろう。
「金板1枚に金貨10枚」
俺のより高いじゃん!
まあ、必要なものだから良いんだけどね。
俺たちは支払いを済ますと店から出た。
ちなみに数打ちの剣は回収された。
おまけでくれたと思っていたのに、繋ぎで貸すことがおまけなのね。
「はあ。息が詰まったわ。
あんな思いしてまで、この武器屋で買う必要あるの?」
「物が良いんだよ。他では買えないと思うよ」
たぶん。客を選ぶのは冒険者ギルドの目の前という立地から、変な客が多いせいだろう。
素人に扱えない剣を売って儲けるつもりは無いということだと思う。
「あら?」
店を出ると、俺たちの目の前に女騎士という出で立ちの女性が立っていた。
かなり上等の装飾がついた鎧を着ており、お付きの騎士を後ろに侍らせていて、その女騎士が重要人物だとわかる。
なぜか、その女騎士が俺たちを凝視している。
「サッカーちゃんに、メガネちゃん。
裁縫ちゃんに、三つ編みちゃんもいる。
無事だったのね」
皆で何だこの女騎士はと思って見ていると、その女騎士は小声で俺たちの正体を言い当てた。
ちなみに俺のことは記憶にないらしい。転校生がいたことを忘れているんだろうな!
となると、この女騎士は……まさか、ヤンキーチームの!
「忘れちゃったの? 私よ。
女性騎士が小声で伝えて来る。
「「「「さちぽよ!!」」」」
その女騎士はヤンキーチームのさちぽよだった。
茶髪でこんがり小麦色に焼いた肌だったのに、黒髪白肌になっている。
口調もおかしい。というか口調が改善されている!
「くっ!」
拙いぞ。どうやらさちぽよはこの短期間で洗脳あるいは肉体改造を受けているようだ。
国の飼い犬、奴隷勇者まっしぐらコースではないか!
後ろの騎士たちはお目付け役だろう。
「キャスリーン様、どうかなされましたか?」
「いいえ、可愛い子たちだったから、つい声をかけてしまいましたわ」
え? さちぽよ、俺たちを庇ってくれているのか?
「そうですか」
お付きの女性騎士は怪訝な表情を浮かべたが、さちぽよの言葉に引き下がった。
「王宮で生活できるって言ったのに、訓練訓練で息が詰まるわ。
他の子たちは、今どうなっているのかしら?」
さちぽよが女性騎士に愚痴りだす。
どうやら、彼女たちの現状を教えてくれているらしい。
良い子じゃないか、さちぽよ。
「キャスリーン様、そのような話はこんな往来では……」
「はあ、騙されましたわ。
身の安全を願って庇護下に入ったのに、やることは危険なことばかり。
私たちの自由はどこにあるの?」
「こ、こちらに。これ以上は市井の者に聞かせてはなりませぬ」
女性騎士に連れられて行ったキャスリーンことさちぽよは、女性騎士たちに見えないように俺たちに小さく手を振って去って行った。
「拙いな。やはりこの世界、召喚者を好きなように使役するために召喚したようだ」
「さちぽよ、色々情報を教えてくれたね」
「ああ、自由がなく、他のメンバーとも接触させてもらえていないようだな」
異世界召喚では最悪のパターンだ。
「さちぽよたち、助けられないかな」
瞳美ちゃんがそう言うのも解るが、むしろ俺たちが危険だって自覚した方が良い。
「今は、俺たちの安全を優先しよう。
力を蓄えないと、8人対国軍じゃ勝ち目があるわけが無い」
「そうね、捕まらないようにしないとね」
「うん、さちぽよだったから機転を利かせてくれたけど、他のヤンキーたちだったらどうなっていたか……」
確かに、ヤンキーたちは空気が読めるような頭は持っていなかったものな。
俺たちの街行きは危険が伴うことが発覚した。
身を隠すためにローブぐらいは買った方が良さそうだな。
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